35 / 78
閑話
35、パウロの過去 ~レンとの出会い~
しおりを挟む魔界では、ゴォゴォーと噴火している火山の地帯がある。
星が煌めく空の下に、その噴火している火山のゴツゴツした黒い岩場を、ユニコーンの親子が走っていた。
輝く白いツノを持ち、美しい母親のユニコーンは黄金の鬣を靡かせ、白い首を傾けながら子供の足のスピードに合わせて、身体を寄せるように走っていた。母親に置いて行かれない様に寄り添うように走る、仔馬ほどの小さなユニコーンにもツノがあった。
走りながら、子供のユニコーンが母親に尋ねた。
「ねぇ、お母さん。どうしてお父さんを置いていくの」
「お父さんはね、わたしたちを逃がすために囮になってくれているのよ」
「おとり?」
「そうよ。ゴブリンたちの集団のなかではお父さんとお母さんは戦いながら、あなたを守れないの。だからお父さんが注意を引いてくれたの」
「守れないから、注意を引くの?」
「ええ、そうよ。だからあなたも頑張って走らないといけない。立ち止まったらダメなの」
「うん、わかった。僕がんばるよ。だってお父さんと約束したの。僕が大きくなったら海が見える場所に連れて行ってくれるって。だから頑張って、たくさん食べて大きくなるの。お父さん、待っててくれるかな」
「そうね……、もしかしたら、お父さんが先にひとりで行ってしまったかもしれない。でもね、お父さんはあなたが大きくなるのを待っている。だからひとりになっても頑張って大きくなるのよ」
「おかあさん、どうして止まったの?」
子供のユニコーンも止まって、母親の傍に行く。
「お母さんもお父さんの所に行かないといけなくなったの。ゴブリンたちが来たから。でも、坊やは走りなさい。ずっとずっと遠くへ走るの。いっぱい食べて大きくなるのよ。これはお父さんとお母さんの願いだから」
「おかあさん、どうして泣いているの?」
「あなたとお別れをしないといけないから。だからよく聞いて。あなたがひとりぼっちになっても、お父さんとお母さんはあなたをずっと見守っている。あなたはわたしたちの大切な宝物。だから、振り向かないで走るの。走って走って、走り続けて。約束できる?」
「うん、約束する」
「わたしたちの大切な坊や。今日の夜空のように、お星になって、あなたを見守っているから」
「お父さんとお母さんは、お星になるの?」
「そうよ、お星さまになって、あなたの傍にいるから。さあ、行きなさい」
「うん、わかった」
※※※
どうして僕は走っているんだろう。
誰かと約束した気がする。
ずっとずっと走るって。いっぱい食べて大きくなるって。
誰と約束したんだろう――。
いくら考えてもわからないけれど、そのことを思い出すと心が温かくなる。
だから、僕はずっと走り続ける。
いっぱい食べて、走り続ける。
ここはどこだろう。
気が付いたら、おかしな場所にいた。
変な感じ。
薄暗くて、冷たくて、僕の足音が大きく響く。
なんでみんな戦っているんだろう。
あの二本足で立っているのはゴブリンかな。
どうしてアレがゴブリンって僕、わかったんだろう。
ま、いいや。とにかく、走って走って、走ろう。
「おい、そこの一角獣。どうして攻撃をしてこない。どうして走ってばかりいる」
ゴブリンが話しかけてきた。でも、僕は走らないといけないんだ。
「一角獣、とまれ!」
あれ、おかしいな。走れない。走らないといけないのに。
「ったく、なんだこの一角獣は。おい、聞こえているだろう。返事をしろ」
「ゴブリン、どうして僕の足をとめた」
「だれが、ゴブリンだ。俺は人間だ」
「人間?」
「ああ、俺の名はレン。貴様はこのダンジョンのボスだろう。どうしてずっと走っている。俺に攻撃をしてこない」
「誰かに言われたんだ、走れって」
「お前はそれを守っているのか」
「うん、約束したから」
「誰と?」
「わかんない。けれど約束した」
そう応えると、僕のことをじっと見てきて、こう言った。
「一角獣の年齢は……、105歳? おまえ、もしかして、異空間の狭間でずっと走り続けていたのか」
「異空間の狭間?」
「だがな、このダンジョンボスとして現れた以上、このままではお前はいつか冒険者に倒される。いつまでもそうして、逃げ回っているわけにはいかないだろう」
「でも僕は走らないといけない。頑張って食べて、大きくならないといけない。約束したから」
「そうか、わかった。好きにしろ。気をつけろよ」
あれ? 走れる。また走れるようになった。でも、なんだろう。あの背中をみていたら、誰かを思い出すような気がする。大きくて、あたたかな背中。
お父さん……?
「ねぇ、どこに行くの? 炎のお山? 海が見える場所?」
「いいや、俺は街へ戻る。ここは魔人のダンジョンじゃなかったからな」
「じゃ、僕も行くよ」
「は? 何を言っている。お前は一角獣だろ。どうして人間の街へ行きたがる」
「わかんない。けど、置いてけぼりはもう嫌だ」
「まあ、ここにいても、いつかは倒されるか……。だが、その姿じゃ無理だ。使役して俺と同じ人間の姿にしてやろう。それでもいいなら、ついてこい」
「ゴブリンは嫌だ」
「だから、俺は人間だと言ってるだろ!」
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど
金時るるの
恋愛
目覚めたら猫娘になっていました。
異世界で行き倒れになりかけたユキを助けてくれたのは、食堂『銀のうさぎ亭』の人々。
おまけに目覚めたら猫耳としっぽの生えた亜人になっていた。
途方に暮れるユキだったが、食堂でのウェイトレスの仕事を与えられ、なんとか異世界での生活の糧を得ることに成功する。
けれど、そんな人々を片っ端から援助しているマスターのせいで、食堂の経営は芳しくない様子。
ここは助けてくれた恩になんとか報いなければ。
と、時には現代日本で得た知識を活用しつつもユキが奔走したりする話。
(前半はほぼ日常パートメインとなっております)
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる