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第5話「アリシアの奮闘!魔族の心を掴むお菓子作り」
しおりを挟む「さて……ここで失敗したら、魔族の皆さんと仲良くなるどころか、大変なことになっちゃうかも。」
アリシアは厨房の隅で小さく呟きながら、エプロンをしっかりと結び直した。目の前には魔王城の料理人たちが作業を止め、彼女の動きをじっと見つめている。
「本当にお前に何か作れるのか?」
ひときわ大柄な料理長が腕を組み、険しい表情で問いかける。
「大丈夫です!これでも実家ではお菓子作りを任されてましたから!」
彼女は明るく答えると、手際よく用意された材料を確認し始めた。
「えっと、砂糖は……これかな?あ、卵もある!」
だが、調味料や材料は人間界のものと少し違うようで、戸惑いながらもアリシアはなんとか準備を進めていく。
---
周囲の料理人たちは冷ややかな目で見守っていた。
「人間が魔族の味を理解しているとは思えないな。」
「これで失敗すれば、自分から出て行くだろう。」
そんな声が飛び交う中、アリシアは真剣な表情で作業を続けた。手にしたボウルの中で混ぜられていく生地を見ながら、小さく呟く。
「私の気持ち、伝わるといいな……」
彼女が選んだのは、シンプルなクッキーだった。甘さ控えめで、魔族の舌にも合うようにと配慮を重ねた。
---
オーブンから香ばしい香りが漂い始めると、厨房の空気が少し変わった。
「……なんだ、この匂い。」
「悪くない、かも?」
料理人たちがざわつき始める中、アリシアは焼き上がったクッキーを取り出し、慎重に盛り付けをした。
「できました!試食してみてください!」
彼女が差し出したクッキーを、料理長が一つ手に取り、口に運ぶ。その瞬間、彼の険しい表情が少しだけ柔らかくなった。
「……意外と悪くない。」
その言葉に、周囲の料理人たちも次々と手を伸ばし、口に運んでいく。そして――
「これ、普通に美味いぞ。」
「甘さ控えめで食べやすい……。」
「人間にしては、やるじゃないか。」
次々と聞こえてくる称賛の声に、アリシアはほっと胸を撫で下ろした。
「やった……!」
---
その夜、玉座の間に戻ったアリシアを、俺は少し呆れた顔で出迎えた。
「厨房で何をしていた?」
「魔族の皆さんと仲良くなりたくて、お菓子を作らせてもらったんです!」
満面の笑みを浮かべるアリシアに、俺は少しだけ目を見張った。
「……結果はどうだった?」
「みんな美味しいって言ってくれましたよ!これで少しは仲良くなれたかも!」
その答えに、俺は苦笑を浮かべた。彼女の無邪気さが、少しずつだが魔族たちの心を動かしているのかもしれない。
「まあいい。だが、無茶はするなよ。」
「はい!ありがとうございます、魔王様!」
その笑顔に、俺は言いようのない安堵を覚えた。
---
翌日、厨房の料理人たちがアリシアに声をかけた。
「おい、昨日のクッキー、また作れるか?」
「いや、俺たちも手伝うから、新しいレシピを考えてみないか?」
その言葉に、アリシアは目を輝かせて頷いた。
「もちろんです!みんなで作りましょう!」
こうして、アリシアと魔族たちの距離は少しずつ縮まっていった。
次回:アリシアの次なる挑戦!魔族たちとの交流が新たな展開を迎える!?
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