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31.幼児期28
しおりを挟む王城にある訓練場で、父とウェンさんの模擬戦が開始されようとしていた。訓練場の中央に二人がそれぞれの武器を構えて開始の合図を待つ。二人のそれぞれの武器は、父が片手剣で、ウェンさんは両手に真っ黒な短剣。有効とみなされる攻撃をニ本先取で勝ちの試合であるようだ。魔法の仕様も自由。ただし命を脅かすような攻撃は御法度。
「うし!気合い入れてけよトワ!!負けんじゃねぇぞ!」
「はい!」
「ウェン、軽く捻ってやれ。」
「はいッス。スンマセン、団長の命令は絶対なんすよね。アンタが勝つ可能性ないっすわ。」
「…俺も負けるわけにはいかないよ」
「距離取れ。……そこでいい。構え!!!始め!!!」
二人が後ろを向いて歩いて、二人の間に5m程の距離ができる。俺達はテスラさんに耳を塞ぐように言われて、ぱっと耳に手をやった。その直後、ツェルトさんの耳を劈くような声で開始の合図が出された。
二人が動いた!と思ったらもう…姿は見えなかった。ええっ!?全ッ然見えないんだけど!!戦いってこんな感じなの…?異次元すぎる…。異世界って…怖えぇ!!剣のぶつかり合う音と、魔法などの光…それと衝撃から来る風だけしかわからない。
「ふっ…やはりウェンは…強いな。」
「おう…トワは押されっぱなしだな。まだ決定的な一本は取られてねぇが…」
「父…がんばれー!」
隣でリオネルが声を上げる。その瞬間からの父は凄まじかったようだ。俺にはその姿を捉えることができなかったが、どうやら父が押し始めたらしい。
「おおっ!面白くなってきたじゃねぇか!トワが勢いづいたな。」
「それでもウェンが負けることなどない。」
「パパ、ウェンさん、頑張れー!」
「ナルアは両方応援すんのか?」
「うん、だって二人とも好きだもん」
「そうか…私が戦うときは私だけ応援してくれ。」
「ん?うん!テスラさんの応援する!!」
「ああ、必ず応援に報いてみせるよ。ナルア」
「うん!リオネルは?どっち応援する?」
「んー…ツェルトさん!」
「おう!なら俺も頑張らねぇとな!」
「一本!!」
審判をしていた人から一本の判定が出る。短剣が父の首元に突きつけられている。悔しげな父が立ち上がる。頑張れ父!!一本取られたとはいえ、俺にしたら十分過ぎるぐらい強いんだけど。
「ふっ…ウェンが取ったようだな。」
「だなー…でももう一本あるからな。まだ負けじゃねぇぜ?」
「ああ、ウェン、よくやった」
「うぃっす!!…さて、もう一本、サクッといただくッスよ!!」
「仕切り直し!距離を…はい、始め!」
策を講じたらしい父がウェンさんから一本奪い返した。が、三本目はウェンさんが取り、ウェンさんが勝利を収めた。
「おう、トワお疲れさん。」
「ありがとうございます団長…負けた…うぅ…ナルア、リオネル…二人にかっこいいところ見せたかったのにぃ」
「カッコ良かったよ!」「うん!」
「ホント!?良かったぁ!!でも、もっと強くなるよ。次は勝ってみせるからな!」
「お疲れ様!」「おつかれさまー!父」
「ウェンよくやった。」
「はいッス!!流石に一本取られたっすけどね。」
「勝ったんだ誇ればいい。が、最近鍛錬を怠ったな。」
「……はい…」
「まぁいい。私が直々に稽古をつけてやる。」
「ヒィッ!マジっすか……はぁ…」
「ウェンさんもカッコ良かったー!!」「うんうん!」
「ホントッスか!嬉しいっす!」
「んじゃ次の試合行くぞー!」
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