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お・と・り・よ・せ!
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日曜日、玄関のインターフォンが鳴った。
約束の午後2時の5分前に来たのは将嗣だ。
「やあ、夏希。美優ちゃん、こんにちは」
うーん。なんて声を掛けたらいいのか?
歓迎する気持ちが無いから「いらっしゃい」でもないし「ようこそ」とも違う。
仕方がないので「お疲れさま」とだけ言った。
将嗣は、上機嫌な様子で美優に手を伸ばす。
「美優ちゃん、パパだよ。おいで」
その声につられるように、「あー」と美優も将嗣に抱っこをねだる。
こんな、ささやかな行動にも親子を感じてしまうが、なんだか面白くない。
ため息を吐き出しながら美優を将嗣に受け渡し、車まで足を進める。
将嗣の車には、約束通り後部座席にチャイルドシートが設置されいて、私は美優と並んで座る事ができた。
「ねえ、今日はどこで話をするの」
運転席にいる将嗣へ声を掛ける。
「俺ん家で、良いだろう?」
朝倉先生と付き合い始めたのに、元カレでもある将嗣の家へ上がり込むのに抵抗がある。だからといって、良い場所も思い浮かばない。返事ができずに黙っていた。
すると、将嗣は自信満々の様子でしゃべりだした。
「小さい子供がいるとお店でゆっくり話も出来ないし、美優ちゃんもかわいそうだろう? 美優ちゃんにお取り寄せのプリンがあるんだ。それと、フロマージュも」
「えっ、フロマージュ!?」
「そう、夏希、好きだったよな」
そう、あの口の中で蕩けるような至福の味わい。濃厚な味わい。北海道メーカーならではの美味しさ。口に入れた時のしあわせ感、くぅ~!
あの味を思い出すと、自然と口元がゆるんでしまう。
「お・と・り・よ・せ!」
ニヤリと笑う将嗣に敗北感を感じた。
駅前のタワマン、将嗣の部屋のリビングで。
私の口の中は、フロマージュに満たされ幸せでいっぱいだ。
「夏希、ブレないよなァ」
将嗣に言われ、グッと詰まる。
ゴホッ、ゴホッ、むせ返った私の背中をさすりながら将嗣が心配そうにのぞき込む。
「おいおい、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「ママは、食いしん坊な上にあわてんぼうだから パパは、心配ですよ。美優ちゃんも心配ですか。じゃあ、二人でママを見守りましょうね」
「むせたぐらいで大げさな!子供をダシにして好き勝手言って」
「イヤ、俺、本気だけど……。夏希が具合悪い時とか、一人だと大変だろう? この前のヤツに言われて何も言い返せなかったよ。俺、今まで何もしていないかった。だけど、これからは俺に頼って欲しいんだ」
「待って、待って、お友達でって、言ったでしょう? 今日は、美優の事で会っているんだよね」
「友達にだって頼るだろう? だから、俺を一番に頼って欲しいんだ。それに美優にもっと関わりたい」
美優の話しを持ち出されると困る。けれど、” 一番に頼る ”といって、思い浮かべるのは、朝倉先生の事だった。
考えこんでいる私に将嗣は真剣な顔を向ける。
「なあ、この間のヤツ仕事相手だって言っていたけど、それだけじゃないんだろう?」
唐突にそんなことを言われて、またむせた。
ゴホッ、ゴホッ。
「なにやっているんだよ。大丈夫か?」
くっそー、将嗣は、こういうの聡いんだ。自分の事は、ダメダメな癖に!
そして、何かを察したような視線を送り、話しを始めた。
「なあ、弁護士さん頼んで正式な形で、美優ちゃんの事を認知したいと思っている。それで、うちの両親にも美優ちゃんを合わせてあげたい」
「えっ? ご両親に?」
考えもしていなかった話に驚きを隠せなかった。
「だって、両親からしてみたら孫に当たるわけだし、会いたいと思うんだよね」
言われてみれば、もっともな話。自分の両親は、既に他界していたので気が付かなかった。
「でも、突然、”はい孫です。産まれてました。”って、ご両親も戸惑うと思うの。それに、将嗣が婚姻期間中に出来た子だなんて、きっと歓迎されないよ。だから、行きたくない」
「大丈夫だよ。初孫を歓迎しない親なんて居ないよ」
「だから、行かないって言っているでしょう!?」
あ、キツイ口調になってしまった。
「あ、ごめん」
「いや、俺の方こそ、しつこく言って悪かった。ごめん、夏希。実は俺の父親、病気で自宅療養中なんだ。コッチに出て来られないから、孫に会わせてあげられるのは行くしかないんだ」
事情は分かった。でも、元カレと一緒に実家を訪ねるのって、すっごい抵抗感がある。
それに私は、朝倉先生と付き合い始めた大切な時期。誤解を与えるような行動は慎みたい。今日、こうして会っている事ですら申し訳ない感じがするのにどうしたらいいのだろう?
現地集合・現地解散を希望したいところだが、乳幼児を連れて長時間の車の移動は自分ひとりでは、キビシイ。
これは、もう答えはただ一つ!
「取り敢えず、保留で!」
約束の午後2時の5分前に来たのは将嗣だ。
「やあ、夏希。美優ちゃん、こんにちは」
うーん。なんて声を掛けたらいいのか?
歓迎する気持ちが無いから「いらっしゃい」でもないし「ようこそ」とも違う。
仕方がないので「お疲れさま」とだけ言った。
将嗣は、上機嫌な様子で美優に手を伸ばす。
「美優ちゃん、パパだよ。おいで」
その声につられるように、「あー」と美優も将嗣に抱っこをねだる。
こんな、ささやかな行動にも親子を感じてしまうが、なんだか面白くない。
ため息を吐き出しながら美優を将嗣に受け渡し、車まで足を進める。
将嗣の車には、約束通り後部座席にチャイルドシートが設置されいて、私は美優と並んで座る事ができた。
「ねえ、今日はどこで話をするの」
運転席にいる将嗣へ声を掛ける。
「俺ん家で、良いだろう?」
朝倉先生と付き合い始めたのに、元カレでもある将嗣の家へ上がり込むのに抵抗がある。だからといって、良い場所も思い浮かばない。返事ができずに黙っていた。
すると、将嗣は自信満々の様子でしゃべりだした。
「小さい子供がいるとお店でゆっくり話も出来ないし、美優ちゃんもかわいそうだろう? 美優ちゃんにお取り寄せのプリンがあるんだ。それと、フロマージュも」
「えっ、フロマージュ!?」
「そう、夏希、好きだったよな」
そう、あの口の中で蕩けるような至福の味わい。濃厚な味わい。北海道メーカーならではの美味しさ。口に入れた時のしあわせ感、くぅ~!
あの味を思い出すと、自然と口元がゆるんでしまう。
「お・と・り・よ・せ!」
ニヤリと笑う将嗣に敗北感を感じた。
駅前のタワマン、将嗣の部屋のリビングで。
私の口の中は、フロマージュに満たされ幸せでいっぱいだ。
「夏希、ブレないよなァ」
将嗣に言われ、グッと詰まる。
ゴホッ、ゴホッ、むせ返った私の背中をさすりながら将嗣が心配そうにのぞき込む。
「おいおい、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「ママは、食いしん坊な上にあわてんぼうだから パパは、心配ですよ。美優ちゃんも心配ですか。じゃあ、二人でママを見守りましょうね」
「むせたぐらいで大げさな!子供をダシにして好き勝手言って」
「イヤ、俺、本気だけど……。夏希が具合悪い時とか、一人だと大変だろう? この前のヤツに言われて何も言い返せなかったよ。俺、今まで何もしていないかった。だけど、これからは俺に頼って欲しいんだ」
「待って、待って、お友達でって、言ったでしょう? 今日は、美優の事で会っているんだよね」
「友達にだって頼るだろう? だから、俺を一番に頼って欲しいんだ。それに美優にもっと関わりたい」
美優の話しを持ち出されると困る。けれど、” 一番に頼る ”といって、思い浮かべるのは、朝倉先生の事だった。
考えこんでいる私に将嗣は真剣な顔を向ける。
「なあ、この間のヤツ仕事相手だって言っていたけど、それだけじゃないんだろう?」
唐突にそんなことを言われて、またむせた。
ゴホッ、ゴホッ。
「なにやっているんだよ。大丈夫か?」
くっそー、将嗣は、こういうの聡いんだ。自分の事は、ダメダメな癖に!
そして、何かを察したような視線を送り、話しを始めた。
「なあ、弁護士さん頼んで正式な形で、美優ちゃんの事を認知したいと思っている。それで、うちの両親にも美優ちゃんを合わせてあげたい」
「えっ? ご両親に?」
考えもしていなかった話に驚きを隠せなかった。
「だって、両親からしてみたら孫に当たるわけだし、会いたいと思うんだよね」
言われてみれば、もっともな話。自分の両親は、既に他界していたので気が付かなかった。
「でも、突然、”はい孫です。産まれてました。”って、ご両親も戸惑うと思うの。それに、将嗣が婚姻期間中に出来た子だなんて、きっと歓迎されないよ。だから、行きたくない」
「大丈夫だよ。初孫を歓迎しない親なんて居ないよ」
「だから、行かないって言っているでしょう!?」
あ、キツイ口調になってしまった。
「あ、ごめん」
「いや、俺の方こそ、しつこく言って悪かった。ごめん、夏希。実は俺の父親、病気で自宅療養中なんだ。コッチに出て来られないから、孫に会わせてあげられるのは行くしかないんだ」
事情は分かった。でも、元カレと一緒に実家を訪ねるのって、すっごい抵抗感がある。
それに私は、朝倉先生と付き合い始めた大切な時期。誤解を与えるような行動は慎みたい。今日、こうして会っている事ですら申し訳ない感じがするのにどうしたらいいのだろう?
現地集合・現地解散を希望したいところだが、乳幼児を連れて長時間の車の移動は自分ひとりでは、キビシイ。
これは、もう答えはただ一つ!
「取り敢えず、保留で!」
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