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第37話、ある騎士の話①【血濡れの狂騎士】
しおりを挟む「私と結婚をしていただけませんか、クラウス様」
このままこの女を串刺しにしても、誰も文句を言わないだろうとその時思った。
しかし、殺してしまったら間違いなくこの国で断罪されるのかもしれない。
クラウス・エーデルハットは姉と弟、そして父と母の五人家族で、長男として姓を受けた。
祖父はエーデルハットで有名な騎士だった。
祖父のように強くなりたいと願ったクラウスは、トワイライト王国の騎士となり、ある戦争で名誉をもらう程強い力の持ち主だった。
しかし、敵からも、味方からも恐れられるようになる、『血濡れの狂騎士』と呼ばれるようになってしまったのは、想定外だった。
まるで狂ったように敵を倒す姿が本当に恐ろしかったらしい。
「愛想がないからよ、クラウス」
笑顔でそのように言った姉、クラリス・エーデルハット。
姉のクラリスの言う通り、昔からクラウスは愛想が悪かった。
勘違いされる事もあったが、クラウスの事をわかってくれる友人達も何人かいたので、別に愛想がなくても大丈夫だろうと思っていた。
クラリスは最近よく言うようになったのは、恋愛方面の方だ。
「将来が心配だわ……そんな顔じゃ、お嫁さんに来てくれる人いないでしょうきっと」
「いなかったらいないで大丈夫だ姉さん。姉さんとガイルの二人が結婚して子供を作れば、この家も安泰だ」
「もう、本当に……」
「殿下とはどこまでいったんだ、姉さん?」
「クラウス!」
ちなみに姉のクラリスは最近第一王子である人物と良い関係を気づいているらしい。昔から幼馴染として、友人として、そしてもしかしたら婚約者になるのではないだろうかと言う話も出てきたぐらいである。
クラリスは最初は断っていた。
しかし、気持ちの方が優先になっていたのかもしれない。
好き同士の二人が仲良くなってくれれば良いと思いながらクラウスはいつものように生活をしてきたのだが――
ある日、宮廷魔術師たちの間で禁忌とされる魔術、『勇者召喚』が行われた。
出てきたのは勇者ではなく、聖女だった。
聖女の名前はミレイ・フジサキと言うらしい。
なぜ異世界から少女を召喚させる事をしたのか、クラウスには全くわからなかった。とにかくクラウスの日常には変わりなかったのである。
変わり始めたのは、第一王子が弟のガイルと共に隣国に留学しに行った数週間後に起きたのである。
「……ルフトはどうした?」
「ルフトならまた聖女様のところに行ったぜ。なんか、呼ばれたらしい」
「そうか……」
ミレイと言う少女は少しずつ、気に入った男性に声をかけて、そしてまるでハーレムのようなものを作り上げていく。
騎士たちも数人、いつの間にか聖女の方に行ってしまい、訓練が疎かになっており、友人であるルフトも聖女の方に行ってしまった。
クラウスの周りに少しずつ、友人達、同僚達がいなくなり、聖女の方に行ってしまう。
「……」
何かがおかしくなりはじめているのではないだろうかと思いながら、クラウスは毎日、騎士としての自分の仕事をした。
「ねぇ、クラウス。クラウスは最近王宮で第二王子様を見かける?」
「いや、最近見かけないが……どうかしたのか姉さん?」
「ええ……婚約者のマーレ様から相談を受けて……最近第二王子様、王宮から出てこないで聖女様の所に行っている見たいなの」
「マーレ様を放っておいて?」
「ええ、マーレ様を放っておいて」
「……」
そこまで侵食されているのかと考えると頭が痛かった。
抑えるようにしながら何も答えないクラウスに対し、クラリスは不安そうな顔をしながら話を続ける。
「最近聖女様の周り、気に入った男の人たちを集めて愛でているって言う噂があるのよ。クラウス、その聖女様ってどんな感じなの?」
「俺も遠目でしか見た事しかない。美人って言えば美人かもしれないが……」
「クラウス?」
嫌そうな顔をしていたのがわかっていたのかもしれない。クラリスはクラウスの頬に手を置いて、心配そうな顔をしながらこちらを見ている。
静かに息を吐いたクラウスはクラリスの手を取り、握りしめた。
「その件については調べてみる。姉さんはとりあえずマーレ様には大丈夫だと伝えておいて」
「あなたが言うならそうするけど……危険だと思ったら逃げるのよ、クラウス」
「ああ、わかってる姉さん」
どこでそれが狂ってしまったのか、クラウスにはわからない。
ただ、一度だけ遠目で見たことのある聖女の姿は、明らかに異常さを感じたから近づくことはしなかった。
このままでは自分は、あの聖女に喰われてしまうのではないだろうか、と言う気持ちもあったからである。
それからクラウスは騎士の仕事をしつつ、王宮の中を調べてみる。
相変わらずルフトは聖女のミレイと言う少女に夢中のようで、騎士の仕事など全くしていない。
最近周りの男達も徐々に聖女優先になっている。
「……守りすら、いないのか」
警護の者達も消えたり居たりと言う形になっており、このまま攻められたら間違いなくトワイライト王国は滅びてしまうかもしれない。
このままではまずい、何かを考えていた矢先、まさか聖女のミレイの方から接触してくるとは思わなかった。
「こんにちは、初めまして、えっと……クラウス様で宜しいですか?」
「……ッ!」
顔を合わせるのは初めてだった。
その時クラウスは嫌そうな顔でミレイを見てしまったのかもしれない。
明らかにミレイのその瞳は、強い魔力を感じたからである。
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