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しおりを挟むAランク試験の受付に来ただけなんだが、こんな事になろうとは…。ギルドの奥の個室なんて滅多に立ち入ることも無い。例えばギルドの指名依頼やコクヨウを拾った時のような重大報告などでしか入らないからな。Sランクパーティーの面々とここにいるなんて不思議な感じだ。
コクヨウが先に座ったかと思えば俺を引き寄せ膝の上に座らせようとする。席は足りているのに、おかしいだろう。いや足りていなかったら座るという訳ではないが…。
「おい、待て離せコクヨウ」
「えー?なんで?僕の膝の上座ってよ。」
「駄目だ」
「むぅ…タカミー…お願い。」
「駄目だ。隣でいいだろ?」
「仕方がないなぁ…いいよ。」
…何故俺の方がワガママでも言ってるみたいな感じなんだ…。絶対に正しいのは俺の方だろうが!!Sランクパーティーの奴らも生温かい目で見るんじゃねぇ!止めてくれよ…。
「さて、我々は取り敢えず待機だな。Sランク試験に相当する魔物は早々お目にかかれるものでもないからな。」
「はぁ…タカミと一緒に帰りたい…。」
「コクヨウ、条件。」
「うん…わかってる。タカミ厳しい事ばっかり言う…。もっと昔みたいに甘やかしてくれてもいいのに。」
擦り寄って肩に頭を乗せてくるコクヨウはそのままにしておく。軽くなでてやると手に頭を擦り付けてくるのが愛らしい。まるでごろごろと喉を鳴らして甘える猫のようだ。
「はあぁ…本当に別人級だよな。コクヨウ、タカミのこと好き過ぎなー。」
「ふん!僕はテツみたいに女好き軽薄野郎とは違うからね。」
「くっ…言い過ぎだろ。シティ、リーダー、なんか言ってやってくれよ。」
「私はあんたのこと擁護できないわ。」
「僕もだ。君の普段の素行は目に余る。」
「お前たちもかよ!?はぁ…酷えなぁ全く。」
「自業自得だと思うが?」
「そう言うなよリーダー。俺だって運命の相手探してんだよ。けど普通にしてたって見つけられねぇだろ?だからたくさんの相手と出会えるように努めてんだよ。」
「短絡的よねぇ…そんなんじゃ本当に好きな人が出来たときに振られるわよ。遊び人の囁く愛ほど信じられないものは無いわ。」
「ぐっ…そう言われりゃ確かに…」
「まぁテツの話は置いておこう。それで、タカミさんはここへAランク試験に来たと聞いているが、受かったとしてその後はどうするつもりなんだ?」
「あー、どのみちスールエの方に帰るつもりだ。コクヨウがどうするかは関係ねぇよ。」
「そうか…貴方が残ってくれればコクヨウもこの街へ留まるだろうから期待していたんだが…やはり駄目か。」
「ん?コクヨウはどうすんだ?」
「タカミの居るところにいく。」
「そうか。それでさっきのコクヨウもこの街に留まるとかってのはどういう意味なんだ?」
「ああ、コクヨウは貴重な戦力だからな。ギルドとしても残って欲しがっている。」
「まぁコクヨウは完全に無視してるけれどね。まぁコクヨウが居なくても私達が居るから大丈夫よ。」
「なるほどな…考えとくぜ。コクヨウとここに残るかどうか。」
「それは有り難い。是非ともお願い致します。タカミ様。」
突然聞いたことのない声が隣からするから動揺した。コクヨウも無反応だし危険は無いんだろうが…。なんとも不思議な雰囲気の男だ。目を離したらすぐにでも見失ってしまいそうだ。
「……いきなり誰なんだ?」
「これは失礼。私、当ギルドのギルドマスターをしております、ラピスと申します。お見知りおきを。」
ギルドマスターか…この地でギルドマスターを務められるだけの実力は十分というわけだな。
「ギルドマスターか…すまない。失礼をした。Bランク冒険者のタカミだ。」
「ええ、聞いておりますよ。Aランク試験を受けるのでしょう。日程を決定致しましたので、お知らせしますね。タカミさんに討伐して頂くのはキングオークです。日程は1週間後。何かご都合が悪ければ仰って下されば配慮致します。」
「いや、問題ない。」
「そうですか。それではよろしくお願い致しますね。」
「同行は僕が行く。」
「おやおや、君がそれを申し出てくるなんて…信じられないものを見せられているみたいですね。」
「うるさい。タカミの前で余計なこと言うな。」
「ふふっタカミさんの前ではまるで子供のようになってしまうんですねぇ、コクヨウさんは。」
「……」
「あー、あんまりうちの可愛い子を揶揄ってくれるなよ。ギルドマスターさん」
「おや、これは申し訳ありません。」
なんとも調子の狂う男だな。強いのも優秀なのも確かだろうが。
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