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「霧の大陸と赤い月の伝説~光の使徒が紡ぐ再生の物語~」
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ファンタジー小説:「霧の大陸と赤い月」
第一章 霧の中の訪問者
大陸は永遠の霧に覆われていた。陽光はその厚いベールを貫くことができず、人々はわずかな灯火と星明りを頼りに生きていた。霧の彼方には、誰も知らない世界が広がっていると言われているが、それを確かめようとした者は誰一人帰ってこなかった。
カスパル村はそんな霧の中でも特に閉ざされた場所だった。わずか五十人足らずの住民が畑を耕し、家畜を育て、慎ましく暮らしている。村の外れには巨大な赤い樹がそびえ立ち、その根元に祀られている古い石碑には、「霧が晴れる時、大いなる試練が訪れる」と記されている。
その夜、赤い月が空を支配していた。
「リーサ、霧が厚くなってきたよ。今日は外に出ないほうがいい。」
村長の老いた声が少女に呼びかける。リーサは十七歳、村でもっとも若い存在で、漆黒の髪と灰色の瞳を持っていた。彼女は村でただ一人、霧の中を恐れない変わり者として知られている。
「村長、大丈夫ですよ。私はただ、赤い樹を見に行くだけです。」
薄手の外套を羽織りながら答えるリーサ。その瞳には好奇心と少しの不安が混じり合っていた。霧の向こうで何が起こるのか、彼女はずっと知りたかった。なぜ村の人々は霧を恐れるのか? そして、赤い樹がどうしてこんなにも不気味な存在として扱われているのか。
「気をつけなさいよ、リーサ。」
村長の声を背に、リーサは霧の中へと足を踏み入れた。赤い樹までの道は何度も歩いたことがある。それでも、今夜の霧はいつもと違っていた。まるで、何かが彼女を試すように動いているかのようだった。
リーサが赤い樹の下にたどり着くと、そこにはいつもと違う光景が広がっていた。霧がまるで生き物のように動き、樹を取り巻くように渦を巻いている。いつもなら静寂に包まれた場所から、低い唸り声のような音が聞こえてきた。
「誰か、いるの…?」
声を出した瞬間、霧が一層濃くなり、視界が完全に遮られる。次の瞬間、リーサの前に人影が現れた。
それは人の形をしていたが、全身を黒いローブで覆っており、顔は霧に隠されて見えない。その者は低い声で言った。
「選ばれし者よ、ついに現れたか。」
リーサは一瞬身を引いたが、その声にはどこか聞き覚えがあった。幼い頃から何度も夢の中で聞いたことのある声だった。
「私が…選ばれた者?何のことを言っているの?」
「赤い月の夜、この霧の大陸に終焉と再生が訪れる。だが、その運命を変える力を持つ者はただ一人。お前だ。」
その言葉に、リーサの胸は高鳴った。何も知らずに平穏な村で過ごしてきた自分が、どうしてそんな重要な役目を持つのか。
「私はただの村娘よ。そんなこと、信じられない。」
「否定しても無駄だ。お前がその力を持つ証拠は、この地に刻まれている。」
黒いローブの人物が樹の根元にある石碑を指し示す。リーサが近づいてみると、そこに描かれた文字がぼんやりと輝き出した。それは古代文字であり、村では誰も読めないはずのものだった。しかし、リーサの目にはその意味がはっきりと浮かび上がる。
石碑の刻印
「赤い月が導く者、霧の王を討ち、世界に光を取り戻せ。」
リーサの体が震えた。なぜ自分だけがこの文字を読めるのか、どうして自分がこの運命に巻き込まれたのか、答えはわからない。
「霧の王…それは、何なの?」
「お前が知る必要はない。ただ、この霧を支配する存在だ。奴を倒さなければ、この地に再び光は戻らない。」
その言葉に、リーサの心に一瞬迷いがよぎる。だが、そのとき不意に霧が渦巻き、ローブの人物の姿が消えた。
「待って!あなたは一体誰なの?」
何も答えは返ってこなかった。ただ霧の中に残されたのは、小さな輝く短剣だった。リーサはそれを手に取り、深く息を吸った。
第二章 村の秘密
翌朝、村に戻ったリーサは、村長に昨夜の出来事を話すべきか悩んでいた。だが、短剣を手にした瞬間、これが単なる夢ではないことを確信する。
村長の家を訪ねたリーサは、赤い月の伝説について問いただした。村長は少しの間口を閉ざしたが、やがて重い口を開いた。
「リーサ、あれは村の禁忌だ。赤い月の夜、村人は何も語ってはならない。お前がその石碑の言葉を読めたのなら、もう引き返せないだろう…」
「どういう意味?」
「お前の両親が霧に飲まれた夜、彼らも同じ選ばれし者だったのだ。」
その言葉にリーサは衝撃を受けた。幼い頃に亡くした両親が、自分と同じ運命を背負っていたとは…。
「なぜ今まで何も教えてくれなかったの?」
「お前が普通の村人として生きられるようにしたかった。それが、私たちの願いだったのだ。」
村長の目には深い悲しみが宿っていた。だがリーサはすでに心を決めていた。
「私は真実を知りたい。そして、もし私に何かできるのなら、この霧を晴らしたい。」
村長は静かにうなずき、古びた地図を差し出した。それは霧の大陸全土を描いたものだった。
「霧の中心には、古代の城がある。その場所に霧の王がいると言われている。だが、お前一人では無理だ。旅の仲間を見つけなさい。」
リーサは地図と短剣を手に、村を後にする決意を固めた。彼女の胸には、霧の向こうに待つ運命と、両親の残した謎を解く強い意志が燃えていた。
それでは、「霧の大陸と赤い月」を1万字規模で執筆します。ただ、すべてを一度に表示するのは難しいため、章ごとに少しずつ完成させていきます。一旦、第1章から第3章程度を完全版として仕上げます。その後、続きの章を追加していく形で進めますね。
第三章 出会いの予感
リーサは地図と短剣を手に、初めて村の境界を越えた。道は険しく、霧は視界を奪い続ける。それでも彼女の胸には、不安以上の期待があった。両親が辿った道を知り、自分の力で霧の王に立ち向かうために。
数時間歩き続けると、突然霧の中にぼんやりと人影が見えた。警戒心を抱きながら近づくと、それは背中に巨大な剣を背負った男だった。彼の顔はまだ若く、だがその瞳には歳不相応の鋭さがあった。
「ここはお嬢さんが歩けるような場所じゃない。戻ったほうがいい。」
その男は低い声でそう言うと、リーサを一瞥した。しかしリーサは怯まず、短剣を握りしめた。
「私は戻らない。この霧の向こうに行かなきゃならない理由があるの。」
「理由だと?そんなものが命より大事だというのか?」
男の問いに、リーサは即座に答えた。
「命を守るために、霧を晴らす方法を探しに行くの。」
男はしばらく黙り込んでから、ゆっくりと剣を下ろした。
「名前は?」
「リーサ。」
「俺はカイだ。剣士をやってる。ただの酔狂なら追い返すつもりだったが…どうやら本気らしいな。いいだろう、少しは助けてやる。」
こうしてリーサは最初の仲間を得た。
第四章 霧の魔獣
旅の中盤、霧がさらに濃くなり、二人は進むのに苦労し始めた。そのとき、霧の中から奇怪な音が響く。低い唸り声と共に、巨大な影が現れた。それは霧そのものが形を成したかのような魔獣だった。
「下がってろ、リーサ!」
カイが剣を抜き、魔獣に立ち向かう。だが魔獣は霧を操り、攻撃をかわし続ける。リーサはただ見守るしかなかったが、ふと短剣が赤く輝き始めるのを感じた。
「この剣…どうして?」
短剣を握りしめると、リーサの体に力が満ちる感覚があった。そして、彼女は直感的にその力を魔獣に向けて放つ術を理解した。
「行け、リーサ!何かできるならやってみろ!」
リーサは短剣を掲げ、その光を魔獣に向けて放つ。霧を吸収するように魔獣が崩れ落ち、やがて霧の中に溶けていった。
「…すごいじゃないか。お前、本当にただの村娘じゃないな。」
カイの言葉に、リーサは初めて自分の中の力を実感する。そして、旅の目的がさらに重要なものだと確信するのだった。
第五章 隠された街
カイとリーサは霧をかき分けながら地図を頼りに進んでいた。地図には「霧の街」とだけ記されている場所があったが、それが何を意味するのかは村長ですら知らなかった。
道中、霧は徐々に薄れ、やがて二人の目の前に古い石畳の道が現れた。まるでそこだけ時間が止まっているかのように、草一本生えていない。しかし、その静けさには不気味なものが漂っていた。
「霧が薄い…何かあるな。」
カイは剣に手をかけながら辺りを見回す。一方、リーサは不思議な感覚に引き寄せられるように石畳を進んでいった。
「ここに…何かがいる気がする。」
リーサがつぶやいた瞬間、霧の中から一人の男が現れた。長いローブに身を包み、白髪の髪と紫の瞳を持つその男は、杖を手にしていた。
「よく来たな、旅人たち。」
男は低い声で言った。その声には威厳があり、ただの人間ではないことを示している。
「お前は誰だ?」
カイが剣を抜いて警戒するが、男は動じることなく微笑んだ。
「名をルシアンと言う。この霧の街の守護者だ。」
「霧の街…本当にここに存在していたのか?」
リーサは驚きの声を上げた。村の伝説で語られる霧の街。それは、霧の王によって滅ぼされた古代の文明の遺跡だとされていた。
「この街は滅びたが、まだ完全には消えていない。君たちがここに来たのは偶然ではない。特に君、リーサ。君が短剣を持つ者であることは運命だ。」
ルシアンはリーサを見据え、短剣に目を留めた。
第六章 霧の王の正体
ルシアンの案内で二人は霧の街の奥深くに足を踏み入れた。そこには巨大な図書館があり、数千年分の知識が詰まっているようだった。ルシアンは一冊の古い書物を手に取り、リーサにそれを見せた。
「これを読めるか?」
リーサは本を手に取り、目を通した瞬間、文字が浮かび上がるように感じた。以前赤い樹の石碑で文字を読めたときと同じ感覚だ。
書物の内容:霧の王の真実
霧の王はかつて大陸を守る役割を持った存在だった。しかし、千年前、ある出来事をきっかけにその力が暴走し、霧が大陸全体を覆うようになった。
王を止める方法はただ一つ。短剣を持つ「光の使徒」が霧の中心で儀式を行い、王を封印しなければならない。
「つまり、霧の王は悪ではない…?」
リーサは疑問を口にした。ルシアンは静かにうなずく。
「その通りだ。彼は大陸の守護者だったが、今ではその役目を果たせなくなっている。それを修復できるのは君だけだ。」
だがそのとき、図書館全体が揺れ始めた。霧の王の配下である「霧の使者」たちが、二人の行動を察知したのだ。
第七章 試練の塔
ルシアンは二人を急かし、霧の街の奥にある巨大な塔へと案内した。塔には「光の使徒」が真の力を得るための試練が待ち構えているという。
「ここで試練を乗り越えれば、君は霧を晴らす力を完全に得られる。」
リーサは覚悟を決め、塔の中へと足を踏み入れた。塔の中には過去の記憶や両親の幻影が現れ、彼女の心を揺さぶる仕掛けが施されていた。
「なぜ私だけが選ばれたの?こんな責任、重すぎる…」
幻影の中で両親は優しく語りかけた。
「リーサ、大丈夫。あなたは私たちよりも強い子だ。」
その言葉にリーサは涙を流しながら進み、ついに塔の頂上にたどり着く。そこで彼女は短剣の力を完全に解放し、光の力を手に入れた。
第八章 裏切りと絆
塔を降りたリーサたちは、再び霧の街に戻る。しかし、そこで仲間の一人であるルシアンが、実は霧の王に操られていることが明らかになる。
「ルシアン…どうして…?」
「許せ、リーサ。私は王の意思を無視することができない。」
ルシアンは最後の力で自分を制御し、霧の王の元へ行く道を二人に示す。
「私の意思では止められない。だが、君たちなら霧を終わらせることができる。」
第九章 決戦の地
霧の中心にある「永遠の宮殿」で、ついにリーサたちは霧の王と対峙する。その姿は巨大な人影のようで、完全に霧と融合している。
「私を止めに来たのか、光の使徒よ。」
王の声はどこか悲しげだった。リーサはその言葉に戸惑いながらも、短剣を構えた。
「あなたを倒したいわけじゃない。この霧を晴らしたいだけなの!」
激しい戦いの末、リーサは短剣の力で王を封印する儀式を開始する。その最中、王の正体がかつての大陸の守護者であり、彼もまた犠牲者であったことを知る。
第十章 新しい光
霧の王が封印されると同時に、霧は大陸全体から消え去った。リーサは霧の街に戻り、カイや新たな仲間たちと共に、平穏な世界を取り戻すための新しい旅を始めることを決意する。
第一章 霧の中の訪問者
大陸は永遠の霧に覆われていた。陽光はその厚いベールを貫くことができず、人々はわずかな灯火と星明りを頼りに生きていた。霧の彼方には、誰も知らない世界が広がっていると言われているが、それを確かめようとした者は誰一人帰ってこなかった。
カスパル村はそんな霧の中でも特に閉ざされた場所だった。わずか五十人足らずの住民が畑を耕し、家畜を育て、慎ましく暮らしている。村の外れには巨大な赤い樹がそびえ立ち、その根元に祀られている古い石碑には、「霧が晴れる時、大いなる試練が訪れる」と記されている。
その夜、赤い月が空を支配していた。
「リーサ、霧が厚くなってきたよ。今日は外に出ないほうがいい。」
村長の老いた声が少女に呼びかける。リーサは十七歳、村でもっとも若い存在で、漆黒の髪と灰色の瞳を持っていた。彼女は村でただ一人、霧の中を恐れない変わり者として知られている。
「村長、大丈夫ですよ。私はただ、赤い樹を見に行くだけです。」
薄手の外套を羽織りながら答えるリーサ。その瞳には好奇心と少しの不安が混じり合っていた。霧の向こうで何が起こるのか、彼女はずっと知りたかった。なぜ村の人々は霧を恐れるのか? そして、赤い樹がどうしてこんなにも不気味な存在として扱われているのか。
「気をつけなさいよ、リーサ。」
村長の声を背に、リーサは霧の中へと足を踏み入れた。赤い樹までの道は何度も歩いたことがある。それでも、今夜の霧はいつもと違っていた。まるで、何かが彼女を試すように動いているかのようだった。
リーサが赤い樹の下にたどり着くと、そこにはいつもと違う光景が広がっていた。霧がまるで生き物のように動き、樹を取り巻くように渦を巻いている。いつもなら静寂に包まれた場所から、低い唸り声のような音が聞こえてきた。
「誰か、いるの…?」
声を出した瞬間、霧が一層濃くなり、視界が完全に遮られる。次の瞬間、リーサの前に人影が現れた。
それは人の形をしていたが、全身を黒いローブで覆っており、顔は霧に隠されて見えない。その者は低い声で言った。
「選ばれし者よ、ついに現れたか。」
リーサは一瞬身を引いたが、その声にはどこか聞き覚えがあった。幼い頃から何度も夢の中で聞いたことのある声だった。
「私が…選ばれた者?何のことを言っているの?」
「赤い月の夜、この霧の大陸に終焉と再生が訪れる。だが、その運命を変える力を持つ者はただ一人。お前だ。」
その言葉に、リーサの胸は高鳴った。何も知らずに平穏な村で過ごしてきた自分が、どうしてそんな重要な役目を持つのか。
「私はただの村娘よ。そんなこと、信じられない。」
「否定しても無駄だ。お前がその力を持つ証拠は、この地に刻まれている。」
黒いローブの人物が樹の根元にある石碑を指し示す。リーサが近づいてみると、そこに描かれた文字がぼんやりと輝き出した。それは古代文字であり、村では誰も読めないはずのものだった。しかし、リーサの目にはその意味がはっきりと浮かび上がる。
石碑の刻印
「赤い月が導く者、霧の王を討ち、世界に光を取り戻せ。」
リーサの体が震えた。なぜ自分だけがこの文字を読めるのか、どうして自分がこの運命に巻き込まれたのか、答えはわからない。
「霧の王…それは、何なの?」
「お前が知る必要はない。ただ、この霧を支配する存在だ。奴を倒さなければ、この地に再び光は戻らない。」
その言葉に、リーサの心に一瞬迷いがよぎる。だが、そのとき不意に霧が渦巻き、ローブの人物の姿が消えた。
「待って!あなたは一体誰なの?」
何も答えは返ってこなかった。ただ霧の中に残されたのは、小さな輝く短剣だった。リーサはそれを手に取り、深く息を吸った。
第二章 村の秘密
翌朝、村に戻ったリーサは、村長に昨夜の出来事を話すべきか悩んでいた。だが、短剣を手にした瞬間、これが単なる夢ではないことを確信する。
村長の家を訪ねたリーサは、赤い月の伝説について問いただした。村長は少しの間口を閉ざしたが、やがて重い口を開いた。
「リーサ、あれは村の禁忌だ。赤い月の夜、村人は何も語ってはならない。お前がその石碑の言葉を読めたのなら、もう引き返せないだろう…」
「どういう意味?」
「お前の両親が霧に飲まれた夜、彼らも同じ選ばれし者だったのだ。」
その言葉にリーサは衝撃を受けた。幼い頃に亡くした両親が、自分と同じ運命を背負っていたとは…。
「なぜ今まで何も教えてくれなかったの?」
「お前が普通の村人として生きられるようにしたかった。それが、私たちの願いだったのだ。」
村長の目には深い悲しみが宿っていた。だがリーサはすでに心を決めていた。
「私は真実を知りたい。そして、もし私に何かできるのなら、この霧を晴らしたい。」
村長は静かにうなずき、古びた地図を差し出した。それは霧の大陸全土を描いたものだった。
「霧の中心には、古代の城がある。その場所に霧の王がいると言われている。だが、お前一人では無理だ。旅の仲間を見つけなさい。」
リーサは地図と短剣を手に、村を後にする決意を固めた。彼女の胸には、霧の向こうに待つ運命と、両親の残した謎を解く強い意志が燃えていた。
それでは、「霧の大陸と赤い月」を1万字規模で執筆します。ただ、すべてを一度に表示するのは難しいため、章ごとに少しずつ完成させていきます。一旦、第1章から第3章程度を完全版として仕上げます。その後、続きの章を追加していく形で進めますね。
第三章 出会いの予感
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数時間歩き続けると、突然霧の中にぼんやりと人影が見えた。警戒心を抱きながら近づくと、それは背中に巨大な剣を背負った男だった。彼の顔はまだ若く、だがその瞳には歳不相応の鋭さがあった。
「ここはお嬢さんが歩けるような場所じゃない。戻ったほうがいい。」
その男は低い声でそう言うと、リーサを一瞥した。しかしリーサは怯まず、短剣を握りしめた。
「私は戻らない。この霧の向こうに行かなきゃならない理由があるの。」
「理由だと?そんなものが命より大事だというのか?」
男の問いに、リーサは即座に答えた。
「命を守るために、霧を晴らす方法を探しに行くの。」
男はしばらく黙り込んでから、ゆっくりと剣を下ろした。
「名前は?」
「リーサ。」
「俺はカイだ。剣士をやってる。ただの酔狂なら追い返すつもりだったが…どうやら本気らしいな。いいだろう、少しは助けてやる。」
こうしてリーサは最初の仲間を得た。
第四章 霧の魔獣
旅の中盤、霧がさらに濃くなり、二人は進むのに苦労し始めた。そのとき、霧の中から奇怪な音が響く。低い唸り声と共に、巨大な影が現れた。それは霧そのものが形を成したかのような魔獣だった。
「下がってろ、リーサ!」
カイが剣を抜き、魔獣に立ち向かう。だが魔獣は霧を操り、攻撃をかわし続ける。リーサはただ見守るしかなかったが、ふと短剣が赤く輝き始めるのを感じた。
「この剣…どうして?」
短剣を握りしめると、リーサの体に力が満ちる感覚があった。そして、彼女は直感的にその力を魔獣に向けて放つ術を理解した。
「行け、リーサ!何かできるならやってみろ!」
リーサは短剣を掲げ、その光を魔獣に向けて放つ。霧を吸収するように魔獣が崩れ落ち、やがて霧の中に溶けていった。
「…すごいじゃないか。お前、本当にただの村娘じゃないな。」
カイの言葉に、リーサは初めて自分の中の力を実感する。そして、旅の目的がさらに重要なものだと確信するのだった。
第五章 隠された街
カイとリーサは霧をかき分けながら地図を頼りに進んでいた。地図には「霧の街」とだけ記されている場所があったが、それが何を意味するのかは村長ですら知らなかった。
道中、霧は徐々に薄れ、やがて二人の目の前に古い石畳の道が現れた。まるでそこだけ時間が止まっているかのように、草一本生えていない。しかし、その静けさには不気味なものが漂っていた。
「霧が薄い…何かあるな。」
カイは剣に手をかけながら辺りを見回す。一方、リーサは不思議な感覚に引き寄せられるように石畳を進んでいった。
「ここに…何かがいる気がする。」
リーサがつぶやいた瞬間、霧の中から一人の男が現れた。長いローブに身を包み、白髪の髪と紫の瞳を持つその男は、杖を手にしていた。
「よく来たな、旅人たち。」
男は低い声で言った。その声には威厳があり、ただの人間ではないことを示している。
「お前は誰だ?」
カイが剣を抜いて警戒するが、男は動じることなく微笑んだ。
「名をルシアンと言う。この霧の街の守護者だ。」
「霧の街…本当にここに存在していたのか?」
リーサは驚きの声を上げた。村の伝説で語られる霧の街。それは、霧の王によって滅ぼされた古代の文明の遺跡だとされていた。
「この街は滅びたが、まだ完全には消えていない。君たちがここに来たのは偶然ではない。特に君、リーサ。君が短剣を持つ者であることは運命だ。」
ルシアンはリーサを見据え、短剣に目を留めた。
第六章 霧の王の正体
ルシアンの案内で二人は霧の街の奥深くに足を踏み入れた。そこには巨大な図書館があり、数千年分の知識が詰まっているようだった。ルシアンは一冊の古い書物を手に取り、リーサにそれを見せた。
「これを読めるか?」
リーサは本を手に取り、目を通した瞬間、文字が浮かび上がるように感じた。以前赤い樹の石碑で文字を読めたときと同じ感覚だ。
書物の内容:霧の王の真実
霧の王はかつて大陸を守る役割を持った存在だった。しかし、千年前、ある出来事をきっかけにその力が暴走し、霧が大陸全体を覆うようになった。
王を止める方法はただ一つ。短剣を持つ「光の使徒」が霧の中心で儀式を行い、王を封印しなければならない。
「つまり、霧の王は悪ではない…?」
リーサは疑問を口にした。ルシアンは静かにうなずく。
「その通りだ。彼は大陸の守護者だったが、今ではその役目を果たせなくなっている。それを修復できるのは君だけだ。」
だがそのとき、図書館全体が揺れ始めた。霧の王の配下である「霧の使者」たちが、二人の行動を察知したのだ。
第七章 試練の塔
ルシアンは二人を急かし、霧の街の奥にある巨大な塔へと案内した。塔には「光の使徒」が真の力を得るための試練が待ち構えているという。
「ここで試練を乗り越えれば、君は霧を晴らす力を完全に得られる。」
リーサは覚悟を決め、塔の中へと足を踏み入れた。塔の中には過去の記憶や両親の幻影が現れ、彼女の心を揺さぶる仕掛けが施されていた。
「なぜ私だけが選ばれたの?こんな責任、重すぎる…」
幻影の中で両親は優しく語りかけた。
「リーサ、大丈夫。あなたは私たちよりも強い子だ。」
その言葉にリーサは涙を流しながら進み、ついに塔の頂上にたどり着く。そこで彼女は短剣の力を完全に解放し、光の力を手に入れた。
第八章 裏切りと絆
塔を降りたリーサたちは、再び霧の街に戻る。しかし、そこで仲間の一人であるルシアンが、実は霧の王に操られていることが明らかになる。
「ルシアン…どうして…?」
「許せ、リーサ。私は王の意思を無視することができない。」
ルシアンは最後の力で自分を制御し、霧の王の元へ行く道を二人に示す。
「私の意思では止められない。だが、君たちなら霧を終わらせることができる。」
第九章 決戦の地
霧の中心にある「永遠の宮殿」で、ついにリーサたちは霧の王と対峙する。その姿は巨大な人影のようで、完全に霧と融合している。
「私を止めに来たのか、光の使徒よ。」
王の声はどこか悲しげだった。リーサはその言葉に戸惑いながらも、短剣を構えた。
「あなたを倒したいわけじゃない。この霧を晴らしたいだけなの!」
激しい戦いの末、リーサは短剣の力で王を封印する儀式を開始する。その最中、王の正体がかつての大陸の守護者であり、彼もまた犠牲者であったことを知る。
第十章 新しい光
霧の王が封印されると同時に、霧は大陸全体から消え去った。リーサは霧の街に戻り、カイや新たな仲間たちと共に、平穏な世界を取り戻すための新しい旅を始めることを決意する。
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言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
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