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しおりを挟むあっという間に2ヶ月が経過し、ギルドにもそろそろランクを上げないかとせっつかれていたのだが、ちょうどよくコクヨウも学校の泊まりがあるのだ。お泊り学習という名目で、親元から離れて2泊する。まぁ親離れ子離れの練習でもある。
「コクヨウ、ちゃんと忘れ物ないか確認したか?」
「うん、下着も服もちゃんとあるよ。」
「じゃあいいか。今日は早めに寝ちまうか。俺も明日は長くなりそうだからな。」
「うん」
俺は明日から指定の依頼として、商隊の街から街への移動の護衛を引き受けている。俺も自分の荷物の準備を終えている。コクヨウも真剣な顔で何度もチェックしていたので、おそらく大丈夫だろう。念の為に幾らかコクヨウにも金を持たせてあるしな。
2泊では長期依頼には心許ない期間なのだが…依頼で帰れない間は友達三人衆のところで預かってくれるというので、お言葉に甘えさせてもらうことにした。その代わりコクヨウも店を手伝ってもらうと言っていたが、それは俺達の為なのだろう。
申し訳無さを感じないように配慮してくれているのだと思う。コクヨウも友達の家にお泊りだと楽しそうにしていたので、そんなに心配はしていない。流石に無償で、というのは申し訳ないのだが、いつも店で買い物してくれるお得意さんなんだから気にするな、と押し切られてしまった。
また今度帰ったら何か礼をしようと思う。例えばコクヨウに教えているように剣でも教えてみるのもいいかもしれないな。たとえ店を継ぐとしても少しくらい戦えた方がいいだろうからな。
そんなことを考えながら目を閉じればあっという間に朝がやってきた。コクヨウも新しい経験を前にワクワクしているようで、ご機嫌に尻尾が揺れる。なんだかんだ寂しがると思ったが、案外平気そうか?
むしろ俺のほうが寂しくなるぜ…。
けれど学校に送り届けたときには流石に寂しそうな様子を見せた。一応コクヨウのために準備しておいたものを渡した。コクヨウの居場所が分かるのと同じように、俺の位置を見られる魔導具だ。まぁ位置がわかるからと言って安心できる訳ではないかもしれないが…
「コクヨウ、これで俺の居場所わかるからな。」
「…うん…帰ってこなかったら地の果てまで探しに行けるね。」
一瞬背筋に悪寒が走った気がして、反応が遅れる。コクヨウが先程見せた瞳の奥の暗い影。コクヨウの心の傷が深く、まだ癒えてはいないことが垣間見える。
「は…はははっ!コクヨウもそんな冗談言うんだな。まぁちゃんと帰ってくるからよ。行ってくるぜ」
「別に冗談なんかじゃ…。まぁいいや。タカミ行ってらっしゃい」
ひらひらと手を振って、見送ってくれるコクヨウと別れる。そして依頼人と護衛仲間との待ち合わせの北門へとやってきた。商隊の面々が丁度積み込みをしていた。
「護衛依頼を受けたタカミだ。積み込み手伝うか?」
「冒険者のタカミさんですね。私はセノと申します。旅路をお世話になります。積み込み、重い物をお願いしてもよろしいでしょうか?情けない話、非力なものでして…」
「任せてくれ。置く場所の指示を頼む。」
「はい、大変助かります。ありがとうございます」
「いや、いいんだ。力仕事は得意分野だからな。」
俺の手伝いもあって、少し早めに積み込みを終えることが出来たらしい。そこへ丁度、他の冒険者達もやって来たので、早速街を出る。
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