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第4話「魔族たちとの距離感」
しおりを挟む「魔王様、あの人間の少女をどうするおつもりですか?」
玉座の間で、長老の一人であるバルガが神妙な面持ちで尋ねてきた。彼はこの城の中でも特に保守的な考えを持つ者の一人だ。
「どうするとは?」
俺は冷静に問い返す。
「人間、それも勇者の妹など、魔王城に置いておけば内部の士気が乱れます。既に兵士たちの間では不満の声が……」
「聞き飽きた。和平の象徴として彼女を迎えた以上、俺の保護下にある。それ以上の問題は起きない。」
「しかし、彼女が魔王様にとって厄介な存在になる可能性も……」
「ならば、俺が責任を持つ。」
俺がそう断言すると、バルガは渋々とした様子で頭を下げた。だが、彼の表情には不安の色が消えていなかった。
---
その頃、アリシアは城内の廊下を一人で歩いていた。
「ふむふむ……ここが大広間で、向こうが台所……」
彼女の手には城内の簡単な地図があり、それを見ながら探索しているようだった。そんな彼女の前に、一人の魔族が現れる。
「おい、人間の娘。」
低く唸るような声で話しかけてきたのは、角の生えた大柄な魔族の衛兵だった。鋭い眼差しがアリシアを捉える。
「……はい?」
一瞬怯んだ様子を見せながらも、アリシアは相手に笑顔を向けた。
「魔王様に気に入られているからといって、調子に乗るなよ。お前が何を企んでいるか知らないが、俺たちは騙されない。」
その言葉に、アリシアの笑顔が引きつる。だが、すぐに彼女は真剣な目で言い返した。
「そんなつもりはないです!私は魔王様の邪魔をしに来たんじゃなくて、魔族の皆さんと仲良くなりたくて……!」
「ふん、口だけだな。」
衛兵は嘲笑を浮かべながら去っていった。その背中を見送ったアリシアは、拳をぎゅっと握りしめた。
「……どうしたらわかってもらえるんだろう。」
---
その夜、俺は城内を巡回している途中で、庭のベンチに座り込んでいるアリシアを見つけた。
「ここで何をしている?」
俺が声をかけると、彼女は少し驚いた表情で振り返った。
「あ、魔王様……」
どこか元気のない声だった。
「何かあったのか?」
彼女は少し迷った後、今日の出来事を話し始めた。衛兵とのやり取りや、どうすれば魔族たちに受け入れてもらえるのか悩んでいることを。
「私はただ、皆と仲良くしたいだけなのに……」
その言葉に、俺は少し考え込んだ。
「簡単ではないだろう。魔族と人間の間には長い歴史がある。だが、君が本気でそう思うなら、まずは一歩ずつ信頼を築くしかない。」
「一歩ずつ……ですか?」
「そうだ。行動で示せば、いずれ君の思いは伝わるはずだ。」
彼女はしばらく考え込んだ後、小さく頷いた。
「わかりました!まずは、何か私にできることを探してみます!」
その笑顔を見て、俺は少しだけ安心した。
---
翌朝、アリシアは厨房を訪れた。そこでは、魔族の料理人たちが忙しそうに働いていた。
「おはようございます!私、何かお手伝いできることはありますか?」
突然の訪問に、料理人たちは驚きの表情を浮かべた。
「お前、人間のくせに何を……」
「私、お菓子作りなら得意なんです!何か作らせてください!」
そう言って、彼女は自信満々に腕をまくった。
次回:アリシアのお菓子が魔族たちの心を動かす!?彼女の奮闘が始まる!
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