上 下
32 / 47

32、付いてきた来た理由【魔獣ジュリアス視点5】

しおりを挟む

 ハロルド王子の部屋でサイモンさんがカルロスさんの呪いを解くように聖女様に迫っている。
 だが、聖女様が言い返した。

「聖女はなんでも出来る万能なのかよ」

 その通りだ。
 いくら聖女様でも呪いまでは……。

 サイモンさんが僕に確認してきた。

「魔獣、聖女は呪いを解くことができるんだよな」
「すみません。僕もわかりません」
「お前、今さらなんだよ!」
「……すみません」

 そんなとき、衛兵たちがドカドカと乗り込んできた。
 すぐに気が付いたサイモンさんが聖女様の首に腕を回し、兵士たちに出て行けと怒鳴った。

 兵士の人が説得を試みたが、サイモンさんは聖女様を解放するつもりがないみたいだ。そしてサイモンさんが逆上し、聖女様の首に巻いた腕に力を入れようとした。

 その時だ、部屋に閃光が走る。

 あまりにも強い光に目を閉じた。

 ガシャガシャ――。

 近くで音が聞こえたかと思ったら、ドンっと身体に強い衝撃を受けた。気が付けば、僕は盾で床に押さえつけられていた。

 横を見れば僕の隣にいるサイモンさんも、僕と同じように盾で押さえつけれている。でもその顔は怒りではなく、悲しみに満ちていた。ソファにいる横たわっているカルロスさんを見ていたからだ。

 すでにカルロスさんの顔は黒鉄色になっていた。

 あの靴のように朽ち果てる。
 そんな悲しい想像が頭によぎった。

 サイモンさんも僕と同じように感じていたのか、すでに諦めたのか、もう暴れることはなかった。兵士の人たちに後ろに腕を回され、立つように言われていた。

 そのときだ、また眩い光が部屋に現れた。

 波打つように光が右足から徐々にカルロスさんの全身に広がっていく。
 それは、これまで見たこともない神々しい光だった。

 皆が、茫然とその光景を見ていたとき、サイモンさんが兵士たちの腕を振り払い、カルロスさんの傍に駆け寄った。

「カルロス! カルロス!」

「兄ちゃん……」

 呪いは解けたようで、カルロスさんの黒くなっていた顔は元に戻っていた。

「よかった、カルロス。お前が元に戻って、本当によかった」
「ごめん、兄ちゃん。心配かけて」

 サイモンさんが、カルロスさんを抱きしめた。
 そうして二人は兵士たちに連れて行かれた。

 僕は覚悟を決めていた。

 僕なんかが王子の部屋に乗り込んだのだ。
 反逆罪で処刑だろう。
 言い訳はできない。

 ふっと、博美さんの顔が思い浮かんだ。

 博美さんはこんな姿の僕のことを普通に接してくれた初めての人。

 ああ、そっか……。
 もう博美さんとも会えなくなるんだ。

 胸が苦しくなる。

 そして、あの笑顔を思い出すと胸の奥が切なくなる。

 こんな僕のことを可愛いと言い、僕の毛並みで遊んで、無邪気な子供みたいに笑う。

 一緒にいると楽しくて、その笑顔をずっと見ていたいと思ってしまう。

 ピクニックも楽しかった。

 久しぶりに出かけた外は美しかった。
 太陽の日差しを受けて、青々と茂った緑の庭園。

 でも、ご飯を食べながらつい博美さんの顔を見てしまう。
 ふくれっ面や照れた笑い、コロコロ変わる表情に僕はどんどん彼女のことが好きになった。

 今でもあの人の姿がこの目に焼き付いている。

 ああ、楽しかった。本当に楽しかった。

 思い出すと、笑みがこぼれる。

 これが幸せというものだろうか。
 本当にいい思い出が出来た。

 できれば、処刑される前にもう一度博美さんに会いたかった。
 感謝の言葉を伝えたかった。

「魔獣さん、魔獣さん」

 声を掛けられ、振り向けばエミリーさんがいた。

「どうしてエミリーさんがここに……、それにお腹のケガは」

「ああ、それでしたら大丈夫です。それよりも、博美様が魔獣さんのことをとても心配されていました」

 すでに部屋には兵士の人たちは居なくなっていた。でもすぐに僕を捕らえに来るはずだ。

「……すみません。そして博美さんにお伝えください。ピクニックはとても楽しかったです。こんな素敵な思い出を最後にありがとうございましたと」

「最後の思い出?」

「僕は処刑されるでしょう。このような騒動を起こしてしまいましたから」

 エミリーさんがじっと僕の目を見て言う。

「ですが、魔獣さんはサイモンに無理やり連れてこられたのでしょう」

 僕は首を横に振った。

「サイモンさんに、カルロスさんを連れて聖女の部屋について行くように言われましたが、自分の意思でもありました。もし、聖女様に呪いを解く力があったら……、そのような希望のようなことを胸に、王子の部屋まで来たのです。聖女様にも恐い思いをさせてしまいました。だから、僕は処刑されてもしょうがありません」

「そんなことは絶対にさせません! 絶対に」

 エミリーさんが強く言う。不思議に思った。

「どうして、エミリーさんがそこまで僕のことを?」

「だって、魔獣さんがそのようなことになれば博美様が悲しまれます。私も悲しいです。ですから魔獣さんも諦めないでください。博美様や私のためにも」

「そう……、ですか……」

 エミリーさんに返事をしながら、僕は視界が滲むのがわかった。
 僕が居なくなれば悲しんでくれる人がいる。

 それだけで僕は……、こんな姿でも、生きていてよかったと思えた。

「任せてください魔獣さん。交渉術を博美様から教わっていますから」

 エミリーさんは笑って、そう言った。

 もう一度、博美さんと会いたい。
 だから僕も最後まで諦めない。

「はい、お願いします。エミリーさん」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしを嫌う妹の企みで追放されそうになりました。だけど、保護してくれた公爵様から溺愛されて、すごく幸せです。

バナナマヨネーズ
恋愛
山田華火は、妹と共に異世界に召喚されたが、妹の浅はかな企みの所為で追放されそうになる。 そんな華火を救ったのは、若くしてシグルド公爵となったウェインだった。 ウェインに保護された華火だったが、この世界の言葉を一切理解できないでいた。 言葉が分からない華火と、華火に一目で心を奪われたウェインのじりじりするほどゆっくりと進む関係性に、二人の周囲の人間はやきもきするばかり。 この物語は、理不尽に異世界に召喚された少女とその少女を保護した青年の呆れるくらいゆっくりと進む恋の物語である。 3/4 タイトルを変更しました。 旧タイトル「どうして異世界に召喚されたのかがわかりません。だけど、わたしを保護してくれたイケメンが超過保護っぽいことはわかります。」 3/10 翻訳版を公開しました。本編では異世界語で進んでいた会話を日本語表記にしています。なお、翻訳箇所がない話数には、タイトルに 〃 をつけてますので、本編既読の場合は飛ばしてもらって大丈夫です ※小説家になろう様にも掲載しています。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

虐げられていた黒魔術師は辺境伯に溺愛される

朝露ココア
恋愛
リナルディ伯爵令嬢のクラーラ。 クラーラは白魔術の名門に生まれながらも、黒魔術を得意としていた。 そのため実家では冷遇され、いつも両親や姉から蔑まれる日々を送っている。 父の強引な婚約の取り付けにより、彼女はとある辺境伯のもとに嫁ぐことになる。 縁談相手のハルトリー辺境伯は社交界でも評判がよくない人物。 しかし、逃げ場のないクラーラは黙って縁談を受け入れるしかなかった。 実際に会った辺境伯は臆病ながらも誠実な人物で。 クラーラと日々を過ごす中で、彼は次第に成長し……そして彼にまつわる『呪い』も明らかになっていく。 「二度と君を手放すつもりはない。俺を幸せにしてくれた君を……これから先、俺が幸せにする」

聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!

幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23  女性向けホットランキング1位 2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位  ありがとうございます。 「うわ~ 私を捨てないでー!」 声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・ でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので 「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」 くらいにしか聞こえていないのね? と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~ 誰か拾って~ 私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。 将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。 塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。 私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・  ↑ここ冒頭 けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・ そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。 「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。 だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。 この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。 果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか? さあ! 物語が始まります。

最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜

黄舞
ファンタジー
 勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。  そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは…… 「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」  見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。  戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中! 主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です 基本的にコメディ色が強いです

処理中です...