名無しのヒーロー【完結】

安里海

文字の大きさ
上 下
21 / 63

違う熱が上がりそう。

しおりを挟む
 朝倉先生が、買い物から帰って来たようで、コトリと荷物を置く音が聞こえた。
 浅い眠りの中で温かい布団に包まれ、微睡んでいると朝倉先生が近づいて来る気配を感じる。
 おでこに手を当てられ、やがて首筋にその手が移動し、熱があるのを確認しているようだった。
 
 そして、唇に何か温かく柔らかい感触を感じた。

 それは、ほんの一瞬と言って良いほどの短い時間だった。

 ガサガサという音の後に、おでこに冷たいシートが張られて、朝倉先生の気配が遠ざかる。

 私は、寝返りをうつフリをして、横向きで掛布団の中に潜り込んだ。

 ナニ、ナニ、ナニ、ナニーッ!!

 私に何が起きた??

 朝倉先生にキスをされた? 
 願望が見せた妄想? 夢? 
 ああ、そうか、熱に浮かされて妄想が夢になって出てきたんだ。

 妄想激し過ぎ、暴走しちゃっている。
 私、ヤバイなぁ。

 少しして、ベビーベッドの上の美優が目を覚ましたようで、フニャフニャ言い始め、さすがにいつまでも寝たふりを続けてはいられないと意を決して布団から出る事にした。
 私がグズグズしている間に朝倉先生は、美優を抱き上げヨシヨシとあやしてくれる。

「朝倉先生、ありがとうございました。おかげでだいぶ具合が良くなりました。冷却シートまで貼って頂いて、すみません」
 と、声を掛け美優を受け取とろうと朝倉先生の前に立った。

 朝倉先生と視線が合うと、ふぃっと、ソッポを向かれてしまう。
 視線を逸らされたことがショックで、自分が何かやらかしてしまったのではないかと不安になってしまう。

「朝倉先生?」

「あの……」と、朝倉先生は言い淀む。
 朝倉先生から美優を受け取りながら次の言葉を待ち、背の高い朝倉先生を見上げていた。

 今度は、ふっと包み込むような優しい瞳を向けられる。

「谷野さんの大分調子も良くなった様だし、今日は、お暇するよ」

 寂しさを覚えながらも、さんざんお世話になって、これ以上引き止める事も出来ない。
 玄関で見送って、お礼を言う。

「今日は、たくさん助けて頂いてありがとうございました」
 
 すると、朝倉先生は私の首に手をあて、体温を気遣う。

「まだ少し熱がある、また、明日も来るよ」
 
 朝倉先生の手が離れて行く。

 朝倉先生の手の温かさの記憶と香水のラストノートが鼻腔をくすぐる。
 違う熱が上がりそうだ。           


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

溺愛婚〜スパダリな彼との甘い夫婦生活〜

鳴宮鶉子
恋愛
頭脳明晰で才徳兼備な眉目秀麗な彼から告白されスピード結婚します。彼を狙ってた子達から嫌がらせされても助けてくれる彼が好き

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら
恋愛
「それなら、いっそ契約婚でもするか?」  そう言った目の前の男は椿美冬の顔を見てふっと余裕のある笑みを浮かべた。 ──契約結婚なのだから。 そんな風に思っていたのだけれど。 なんか妙に甘くないですか!? アパレルメーカー社長の椿美冬とベンチャーキャピタルの副社長、槙野祐輔。 二人の結婚は果たして契約結婚か、溺愛婚か!? ※イラストは玉子様(@tamagokikaku)イラストの無断転載複写は禁止させて頂きます

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

処理中です...