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ああ、もう無理かも…。そう思ってその空間から逃げ出した。パパが英雄だとわかったら周りからの態度は一変したし、様々な感情が向けられるようになった。パパの前では我慢したけど、パパが立ち去ったあとはもう駄目だった。

教室内から駆け出してそのまま向かった先は、休憩したときに使わせてもらった場所だった。学校の中とかはあんまり知らないし、唯一行ったことのあるところだったから、そこへ足が向いた。

クーが隣に並走しているのがわかる。そのまま駆けだしてしまったが、ちゃんと着いてきてくれたらしい。木の根本に座り込んで上がった息を整える。

「はっ…はぁ…はぁ…」

「ククリ…」

「クー…ごめんね…ぎゅってしていい?」

「ああ。」

凄く心配してくれてる…体が暖かな感覚に包まれる。これ…回復魔法?

「クー、ありがとう。」

「ああ、効果はないかもしれないが…。」

「ふふっその気持ちが嬉しいんだよ。」

「そうか。」

人気のない場所に来て、段々と気持ちが落ち着いてくる。そんなとき、ふと僕に影が指す。誰か来た…?クーの毛並みに埋めていた顔をぱっと上げる。

「はぁ…ここにいたのか。突然走ってくのが見えたから追いかけてきた。大丈夫か?」

「ふぁ…レンドーレさん?」 

座っている僕の顔を覗き込むように膝に手をついて姿勢を低くするレンドーレさんがいた。いきなり建物から走りさって行く僕を心配して態々追いかけてきてくれたらしい。

「おう、どうしたんだ?」

「あぁ…えっと…ちょっと気分が悪くて」

「そうだったのか…俺は…居ないほうがいいか?」

「…そんなことないです。あ、でも授業あるんじゃ…」

「ははっそんなこと構わねぇよ。」

「ありがとう。」

「気分悪いんだったか。飲み物でも持ってくるか?」

「いいんですか?」

「おう、お茶とかでいいか?」

「はい。」

「すぐ戻る。」

タタタッと掛け去っていく後ろ姿を見送る。わぁ…すっごい足早い。スー兄の本気とまでは行かないけれど、それでもすごい速さで、あっという間に見えなくなった。

それにしても…レンドーレさん優しいな。いくら知り合ったとはいえ、他人なのに。心配だったとしても、スー兄に言うだけでもいいのに態々来てくれるし。あっという間に冷たいお茶を持ってきてくれたレンドーレさんからお茶を貰う。

「ありがとうございます。…ゴクッ…」

「おう、ちょっとは落ち着いたか?」

「はい。レンドーレさん、優しいですね。」

「ははっそうか?」

「はい、そうです」

「ん、取り敢えず、邪魔じゃないならここに居てもいいか?」

「もちろん大丈夫です」

「ククリは良い子だな。」

「そうですか?」

「おう。ここ、意外と落ち着くな。」

「ですねぇ。あ、時間あるならお話しませんか?」

「いいぜ。体調は大丈夫なんだもんな?」

「はい、大丈夫です。気分悪かっただけなので。」

「そうか。あ、じゃあ俺がこの学校のお勧めスポットを教えてやろう!」

「それは是非聞きたいです。」

「おう!先ずは校舎三階の階段裏だな。滅多に人が来ないからサボりに最適だぜ!」

「ええと…?」

「はははっ!ククリは真面目そうだもんな。サボりとか考えねぇか。」

冗談だったのかな…?それとも人の居ない場所を教えてくれた、とか?まあ、スキルについて知らない筈だし、そんなわけ無いと思うんだけどそれ以降は普通に役立つ情報を聞かせてくれた。レンドーレさんと話していると楽しくて、気分悪かったのも回復していた。

今はもう大丈夫になったけど、また教室に戻ったら辛いかもなぁ…。でも荷物置きっぱなしだし戻らない訳に行かないよね。あ、今こそスキルの使い時!遠隔でも話せるもんね。

(スー兄!!スー兄!)

(ククリ?どうしたの?何かあった?)

(大丈夫なんだけど、僕の荷物取って来て欲しいなーって)

(うん、それはいいけど…ククリ、どこにいるの?)

(えっと、学校の校舎の外)

(一人?)

(ううん、クーがいるよ。あと、スー兄の知り合い。)

(は…?いや、まあいいや。すぐ行くから待っててね。)






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