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23、特別な力です

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 エミリーが手でお腹を隠している部分に視線を向けてその異変が見て取れた。エミリーの手の間から、もやもやとした赤みが広がっているのだ。

「ちょっと見せて」

 博美はエミリーの手を握り、持ち上げると腹部をじっくり見る。

 やはりそうだ。
 さっきよりも危険信号が激しく点滅している。

「な、なにをされるのですか、博美様……」

 エミリーがお腹を手で隠そうとするのを阻止しながら、博美はその個所をじっと見ながら言った。

「出来るかわからないけど」
「え……?」
「ううん、絶対に出来る。必ず出来る」

 博美は腹部を見つめながら、心の中で唱える。

 赤い靄よ消えて……。
 お願い……。

 しばらくすると、エミリーのお腹から赤い靄がふわりと浮いた。

 そう、そのまま、そのまま。

 赤い靄が空中に広がり消え去った。でもまだこれから。

 エミリーの痛みや傷がなくなって、どうか、お願いします。

 博美の願いが通じたように、押さえているエミリーのお腹から黄金の光が広がっていく。
 そして光が止んだ。

「痛みが……、どうして」

 エミリーが驚いたように、お腹をさすっている。

「どうかな?」

「はい、痛みが無くなりました」

 それを聞いた博美はホッとした。

 しかし、エミリーは信じられないというような表情で、まだ自分のお腹をさすりながら自分の腹部を見ている。

「あの衝撃と痛みなら、臓器まで達していたはずなのに……」

 顔を上げたエミリーは博美を見る。その眼が語っていた。
 いったいどうやってしたのかと――。

「ええっとね、本当に出来るかわからなかったけど、やってみたの」

 博美はこれまでの経緯を話し始めた。

「エミリーがピクニックの用意をしてくれているとき、わたし、一旦、自分の部屋に戻ったでしょ」

「はい、ここに来る前にちょっと試したいことがあるとおっしゃって、魔獣さんの部屋から出たときですよね」

「うん。魔獣さんのところで毒除去の魔法を見ていて、自分でもできるかもしれないと急にそんな考えが頭に思い浮かんだ。でも、違っていたら恥ずかしいし、だから、部屋にある枯れた植木から毒の除去をしようと、こっそり部屋に戻って試してみたかったの」

「その植木というのは、今朝、博美様の食事に出された毒入りパンを、私が鉢に撒いて水を掛けたものですよね」

「そう、あの枯れた植木。最初に、パンから紫色の陽炎のようなものが見えたときは何かとわからなかったけど、エミリーがパンに毒が入っていると教えてくれたでしょ。それでパンから立ち上がる紫のモヤは毒だと確信した。そのあと魔獣さんの部屋で見た毒除去を見て、紫色のモヤを消せば、パンと同じように植木に流れた毒が除去できるんじゃないかと思ったの」

「それで博美様は、植木の毒の除去を成功せたのですか?」

「植木の鉢から紫色のモヤは除去できたけど、それだけじゃダメだった。木は枯れたままだったから。次にまた念じてみたの。植木が元に戻りますようにって。すると、キラキラと温かい光が見えて、生き生きとして花が咲いた」

「枯れた植木に花が咲いたなんて……」

 エミリーは信じがたい表情で呟いていたが、博美は話をつづけた。

「そんなことがあったから、あの乱暴者のサイモンという男から殴られた後、エミリーのお腹辺りに赤いモヤが見えたときに、心配になったの。これはただ事じゃないなって。枯れた木に花を咲かせたように、同じことをやってみようと思ったの」

「そうでしたか……。そのお力は、特別な力です」

 特別な力?

 突然、エミリーが博美の手を握った。

「約束通り、博美様のお力は口外しません」

「え? ああ、うん」

「博美様にそのような力があると知られれれば、誰にどのように利用されるかわかりません。魔獣さんのように」

「魔獣さんのように?」

「ええ、ハロルド王子が魔獣さんを地下から出さないのは、強い魔力や魔法の知識があるからです。それを他の人に知られない様にしているのです。そして王子は魔獣さんを利用し、異世界から聖女召喚計画を実行した」

「魔獣さんは、王子の命令によって聖女召喚をさせられたと……」

「はい。ですから博美様も他人事ではありません。ハロルド王子が博美様の力を知ったのならば、絶対に博美様を手放さないはず。マユ様を第一夫人、そして博美様を第二夫人として迎えるに違いありません」

「第二夫人!?」

「ええ、そうです」

 博美はゾゾゾっと鳥肌立ったのがわかった。

 いやだ、そんなの絶対にいやだ。

「絶対にバレないようにする。それよりもエミリー大丈夫? なんだか目が赤いけど」

 元々、エミリーの瞳は薄い赤色だったが、今は爛々と赤く輝いている。

「これは……、博美様の特別な力を目の当たりにして、少々興奮してしまいました。博美様は、私の命の恩人ですから」

「大げさだよ、エミリー」

「いいえ、大げさではありません。本当に助かりました。しかし、むやみやたらにその力は使わないでください。博美様のお力は特別なもの。周りにバレないようにしてください」

「ああ、うん、そうだね」

 これほどエミリーが念押しすることなのだから、気をつけた方がいいんだ。
 それに、絶対あの王子の第二夫人なんて嫌だ。

 博美は自分の手を見る。

 特別な力……。 

 もしかして聖女の力ってことかな?

 でも、エミリーは聖女の力と言わなかった。

 ま、いいか。どうせ聖女はあのマユという子に決まったんだから。

 それに、目立つということはやっかいなことだ。嫉妬もされるし、妬みもされる。

 そしてエミリーが言うように利用しようとする人たちも出てくるだろう。

 奴隷商に売られ、あの地下で王子にいいように利用されて続けている魔獣のことを考えると博美は胸が痛んだ。

 そこでハッと気が付いた。

「そうよ。魔獣さん、いったいどこへ連れて行かれたのかな。ひどい目に合っていなければいいけれど」

 博美は心配になった。
 エミリーを殴って大けがをさせたサイモンという男はいったいどこへ魔獣を連れて行ったのか。

「サイモンは、魔獣さんに危害は加えないと思います。屋敷の裏口に向かっていましたから、魔獣さんの部屋でしょう」
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