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三章 王都
36、王都の異変
しおりを挟むダンジョンから出てきたサラ達は、朝もやの森を歩いていた。
「ねぇ、レンさん、今日は何日?」
パウロがレンに聞いた。
「これをするのは抵抗があるが、ま、しょうがない。ステータスオープン」
そう言ってレンが何もない上空に手をかざす。
――あれ?
何も見えない。
宙を見上げているサラに、
「俺にしか見えないんだ……」
と、サラの考えていることがわかったようで、レンはちょっと、はにかんでいた。
「で、今日は何日よ、レンさん」
パウロに再度聞かれて、レンが応える。
「ダンジョンに入って三日が経っている」
「そうなんですね」
なんだかあっという間だったな……。
そうして二人の後を続いて歩いていると、パウロが振り返ってサラに言葉をかけてきた。
「ねぇ、サラさん。ダンジョンの中と外では時間の進み方が違うんだけど、今回は予定通りに戻って来られて良かったよね、サラさん!」
「うん、そうだね」
嬉しそうなパウロにサラは笑顔で応えたが、内心は複雑だった。
二人はこの後、どうするのかな……、チャルに帰るのかな……。
そんな思いで二人の背中を見ていたら、
「きゃっ」
振り返ったレンが、すばやく手を差し出していた。
「おっと、大丈夫かな?」
差し出された手を、サラは咄嗟に掴んでいた。
「あ……、す、すみません」
ぼうっと考えながら歩いていたら、わたしったら、木の根っこに足を取られてレンさんに支えてもらった。
「慣れないダンジョンで疲れただろ。家まで送ろう」
「僕も行く!」
「ありがとうございます」
そうしてサラは、レンとパウロに家まで送ってもらうことになった。
※※※
森から街へ帰ってきたサラは、王都バリアンヌの様子に驚いた。
青空の下、メインストリートは閑散としていた。一番活気づく昼間だというのに、通りには旅行者の格好をした人たちが疎らにいるだけだった。
バリアンヌに住む貴族や大富豪の人たちは、そっと屋敷の中から外の様子を眺めているようだ。
たしか、今日は王女様の八歳のご生誕祭。
街中のあちらこちらに誕生祭の飾り付けがしてあるのに、それに相反して、どこかひっそりとした雰囲気が漂っている。
しかも街角には黒い軍服姿の兵士たちが立っていて、紙にかかれた人物画をみながら、誰かを探しているようだった。
あれは……、たしかラモード将軍の隊だったような……。
黒い軍服に身を包む彼らは、旅人の恰好をした人だけに目を光らせていた。
「ねぇ、レンさん。向うから、なんだかダンジョンボス、赤毛のイノブタのような人が来るよ」
パウロが言うとレンが噴き出した。
「ぶっ、お前、それ失礼じゃないか。人間とモンスターをいっしょにするとは」
二人の視線の先に、閑散とした大通りの真ん中、遥か向こうから、赤い何かがこちらへ向かって来ているのが見えた。だが、サラの目にはまだ人の姿だと確認もできない。
「僕が言っているのはそういう意味じゃなくて、赤いドレスがイノブタに見えない?」
サラにも、やっと人だとわかる距離まで来ていた。
パウロが言うように、赤いドレスの袖のふわりとしたところが耳のようで、胸のふくらみのデザインが目、ウエストのしぼったところは顔、そしてきゅっと絞ったウエストについたリボンが鼻の穴のようだ。
その赤いドレスを着た人物が誰か、分かり始めた。
あれは、もしかしてアリーシャさん……?
やはりそうだ。
ドスドスと石畳を鳴らし、赤いドレスをつまみ、一直線でこちらに走ってくる女性は緋色の髪を取り乱しながら、物凄い勢いでこちらに向かってきている。
「ねぇ、レンさん、もしかしてあの人のことをイノブタだと思ったんでしょ。でもさ、わかるよね。あの風格と迫力はダンジョンボスクラスだよね、サラさん!」
突然話を振られて、サラは困惑した。
「え、えっと……」
言い淀むサラに、レンがフォローに回る。
「いくら自分をクビにした女店主であろうが、サラが、そのようなことを口に出来るわけないだろ」
パウロは驚き、目を丸くする。
「えっ!? あの人が、レンさんを店から追い出し、サラさんをクビにした人なのっ!? ふーん、やっぱり、すごいよね、あの迫力」
「ああ……。だが、余程のことがここ数日であったのだろう。ずいぶんと痩せたようにみえる」
「ええっ!? マジで? 痩せたのに、あんなに立派なんだ。やっぱりさ、ライバーツ王国って食べ物が違うのかな……。僕もあんなに、大きくなりたいなぁ」
パウロは頭の後ろで腕を組み、羨ましそうに言っている。
そんなレンとパウロのやりとりの向こうで、アリーシャが徒ならぬ様子でこちらに一直線に向かって来ている。
いったい何事なのだろうかと、サラは茫然と見ていた。
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