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第4の異世界ーはるか遠くの銀河で戦う少年

第55話 ズァーグの力

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 なんとか間に合ったみたいだな。

 目的の男。名前はルカだったか。
 本来ならばここで命を落とす運命だったみたいだが、なんとか助けることはできそうだ。

「き、貴様……っ」

 目の前の大男が怒り顔で俺を睨む。

「殺せっ! 一斉射撃だっ!」

 兵たちの持つレーザー銃がこちらを向く。

「……さて、それじゃあ特訓の成果を試すとするか」

 シミュレーター内で受けた剣術の特訓。
 レーザーが発射される刹那、俺はそれを思い浮かべていた。

 ……

「――いたっ!」

 こぶし大の丸い浮遊物から放たれたレーザーの攻撃を頭に受けて俺は仰け反る。

「ふむ。まだまだじゃな」

 と、肩に乗っている小さなツクナはため息を吐く。

「いや、レーザー……だっけ? あんなの剣で防いで消すなんて無理だよ」

 見えもしないレーザーとやらをツクナはレヴァンソードで防いで消せと言うが、できる気がまったくしない。速さは恐らく銃弾と同じくらいだし、それを剣で防げなんて無理である。

「体内に取り込んだズァーグを活性化するんじゃ。そして一部を体外に放出して周囲に纏う。纏ったズァーグは脳とリンクして、触れた部分を正確に使用者へと伝える。使用者は体内に残ったズァーグで身体能力を向上させて、体外に放出したズァーグに触れた部分をソードで防ぐ。これだけじゃ。そんなに難しくはない」
「そ、そうかな? いや、そもそもリンクってなに?」
「繋ぐという意味じゃ。わからなければ放出したズァーグが身体の一部になると考えればよい」
「う、うーん……そもそもそのズァーグってのがよくわからないんだけど」
「さっき説明したじゃろ。ズァーグとは、次に行く異世界の大気中に浮かんでいる微細な粒子のことじゃ。これを空気と共に体内へ取り込み、活性化させることで一時的に超人的な力が肉体に宿る。このシミュレーター内は次の異世界と同じ環境にしてあるから、すでにハバンの身体にはズァーグが取り込まれておる」
「いやまあ、それはわかるんだけど……。その活性化の方法がよくわからなくて」
「心を強く持つのじゃ。そして体内を巡るズァーグに活性化を促すのじゃ」
「う、ううん……」

 やっぱりよくわからん。

「しかし己の実力を超えて活性化をし過ぎると、強い力に肉体も精神も飲み込まれてしまう。そうなれば力を求めるだけの怪物になり果てるからの。気をつけねばいかんぞ」
「難しいな」
「強い心があれば、大きく活性化をしても自分を保てる。心を強く持つことじゃ」
「うん……」

 とはいえ、そもそもまだその活性化すらできないのだが。

「なあ、今さら剣なんか使わなくても、これがあれば十分じゃないか?」

 俺は機械の右腕を掲げる。

「ならばそれであれを倒してみよ」
「ん?」

 やや遠いが、レヴァンソードを持った真っ白い人型の物体が目の前に現れる。

「あれは体内のズァーグを10%ほど活性化させて、体外にも放出している仮想の敵じゃ。あれに向かって銃撃を浴びせてみるとよい」
「ん? うん」

 言われて俺はアンドロイドアームを前に突き出し、人型へ向かって人差し指から銃弾を撃つ。と、

「あっ!」

 人型は目にも止まらぬ素早さで銃弾をソードで打ち消し、

「うおおっ!?」

 一瞬で距離を詰めて、俺の首元にソードを近づけた。

「これがズァーグの力じゃ。実戦なら死んでおったぞ」
「お、おおう……」

 俺が退くと、人型は姿を消す。

「10%であれなのか……。100%ならどうなるんだ?」
「100%の活性化など、よほど精神が強靭でなければ理性は保てん。活性化に耐えられる精神が無ければ、ただ破壊を繰り返すだけの怪物になるじゃろう」
「そ、そうか」
「100%でなくとも、心の強さに見合わない活性化をするのも同じことじゃ。気をつけねばいかんぞ」
「うん」
「しかしもし活性化100%で理性を保てれば、その世界では最強になれる」
「ふーん……」

 それはすごいけど、ともかくはまずズァーグを使えるようにならなければ最強もなにもない。

「本来ならば戦闘に使えるほど高度にズァーグを活性化するには10年の修業が必要じゃ。しかしここでは眠ることも食べることも必要無く、疲れすらない。常に修業をしていられるこのシミュレーター内ならば高度なズァーグの活性化を体得できるのも早いじゃろう」
「うん」

 時間はある。それにツクナが一緒ならば、自分さえ努力すれば必ずズァーグの活性化は体得できるだろうと俺は自信を持つ。

「ふむ。まずは強い心でズァーグの活性化をする鍛錬から始めたほうがよさそうじゃの。剣を使っての特訓はそのあとじゃ」
「わかった。……でも心を集中させる鍛錬ってなにをすればいいんだ?」
「座って足を組め。そして心を強く持ってズァーグの活性化に集中するのじゃ」
「う、うん」

 座って足を組み、心をズァーグの活性化に集中させる。

「心は常に強く保て。常に強く保つことで、活性化したズァーグを体内に保持できる。活性化したズァーグで常に体内を満たすことで強い力を身体に慣らすのじゃ」
「う、うん。難しい……」

 体得まではまだまだ時間はかかりそうだ。

 ……

 ――無数のレーザーが俺に向かって発射される。
 心を集中させた俺は、体内を巡るズァーグに活性化を促す。

「20%くらいでいいか」

 瞬間、肉体は強化され、放出されたズァーグにレーザーが触れ、

「ふんっ」
「うあっ!?」

 すべてをレヴァンソードで打ち返して兵たちの持つレーザー銃を破壊した。

「な、なにっ!? 貴様……」

 驚きに顔を歪める大男を前に、俺はソードを構え直す。

「逃げたければ追わない。好きにしろ」

 目的はこいつらを倒すことじゃない。逃げるならばそれで構わないが。

「逃げる? 俺様が?」

 しかし男はそんな素振りは見せず、

「ぐはははっ! 俺様はオーディアヌ帝国ナイト、ヴァルキラスの剣のひとり、デズター・デルガモット様だっ! 俺様が恐れるのは唯一、皇帝であり、わが師でもあるメイラッド・ローマ様のみっ! 名すら知らぬ貴様などに恐れをなして逃げ出したりせぬわっ!」

 と、大男、デズター・デルガモットは豪快に笑いながら言い放つ。

「いいだろう。そこの小僧とは違って、貴様には俺と戦えるだけの資格はあるようだ」

 にやけながら赤いソードを構えるデズターを前に、俺はため息を吐いた。

「しかたない」

 自前の青いソードを構えて、相手との間合いを計る。

「なかなかズァーグを使えるようだが、俺様には及ばんぞ」
「どうかな」
「ふふふ、貴様ができるズァーグの活性化など、せいぜい30%がいいところだろう。しかし俺様はっ!」
「むっ……」

 デズターの肉体に巡るズァーグが活性化をしているのだろう。自らのズァーグを目に集中させると、薄い赤色のオーラのようなものにデズターの肉体が覆われていくのが俺には見えた。
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