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第1の異世界ー右腕を失った仮面の王子

第8話 復讐、そして異世界へ

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「では行くかの」

 村人たちが帰ると、ツクナはデュロリアンから顔を出してそう言う。

「えっ? 行くって……」
「復讐を果たしに行くんじゃろ? 早く乗るのじゃ」
「い、今から? でも王都まで行くには何日かかかるから準備しないと」
「何日もかからん。すぐじゃ」
「すぐって……」

 しかしツクナの言うことだ。
 本当にすぐ行けるのかも。

「わ、わたくしも行くっ!」

 と、今まで黙っていたソシアが叫ぶ。

「いやけど……」

 これから向かうのは戦場だ。
 連れて行くのは危険かも。

「デュロリアンから出なければ平気じゃろう」
「えっ? それも持って行くのか?」

 確かにデュロリアンはバリア―とやらを使えて便利だが、こんなものを持って行くのは時間がかかりそう。

「当たり前じゃ。ほれ早く乗れ」
「の、乗れって……」

 乗ってどうするのか?

 ともかく俺はソシアと一緒にデュロリアンに乗り込む。

「では行くぞ」
「えっ? うおおっ!?」

 瞬間、デュロリアンが宙に浮く。

「と、飛んでるっ!」
「飛んでるっ!?」

 俺とソシアがほぼ同時に叫ぶ。

「な、なんで飛んでるんだこれっ!?」
「それを説明するにはまず重力を理解させなければならんな。面倒じゃし、飛ぶから飛ぶと理解しておけばよい」
「あ、うん」

 飛ぶから飛ぶのか。

 もちろん納得はできなかった。

 そのままデュロリアンは王都へ向けて飛んで行く。

 王都まで馬ならば急いでも数日はかかる距離。
 しかし空飛ぶ鉄の塊デュロリアンはすぐに目的地に着いてしまう。

「も、もう王都か」

 窓からは懐かしい王城が眼下に見えた。

「うむ。では突っ込むぞ」
「えっ? 突っ込む?」

 加速するデュロリアン。
 正面には王城が迫っていた。

「ぶ、ぶつかるっ!?」
「きゃーっ!」
「平気じゃ」

 冷静な声音で言い放つツクナ。
 そして……。

 ズガァァァン!!!

 デュロリアンが城の壁を突き破る。
 瞑っていた目を開くと、そこに見えたのは玉座の間であった。

「む、無茶をするな」

 城の壁は粉々だ。
 しかしデュロリアンは無傷のようだった。

「な、なんだっ!?」

 部屋にいる誰かが声を上げる。
 それを聞いた俺はデュロリアンから出た。

「ひさしぶりだなバルドン」
「あ、兄上っ!?」

 玉座の上で腰を抜かしているバルドン。
 そしてその左右には父とサリーノがいた。

「父上も母上もお元気そうで」
「ハ、ハバン……っ」
「ハバン……様」
「ふっ……しかしお元気なのも今日までですな」
「っ! なにをしている衛兵っ! そいつを捕えろっ!」

 父の怒声にハッとしたように衛兵が動き出してこちらへ迫る。

「邪魔だ」

 しかし衛兵たちは一瞬で俺に撃ち殺された。
 それから俺はミサイルで天井を破壊し、部屋の扉をその瓦礫で塞ぐ。

 こうしておけば騒ぎを聞いた兵がここへ入って来ることもないだろう。

 そして俺はバルドンの前に立つ。

「ひ、ひぇ……あ、兄上……」
「待てハバンっ! き、貴様どういうつもりだっ! これは国家への反逆……っ」

 近づいてきた父上の頭を掴む。、

「こ、この右手は……? 斬り落としたはず?」
「あなたのような無能はもっと早くに始末しておくべきだった」

 俺はそのまま父上の頭を握り潰す。

「きゃああああっ!」

 その瞬間にサリーノが叫ぶ。

「義母上。あなたがいなければ父上はもう少しまともだったでしょう」

 血まみれの人差し指から発射された弾丸がサリーノの眉間を撃ち抜く。

「まあ、なにもかもすべて……今さらのことですがね」

 ひどく冷たい声でそう言い放ち、バルドンへ向き直る。

「は、母上……」
「安心しろ。すぐに会わせてやる」

 バルドンへ右手の人差し指を向ける。
 ……しかし撃てない。俺は葛藤していた。

 無能な父。そして悪辣な母に育てられてバルドンは愚かな者になった。
 そう考えると父やサリーノと同じように恨んで殺すのは気の毒かもしれない。

「なんじゃ殺さんのか?」

 いつの間にか背後にいたツクナが俺を見上げて言う。

「こいつを愚かに育てたのは父やサリーノだ。殺すのは……」
「しかし生かしておけばこの国にとって害になるぞ?」
「わかっている」

 わかってはいるが、やはりなかなか撃つことができないでいた。

「ふむ。ならば異次元に捨てればよい」
「い、異次元に捨てる?」

 手元で平たいなにかを開いたツクナが、それを指でポンポン押す。と、

「おおっ!?」

 目の前に大きな穴が現れる。
 なにやら真っ暗で、先の窺えない恐怖を感じさせる穴だった。

「さ、そこに投げ捨てるのじゃ」
「こ、ここに入るとどうなるんだ?」
「少なくともそこへ入って死ぬということは無い。まあ、どこか別の異世界へ行ってそこでどうなるかまでは知らんがの」
「そうか」

 それならばと俺はバルドンの胸倉を掴み上げる。

「うう……兄上……ハバンっ」
「悪いな。どこへ行くかは知らないが、達者でな」

 持ち上げたバルドンの身体を穴へと放り投げる。
 バルドンがその奥へ消えていくと、穴は収縮して消えていった。

「……終わったな」

 ようやく復讐を遂げた。
 喜びで雄叫びを上げたい気持ちを抑えて、俺はツクナを抱き上げる。

「お前のおかげだ。ありがとう」
「礼はいらん。これがツクナの目的じゃからな」
「……」

 ツクナの目的。
 それが終わった今……。

「お前が俺を救ってくれた目的を、まだ聞いていなかったな」
「うむ。目的は実験じゃ」
「実験? って、なんのだ?」
「神を屈服させることができるかの実験じゃ」
「か、神を屈服?」

 なにやら壮大な実験のようだが。

「それと俺を救うのになんの関係があるんだ?」
「神は人を不幸にするのが好きじゃ。神はハバンを不幸にし、楽しんでいたというわけじゃな」
「そ、そうなのか」

 なんか神って嫌な奴だな。

「それをツクナが科学の力で妨害した。これからもツクナは神の楽しみを妨害し続ける。いつ神がツクナの行いに屈服するか、そういう実験じゃ」
「うん……」

 正直、ツクナのすることは壮大過ぎて俺には理解できない。けど、

「その……俺もそれを手伝っていいか?」

 救ってくれた恩を返したい。
 いや、それもあるが、もっと単純にツクナと別れるのが辛かった。

「ツクナを手伝うということは、他の異世界に行くということじゃ。復讐を果たして国王になれるというのによいのかの?」
「国王になんて、今さら興味は無いよ」

 国王になって俺を蔑む父やサリーノを悔しがらせてやりたかった。
 しかしその必要はもう無い。国の支配にも興味が無かった。

「そうか。まあ助手がいてもいいじゃろう。ついて来ても構わんぞ」
「ありがとう」

 なんとなくそう言ってくれるような気がしていたので答えに驚きはなかった。

「ふふん。どうやらハバンはツクナに惚れてしまったようじゃな」
「えっ? いや、その……」
「ツクナは最高に美しくてセクシーな女じゃからの。離れたくないと思うのはしかたのないことなのじゃ」
「セ、セクシー?」

 ってどういう意味だろう?
 けどツクナが美しいというのは確かなことだった。

「では行くかの」
「もう行くのか?」
「目的は達した。ここにいる意味はもう無いしの」
「うん。そうだな」

 この国ともお別れか。
 あまり良い思い出はないが、離れるとなると少し寂しい気持ちもあった。

「ちょ、ちょっと待ってよっ!」

 と、そのとき、声を上げてソシアがデュロリアンから飛び出してくる。

「どこへ行くかわからないけど、わたくしも行くっ!」
「えっ?」

 唐突にそう言われて、俺はツクナと目を合わせた。
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