87 / 119
第4の異世界ーはるか遠くの銀河で戦う少年
第87話 ルカを鍛える
しおりを挟む
――することが無いからと言っては申し訳ないが、やることも無い俺はルカを少し鍛えてやることにした。
ヨトゥナの本拠地ヘルマイムにある訓練室へ訪れた俺は、訓練用のレヴァンソードを構える。
「じゃあルカ君、始めようか」
「は、はい」
同じくルカが訓練用のレヴァンソードを構える。
「まずは君がどれほどの剣技か見せてもらうよ。ソード以外での攻撃は無しだ」
「わかりました」
「うん」
ソードを構えるルカの様子を窺う。
いい構えだ。隙らしい隙も無い。剣の腕は十分に鍛えているようではある。
「では……いきますよっ!」
斬りかかって来たルカのソードをソードで受け、そしてそのまま横に流す。
「くっ……まだっ!」
ふたたび斬りかかって来るも、俺は同じように受け流した。
「うん。悪くない。けれど……」
三度、斬りかかって来たルカのソードを今度はかわした俺は、素早く彼の背後へと回って、首へとソードを近づけた。
「あ……と、私の負けですね。いえ、当然ですけども」
特に悔しそうでも無く、ルカは苦笑して負けを認めた。
「剣技の基本はできている。決して弱くはないよ。剣の腕だけで言えば、俺と君はそんなに変わらないと思う」
「そ、そんなことはありませんよ。ハバンさんのほうが私よりずっと強いです。現に私ではハバンさんに軽くいなされてしまっていますし」
「それは君の剣はまっすぐ過ぎるからだよ」
「まっすぐ過ぎる、ですか?」
「そうだ。君の剣には嘘が無い。だから相手に読まれやすいんだよ」
ズァーグを使ってなんとか達人レベルの戦いができているだけの俺は、剣の腕だけで言えばそれほどでもない。その俺でも軽くルカの剣をいなせたのは、彼の剣があまりにまっすぐで読みやすいからだった。
「戦い方にはその人間の心が出る。まっすぐな戦い方は君の心を現しているんだろう。相手も君と同じにまっすぐな者ばかりならばいいけど、しかし実際はそうじゃない。ひどく汚い戦い方をしてくる奴だっている。そういう相手に対して君の剣はあまりに脆弱だ」
「た、確かに……。しかしその……まっすぐでない戦いとはどうしたらできるのでしょうか?」
「ふむ。これは心の問題もあるからすぐには無理かも。そういえばイライゼンは君の戦い方に関して、なにか言っていたかな?」
「特になにも……。悪いとは言っていませんでしたが」
「そうか……」
イライゼンがどれほどに強いナイトなのかは戦いを見ていないからわからないが、弟子の欠点に気付いていなかったとしたら師匠としてはあまり有能ではないのだろうか。
「あと、君に足りないのは勝利への執念だ。絶対に勝ちたいという強い思いが君には無い。負けて悔しいという思いが感じない。君は本質的に戦いが好きではないのだろう。違うかい?」
「そ、それは……はい。私は戦いは好きではありません。戦わなくても済むのでしたら、そのほうがいいに決まっています」
「俺もそう思う。けれど守りたいものや、許せないものがあるならば戦わなければならない。戦うならば、勝たなければならない。勝つためには絶対に負けてはならないという執念が必要だ。その執念の源泉が戦う理由だけど、君はなんのために戦っている?」
「私はロキシニアス連合の平和やホーンを守るために……」
「もっと個人的な理由がいいな。名誉を得たいとかさ」
「名誉なんて、そんなものはいりません。ロキシニアス連合とホーンの未来を守ることができれば私への報酬なんていらないんです」
強い思いを感じる声音でルカはそう言う。
本当にまっすぐな少年だ。世界中がルカのような人間ばかりならば、きっと争いごとなど起きないのだろうなと俺は思う。
「しかしあえて個人的な理由を言えば……」
朗らかだったルカの表情がキッと締まる。
「私にはこの戦争で殺さなければならない者がいます。その者を殺すまでは例えこの戦争が終結しても、私の戦いは終わりません」
「ルカ君……」
まだ幼さの残る少年の表情に強い怨嗟の色が浮かぶ。
彼のような心のやさしい人間がここまで誰かを恨むとは。
殺したというそれが何者なのかは、きっと聞いてはいけないのだろう。
そう察した俺は口を噤む。
「あ……すいません。変なことを言いましたね。ははは、忘れてくださいますか?」
元の朗らかな表情に戻ったルカは困ったように笑う。
「君がそう言うなら忘れるよ。けど、そういう強い思いがあるなら、それを剣に込めるといい。それが勝ちへの執念になる」
「わ、わかりました。やってみます」
「とは言え、訓練でそれをやるのは難しいし、とりあえずはズァーグをもっと使えるようにしようか。ルカ君はどれくらいズァーグが使えるの?」
「はい。レヴァンソードが使えます」
「……ん? えっ? 他には?」
「他にはありません。これだけです」
「こ、これだけって、他にはなにも教えてもらったりしてないの?」
「はい。ナイトになったばかりの頃に訓練校でズァーグの基礎を座学にて学びました。実技での使用は師匠になる方に教えていただけるのがナイトの慣わしです」
「あ、それじゃイライゼンにズァーグの使い方を教えてもらったんだね?」
「はい。レヴァンソードの使い方を学びました」
「他には?」
「それだけです」
「……」
彼女は本当に師匠としては無能なのかもしれない。
ヨトゥナの本拠地ヘルマイムにある訓練室へ訪れた俺は、訓練用のレヴァンソードを構える。
「じゃあルカ君、始めようか」
「は、はい」
同じくルカが訓練用のレヴァンソードを構える。
「まずは君がどれほどの剣技か見せてもらうよ。ソード以外での攻撃は無しだ」
「わかりました」
「うん」
ソードを構えるルカの様子を窺う。
いい構えだ。隙らしい隙も無い。剣の腕は十分に鍛えているようではある。
「では……いきますよっ!」
斬りかかって来たルカのソードをソードで受け、そしてそのまま横に流す。
「くっ……まだっ!」
ふたたび斬りかかって来るも、俺は同じように受け流した。
「うん。悪くない。けれど……」
三度、斬りかかって来たルカのソードを今度はかわした俺は、素早く彼の背後へと回って、首へとソードを近づけた。
「あ……と、私の負けですね。いえ、当然ですけども」
特に悔しそうでも無く、ルカは苦笑して負けを認めた。
「剣技の基本はできている。決して弱くはないよ。剣の腕だけで言えば、俺と君はそんなに変わらないと思う」
「そ、そんなことはありませんよ。ハバンさんのほうが私よりずっと強いです。現に私ではハバンさんに軽くいなされてしまっていますし」
「それは君の剣はまっすぐ過ぎるからだよ」
「まっすぐ過ぎる、ですか?」
「そうだ。君の剣には嘘が無い。だから相手に読まれやすいんだよ」
ズァーグを使ってなんとか達人レベルの戦いができているだけの俺は、剣の腕だけで言えばそれほどでもない。その俺でも軽くルカの剣をいなせたのは、彼の剣があまりにまっすぐで読みやすいからだった。
「戦い方にはその人間の心が出る。まっすぐな戦い方は君の心を現しているんだろう。相手も君と同じにまっすぐな者ばかりならばいいけど、しかし実際はそうじゃない。ひどく汚い戦い方をしてくる奴だっている。そういう相手に対して君の剣はあまりに脆弱だ」
「た、確かに……。しかしその……まっすぐでない戦いとはどうしたらできるのでしょうか?」
「ふむ。これは心の問題もあるからすぐには無理かも。そういえばイライゼンは君の戦い方に関して、なにか言っていたかな?」
「特になにも……。悪いとは言っていませんでしたが」
「そうか……」
イライゼンがどれほどに強いナイトなのかは戦いを見ていないからわからないが、弟子の欠点に気付いていなかったとしたら師匠としてはあまり有能ではないのだろうか。
「あと、君に足りないのは勝利への執念だ。絶対に勝ちたいという強い思いが君には無い。負けて悔しいという思いが感じない。君は本質的に戦いが好きではないのだろう。違うかい?」
「そ、それは……はい。私は戦いは好きではありません。戦わなくても済むのでしたら、そのほうがいいに決まっています」
「俺もそう思う。けれど守りたいものや、許せないものがあるならば戦わなければならない。戦うならば、勝たなければならない。勝つためには絶対に負けてはならないという執念が必要だ。その執念の源泉が戦う理由だけど、君はなんのために戦っている?」
「私はロキシニアス連合の平和やホーンを守るために……」
「もっと個人的な理由がいいな。名誉を得たいとかさ」
「名誉なんて、そんなものはいりません。ロキシニアス連合とホーンの未来を守ることができれば私への報酬なんていらないんです」
強い思いを感じる声音でルカはそう言う。
本当にまっすぐな少年だ。世界中がルカのような人間ばかりならば、きっと争いごとなど起きないのだろうなと俺は思う。
「しかしあえて個人的な理由を言えば……」
朗らかだったルカの表情がキッと締まる。
「私にはこの戦争で殺さなければならない者がいます。その者を殺すまでは例えこの戦争が終結しても、私の戦いは終わりません」
「ルカ君……」
まだ幼さの残る少年の表情に強い怨嗟の色が浮かぶ。
彼のような心のやさしい人間がここまで誰かを恨むとは。
殺したというそれが何者なのかは、きっと聞いてはいけないのだろう。
そう察した俺は口を噤む。
「あ……すいません。変なことを言いましたね。ははは、忘れてくださいますか?」
元の朗らかな表情に戻ったルカは困ったように笑う。
「君がそう言うなら忘れるよ。けど、そういう強い思いがあるなら、それを剣に込めるといい。それが勝ちへの執念になる」
「わ、わかりました。やってみます」
「とは言え、訓練でそれをやるのは難しいし、とりあえずはズァーグをもっと使えるようにしようか。ルカ君はどれくらいズァーグが使えるの?」
「はい。レヴァンソードが使えます」
「……ん? えっ? 他には?」
「他にはありません。これだけです」
「こ、これだけって、他にはなにも教えてもらったりしてないの?」
「はい。ナイトになったばかりの頃に訓練校でズァーグの基礎を座学にて学びました。実技での使用は師匠になる方に教えていただけるのがナイトの慣わしです」
「あ、それじゃイライゼンにズァーグの使い方を教えてもらったんだね?」
「はい。レヴァンソードの使い方を学びました」
「他には?」
「それだけです」
「……」
彼女は本当に師匠としては無能なのかもしれない。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
[完結:1話 1分読書]幼馴染を勇者に寝取られた不遇職の躍進
無責任
ファンタジー
<毎日更新 1分読書> 愛する幼馴染を失った不遇職の少年の物語
ユキムラは神託により不遇職となってしまう。
愛するエリスは、聖女となり、勇者のもとに行く事に・・・。
引き裂かれた関係をもがき苦しむ少年、少女の物語である。
アルファポリス版は、各ページに人物紹介などはありません。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
この物語の世界は、15歳が成年となる世界観の為、現実の日本社会とは異なる部分もあります。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる