25 / 47
25、呪い【魔獣ジュリアス視点4】
しおりを挟む「呪いだと!?」
サイモンさんが目を見開く。
「はい。カルロスさんの足首にある黒い痣。それは魔法を跳ね返す呪いの力。それに、そのブーツを見るとすでに劣化が始まっています」
僕は床に転がったブーツに目を向けた。
ブーツは黒く変色した足首部分から、徐々に広がっている。
「これは、朽ち果ての呪いだと思います」
「朽ち果ての呪いだと……」
「その靴を履いた人は、革が劣化するように朽ち果てていくのです」
僕の言葉にサイモンさんは愕然とした表情になった。
「呪いなんて嘘だろ……。革が劣化するように、ってなんだよ! その後はどうなるんだよ。カルロスは、いったい、どうなるんだよ!」
僕は力なく首を左右に振った。それを見たサイモンさんは胸に抱いたカルロスさんをぎゅっと抱きしめる。
「なんだよ……。なんで、カルロスが呪いなんかに掛からなきゃいけないんだ……。俺たちばかりひどい目に……、呪いなんてあり得ないだろ……」
サイモンさんが何かに気が付いたように僕をみた。
「そうだ! 呪いの腕輪や指輪なら、対となっているモノがあるんだろ。それならば、このブーツと対となっているものを探せばいいんだ、な、そうだろ」
「それらは縛りの呪いです。腕輪や指輪に主従関係を掛ける呪いです。ですが、カルロスさんは朽ち果ての呪いをかけられています」
「じゃ、無理なのか……。誰もカルロスを助けられないって言うのか」
「呪いは強い呪怨から来るものですから、魔法でも解呪はできません。カルロスさんの場合は、そのブーツが原因だと見ます。ですが、どうしてカルロスさんが呪いのブーツなんて身に着けることになったのですか」
僕はカルロスさんが履いていた黒く変色したブーツを見ながらサイモンさんに尋ねてみた。
「ちがう……。違うんだ。カルロスが呪いの靴を履いたわけじゃない。最初からカルロスが身に着けていた普通のブーツだった。だが、狼に噛まれて……。そうだ、あの銀色の狼の仕業だ」
銀色の狼……。
僕はその言葉にひっかかりを覚えたが、サイモンさんの話を黙って聞くことにした。
「あの銀色の狼のせいで、カルロスはこんなことになったんだ。今朝、この屋敷にドワーフが来て、その傍らに銀色の狼も居た。小汚いドワーフがこの街で商品を売りたいから、領主に取り次いでほしいとバカなことを言うから、俺が追い払った。だが、なかなか帰らず、大きな革袋を見せてきて、この袋の中には村で作ったものが入っている。これを街で売りたいと、また同じことを言うから、カルロスが、脅かすついでに、持っている剣でドワーフの持っているその大きな革袋をひょいっと取り上げた。そしてカルロスはドワーフに向けてこう言ったんだ。『人間の領地は、お前らドワーフが来ていいところじゃない。これは俺がもらってやる』そのときだ、ドワースの傍にいた銀色の狼がカルロスの足首を噛んだ」
サイモンさんは忌々しいというような目で、黒く変色したブーツをみる。
「俺が剣で狼を切ろうとしたら、すでに奴らの姿は消えていた。カルロスはこれぐらいなんともないと平然と笑っていた。俺もカルロスの噛まれた右足首を見たが、ブーツに穴が開いているだけだった。だが、しばらくすると、カルロスは足が痛い、痛いといいだし、そのうち倒れてしまった」
カルロスさんが噛まれた右足のブーツ。たぶん噛まれたときに朽ち果ての呪いが発動し、身に着けていたカルロスさんよりもブーツの方が先に劣化が始まった。そして今では黒くなっていたブーツはボロボロと崩れていく。
「銀色の狼……。そして呪いの力……」
そう言っている僕の視線の先では、ブーツはサラサラと黒い砂のようなものになり、床の上に残された。
「なぁ、本当は呪いなんかじゃないんだろ。カルロスは、ただのケガじゃないか。いや、毒の可能性だってあるだろ。ちゃんと見てくれよ。だって銀色の狼といっても、見た目は普通の狼だった。そんな狼が呪いなど掛けられるはずないだろ」
黒い砂のようになった靴をその目で見てもサイモンさんはそう言い続ける。本当はサイモンさんもこれが呪いだと薄々気づいているはずだ。でも、認めたくないんだ。どこかに希望を見いだそうとしている。その気持ちが僕にはよく分かる。
けれど……。
「カルロスさんに呪いを掛けたのは狼じゃなく……、フェンリルではないでしょうか」
「フェンリル……? まさか!? フェンリルなど、伝説の魔物だろ。それにもし、あの狼が本当にフェンリルなら、もっとデカいはずだろ。俺が見たのは、普通の大きさの狼だった」
「まだ子供のフェンリルかもしれません。それにドワーフと一緒にいたというのなら、ドワーフの村で育てられていた可能性もあります」
「だから何だってんだ、そんな魔物がドワーフに育てられたからって……」
そこまで言うと、何かに気が付いたように、
「まさか、ドワーフがフェンリルを操り、カルロスに呪いをかけたと言うのか」
「そこまではわかりません。ですが伝説の魔物フェンリルには特別な力があると古い書籍にも載っています。そんな魔物であっても、小さなころから育てると他種族に懐き、意思の疎通ができるとも書かれていました」
「本当にあの狼がフェンリルなのか……。なんてことだ……。どうすればこの呪いは解けるんだ……」
「すみません、わかりません……」
「くそ、くそ、くそ! どうすれば、カルロスを助けられるんだ……。お前がダメなら、誰が呪いを解くっていうんだよ……」
カルロスさんを抱き締め、サイモンさんが絶望する姿に、僕はただ見ているだけしか出来なかった。
「いや、待てよ……、そうだ。あの女がいるじゃないか」
サイモンさんの目が鋭く光った。
24
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
拝啓。聖女召喚で得た加護がハズレらしくダンジョンに置いてきぼりにされた私ですが元気です。って、そんな訳ないでしょうが!責任者出て来いやオラ!
バナナマヨネーズ
恋愛
私、武蔵野千夜、十八歳。どこにでもいる普通の女の子。ある日突然、クラスメイトと一緒に異世界に召喚されちゃったの。クラスのみんなは、聖女らしい加護を持っていたんだけど、どうしてか、私だけよくわからない【応援】って加護で……。使い道の分からないハズレ加護だって……。はい。厄介者確定~。
結局、私は捨てられてしまうの……って、ふっざけんな!! 勝手に呼び出して勝手言ってんな!
な~んて、荒ぶってた時期もありましたが、ダンジョンの中で拾った子狼と幸せになれる安住の地を求めて旅をすることにしたんですよ。
はぁ、こんな世界で幸せになれる場所なんてあるのかしら?
全19話
※小説家になろう様にも掲載しています。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。
氷雨そら
恋愛
聖女としての力を王国のために全て捧げたミシェルは、王太子から婚約破棄を言い渡される。
そして、告げられる第一王子との婚約。
いつも祈りを捧げていた祭壇の奥。立ち入りを禁止されていたその場所に、長い階段は存在した。
その奥には、豪華な部屋と生気を感じられない黒い瞳の第一王子。そして、毒の香り。
力のほとんどを失ったお人好しで世間知らずな聖女と、呪われた力のせいで幽閉されている第一王子が出会い、幸せを見つけていく物語。
前半重め。もちろん溺愛。最終的にはハッピーエンドの予定です。
小説家になろう様にも投稿しています。
二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~
今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。
こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。
「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。
が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。
「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」
一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。
※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる