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新米パパは、甘々です。

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「ママ、ねえ、ママってば、起きてよ」

「うーん。……シンちゃん、おはよ」

 寝ぼけ眼を擦りながら身を起こした。
 重ダルい腰に手を当て、「ふわぁ~」っと大きなあくびをする。

 昨日、愛を交わしてから、シャワーを浴びて、真哉の寝ている部屋に入った。ツインベッドの作りの部屋、遥香はは真哉とひとつのベッド。直哉はその隣のベッド、3人で同じ部屋に寝たのだ。

「おはよう。遥香、良く寝れた? 体、大丈夫?」

 横のベッドから直哉の声がして、昨晩の余韻を思い出し、遥香は恥ずかしさで顔を赤らめる。

「良く寝ました。体……大丈夫です」

 ベッドサイドにある時計をふと見ると時刻は午前7時を過ぎたところ。
 遥香は、ハッとして立ち上がる。
 仕事の一つである業務連絡、ホテルへの朝食手配を怠っていた。

「いっけない!朝食の連絡ホテルにしなくちゃ!」

 慌てて部屋から出ようとした遥香を直哉の声が引き止める。

「3人で食べよう。今からでも変更できる?」

「それならキャンセルして、ハンバーガー食べに行きませんか?」

 直哉のOKをもらい、ホテルに朝食のキャンセルを入れる。ついでに真哉の通う保育所にも連絡を入れ、数日間お休みすると伝えた。


「しんちゃん、今日はね。保育所をお休みして、パパとお買い物に行くんだけど、いいかな?」

「ほんと⁉ やったぁ」

 
 
◇ ◇

 車に乗って買い物のために高速道路を軽快に飛ばした。
(沖縄高速道路は覆面パトカーが多いので法廷速度は守っています)

 途中、屋嘉のパーキングの看板を見つけてウインカーを立て車を停めた。金武湾が見渡せる景色の良いベンチに座り、パーキングのスタンドで売っている石垣牛バーガーを堪能する。
 朝から食べるハンバーガーとしては、少し贅沢なお値段だけれど、新鮮な野菜と美味しいお肉、味のクオリティはお値段以上。納得のおいしさだ。

 そして、再び車に乗り、中部にあるショッピングモール到着した。
 正面玄関にある数体の大きなシーサーが出迎えてくれる。
 屋外の駐車場から店内に入ると、携帯ショップや床屋さんなどの店舗が並んでいる。その中の不動産屋さんの前で直哉が立ち止まった。
 不動産屋さんの壁には賃貸物件や土地建物の売買情報が整然と並べられている。その中の「土地売ります」を興味深く眺めていた。

「どうしたんですか?」

「遥香が今住んでいる所、借りている家なんだよね」

「はい、城間のおじさんの好意で、別荘管理人として貸してもらっています」

「沖縄に帰る時に、城間別邸に泊まってもいいんだけど、それも寂しいだろうから、土地を購入して遥香の好みに城間さんに設計してもらったらどうかな?」

「土地を買う? 家を建てるってことですか?」

 あまりのスケールの大きさにポカーンと開いた口が塞がらない。

「しばらくは、別荘使いにして。長期の休みのたびに滞在するなら気兼ねがいらないし、着替えなどの荷物も置けるから、移動も楽だよ」

 両親がいない遥香は、城間別邸の管理人を辞めてしまうと沖縄に帰る家が無くなってしまう。
 直哉との将来を望んだ瞬間から、生まれ育った故郷である沖縄を離れ、東京で暮らし、たまに沖縄に旅行に来るしか、道はない物だと思っていた。

 沖縄に家を建てる。
 それは、いつでも帰れる故郷があるという事だ。
 凄く贅沢で、凄く嬉しい。
 遥香は直哉がそこまで考えていてくれた思いに胸がいっぱいになった。
 

「ありがとう……直哉さん」
 
 遥香は、感激のあまり人通りもあるショッピングモールの通路なのに、涙がこぼれそうになってしまう。
 その時、横に居る真哉が、遥香の服をツンツンと引く。

「ママー、パパ、つまんないよ。はやく、おもちゃやさんにいこうよー」

(母は感激で胸がいっぱいなのに、息子の情緒のなさったら……。でも、4歳の男の子なんて、こうなのだ。)

「シンちゃん、パパがママに新しいお家をプレゼントしてくれるんだってすごいね」

「あたらしいおうちは、すごいの? すごいならミンテンドーのゲームあるの? ヒロくんちにあるのにシンちゃんちにないんだよ」

 新しいお家と言われても、4歳児の真哉には、ピンとこないのだろう。
 家を建てるよりも、ゲームの心配をしている事に、遥香は苦笑する。
 しかし、直哉は目を輝かせていた。

「なんだ、シンちゃんはゲームが欲しいのか。よし、パパが買ってあげるよ」

「やったぁ。パパだいすき」

(はい、たった今、甘々のダメなパパが誕生しました!)

 エレベーターを上がって行くと家電量販店を見つけた。直哉と一緒に店内に足を向けると真哉がまた口をとがらせている。

「しんちゃん、おもちゃやさんにいきたいなぁ」

「ゲームの機械は電気屋さんで売っているのに、買わなくてもいいのかな?」

「えー、でんきやさんでうっているの? やったぁ」

 笑顔いっぱいの真哉の目の高さに腰を屈めた直哉が語りかけた。

「シンちゃん、今日のお買い物でいい子にしていたら、最後にアイスクリームを買ってあげるよ」

 遥香は、「あっ」と思った。

 以前、レストランで話した遥香の家族の思い出。買い物をした最後にいい子にしていたらアイスクリームを買ってもらえたと言った事を直哉は覚えていてくれたのだ。
 大切な思い出を受け継いでくれた。その事に胸の奥がグッと熱くなる。

 (どれだけ、直哉さんは好きにさせるのか……。)

 ここが店内でなかったら、遥香は抱きつきたい気分だった。

 子供を連れての買い物。
 いつもだと、ショーウィンドウに飾られた素敵なコーディネートのディスプレイに惹かれて洋服屋さんに入っても、なぜだか、そのタイミングでトイレに行きたがる息子に阻まれて、ゆっくりと洋服など選ぶことも出来ない。

 でも、今日は違う。
 なぜなら『パパ』がいるからだ。
 雑貨屋に併設されているカフェは、ハンモックやブランコのスペースがある。
 そこで、シンちゃんにはパパと休憩してもらって、遥香は洋服屋さんへGOなのだ!

 洋服の他にも下着も見たい。
 セクシーなのとは言わなくても、それなりの物は買って置きたい。
 余計な気を使わずにゆっくり選べるのは嬉しくて、短時間ならがも両手いっぱいに買い物が出来た。
 意気揚々とカフェへ戻ると、笑顔の二人が待っていた。

「ママー、パパがね。おもちゃやさんにつれていってくれるんだって!」

 そう言って、満面の笑みの真哉。

(足元に置かれているそのゲーム機は、おもちゃに含まれないんでしょうか?)

 ゲーム機から視線を上げ直哉の方を見ると、わざと視線を逸らした。口元は今にも笑い出しそうに口角が上がっている。

 (ああ、もう、ホント、甘々のダメパパなんだから……。)

 直哉はククッと笑いながら立ち上がり、遥香の両手から荷物を受け取った。

「荷物増えたね。一旦車に置いて来るから、遥香もジュースでも飲んで一休みしていて」

 と言って、直哉はゲーム機と洋服が入ったショッパーを持って、駐車場へ向かってしまった。

 (あ、逃げたな。)

 
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