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192.魔術学園2年生6

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各々グループを組むことも出来たし、共闘の訓練も少しだけした。ついにダンジョンに立ち入る時がやってきたのだ。まぁ先生と一緒に団体で第一階層に入るだけなんだけど。

「たとえ浅い階層で魔物が弱いからと言って決して油断するな。ここは命の奪い合いをする場だと肝に銘じろ。課題を与える。グループで魔物を人数分倒してこい。証拠として魔物の魔石を持ってくるように。終わればダンジョンを出てギルドに戻れ。説明は以上だ。質問のある者は?……居ないな。それでは始めろ。」

それでもわくわくするものだ。第一階層で出てくるのはゴブリンやスライムといったゲームの初期の敵として出てくるような魔物だ。1階層を見て一人1体は魔物を倒す課題を終えたらギルドに戻ってくる。

「ククル、ウェネル、少し離れよっか?」

「そうだな」

「ん…」

「ここじゃ魔物の奪い合いになっちゃうもんね。」

「ああ」「さっさと行くぞ」

ウェネルがさっさと移動していくのに合わせてついて行く。少し離れるとすぐにゴブリンを発見できた。5体か…まぁ問題ないだろう。

「俺は右2体!」「じゃあ左2体だ」「…はいはい」

さっと魔法で急所を狙い打つ。ファイアアローで撃ち抜かれて、すぐに消えていく。その隣で投擲武器で首を掻き切られて1体が消えた。左の2体もククルの剣で一閃され、小さな魔石だけを残した。

「さっさと戻るよ」

「うん、帰ろー」

「魔石は拾ったからな」

「ありがとうククル」

ミミス先生のところに戻れば、俺達が一番だったらしい。開始場所周辺では多くの人が居たが、やはり魔物の数が限られてしまうからだろうな。

「ギルドで手続きを…ナルアは分かるな?」

「はい!」

「では戻っていいぞ。他が終わるまでは好きにしていろ」

「はーい」

ギルドに戻ってくると、組んだグループ毎に依頼を出し一緒にタンジョンに行ってくれる冒険者を募集する手続きをした。基本的にはこのギルドに来れる人は実力もあり、ランクも上がっている人だけなので、条件指定なんかはせずに依頼する。

しかし、俺達の場合は指名依頼になる。テスラさんともう一人も信頼できる人をテスラさんが頼んでくれると言っていた。冒険者の人にも選ぶ権利があるので、グループ毎に依頼を出して、顔合わせをして大丈夫そうなら引き受けてもらえるのだ。

これから冒険者の中でもランクの高い人たちが訓練をつけてくれる予定だ。この時間は冒険者の人に実力を知ってもらう時間でもある。学園生とダンジョンに行くのは割のいい仕事だ。普通なら頭数で分ける魔物素材の売上は冒険者にそのまま入る上、依頼料が学園から出る。その代わり何かあれば学園生を守る、というものだ。そのためかなりの数の冒険者が見学に来てくれている。

冒険者としても深くダンジョンに潜れた方が割がいいし、弱ければ守るのも大変だ。だからここで実力を見極めるのだ。

俺達はもう決まってるからやらなくてもいいと言えばいいんだけど、冒険者に指導してもらえる貴重な機会なのでしっかりと参加する。最初はチビだし侮られて居たんだけれど、冒険者との戦闘訓練での立ち合いを見て、見直してくれたようだ。

何度か一緒にダンジョンに行こうと声をかけられたが、テスラさんの名を出せば引いてくれた。高位ランクの冒険者達にも覚えてもらえたようで良かった。ダンジョン内であったらよろしくな!と明るくさっぱりした感じで接してくれた。




とある冒険者Side(読まなくても可)

「あんなチビもいんのか。俺は勘弁だぜ。ギャハハ!!」

「おい、やめろ。聞こえたら可哀想だろう。」

「早めに現実教えてやるのも大事だろ?」

「はぁ…」

溜息をついたのは、ダンジョンに潜っている中でもレベルの高い者であった。隣でチビだなんだとあげつらわれている子に目を向けてその実力を正確に理解したからだ。

隠しているのか抑えているのか…欠片も魔力や威圧を感じない。しかしそれは恐るべきことだった。どんなに修行しようとも強ければ強いほど漏れ出てしまうものなのだ。それを完璧に制御している、という証なのだ。それに気付いたときには背中にひやりとしたものが走った。

彼をついつい見てしまっていると、その隣からハッキリとした殺気を向けられた。一瞬のことではあったが、その濃密な死の気配は俺の警鐘を鳴らすには充分すぎる程だった。

さっと目を逸らしておく。そうしなければならないと感じた。三人で固まって立っている彼らは異質なのだろう…。一人は魔力、気配を完璧に制御して見せ、一人は濃密な殺気を放つ、そして残りの一人は最強種と名高い竜人だ。

「……関わらないようにしよう…」

ぼそりとそう呟いてしまったのが仇になったのか、俺は彼らのグループの指導担当になってしまっていた。最初に小さなその子の相手をすることになった。

油断していたわけでもなく、むしろ警戒心はMAXだったのだが…それでも普通ではあり得ない魔法発動速度に反応が遅れ、押されたまま負けることになった。そして俺の心の中にはやはり…という思いがあった。

弱いはずが無い…。そして思い出した。この都市に戻ってきた最強の魔術士には可愛らしい番が居るのだと言う話を。そして番は学園に通っており、彼もまた最強。

嘘か真か、そんな噂があったのだ。これはあの話は紛れもない真実だったようだ。

テスラとはギルドで会ったときにたまに話す程度だったが…やたら過保護な奴だと思っていた。近くで見れば見るほど愛らしい容姿だ。まぁ俺には愛する恋人がいるので惹かれたりはしない。

「大丈夫ですか?」

「ああ、ありがとう。ところでテスラを知っているか?」

「はい!俺の大事な番です!えへへ。知り合いなんですか?」

「ああ、ギルドでたまに会うんだ。」

「そうなんですね!ギルドでのテスラさんもかっこいいんだろうなぁ…んふふ」

「ナルア…俺達も戦わないとだし時間ない」

「ああ、ごめんウェネル」

「ん。次は俺」

「あ、ああ…」

先程の殺気で若干腰が引けているが、負ける訳にはいかない。実力的にはこちらが上なようだしな。紙一重の所で勝ちを掴みとった。危なかった…。

「最後は俺だな。」

「ああ、よろしく」

「ああ」

剣の構えに隙がなく、剣を合わせればその重さに驚く。軽々と振られているように見えたが、そこはやはり竜人族。くそっ…馬鹿力が!!やはりモンスター相手とは勝手が違う。

ここは短期決戦がいいだろう。フェイクに引っかかる傾向にある彼を剣を投げ其方に意識を向けさせたうえで、魔法ともう一振りの剣で追い詰める。

「ふぅ…」

「俺の負けだな。どこが悪かった?」

「そうだな…フェイクなんかに気を取られる傾向があるようだと思う。これは対人戦で経験を積むしかないと思うぞ。」

「わかった。助言感謝する。」

「ああ」 

これは強くなる訳だ…。負けたことに苛立つでも悔しがるでもなく、直ぐに反省し、相手に助言を求めるとはね。なかなか出来ることではないだろう。

「よし!!本日はこれで終わりだ!!」

終了の号令がかかり、三人に礼を言われて、その場をあとにした。気楽に学園生の指導を引き受けたが…身を引き締める良い機会になったな。だが今日はもう疲れた。さっさと休もう…。






    
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