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ママに手伝ってもらって密かに準備していた手作りのクッキーに手紙を添えてある。ロコさんももう帰る準備は万端みたいだ。これ以上引き留めるわけにはいかないもんね。次に会えるのを楽しみにして、笑顔でお見送りしよう。

そう思ってたよ。さっきまでは…。頭では理解していても、心が拒否する。勝手に涙が溢れる。スー兄が学校に通い始めた時と同じだ。いくら我慢したって駄目なんだよ。

「ふぇ…ろこさん~…」

「ククリ様…その様に涙を流して頂けるほどに思って頂けて私は幸せ者ですね。」

「うぅ…これ、あげる…」

「これは…」

「ククリの手作りクッキーだよ。」

「ありがとうございます。ククリ様。大切に頂きますね。」

「うん…おてがみもかいたの…。」

「ふふっありがとうございます。お返事を書きますね。」

「うん、まってる。…ぜったいだよ!」

「ええ、勿論です。約束です。」

「ロコさん、ありがとうございました。次に会うときまでにはもっと強くなっておきます!」

「ええ、スイ様は筋が良い。お教えした事も直ぐに習得できるでしょう。」

「色々世話になった。ありがとうなロコ」

「ククリの事もスイの事も、面倒みてくれてありがとう。またね、ロコ。」

「いえ、こちらこそお世話になりました。ありがとうございました。それではそろそろ失礼致します。またお会い出来るのを楽しみにしております。」

笑顔を見せて一礼し、御者席に乗り込んで魔場に合図を出す。その合図で馬車が走り出した。去っていく馬車に向かって精一杯手を振って見送る。

「またねー!!ろこさん!!」

寂しがっている僕にスー兄とクーが寄り添ってくれる。また会える。会いに行けばいい。それに手紙だって書くんだ。遠くにいても関係が絶たれる訳じゃないもんね。

「…よし、ククリ、昨日ロコさんに習ったことの復習しよう。」

「うん、スーにぃ。」

「じゃあ僕が見てあげるよ。」

「ありがとうママ!」

忘れない内に反復練習するのが大事だからね。次に会えたときには褒めてもらえるように頑張ろう。そうして練習をしていると、一通の手紙が届けられた。レオおじさんから届けられた手紙の内容は、例の子が目覚めたという報せだった。

「あのこ、だいじょーぶなの?」

「ああ、体調なんかは問題ないみたいだよ。怪我も治ってるって書かれてる。」

「そっかぁ、よかった!」

「ククリが助けた子、ようやく目覚めたんだ。」

「良かったな!ずっと心配してたもんな、ククリ」

「うん!」

「あの子の名前、ノワールだって。それから…ククリへのメッセージも添えられてる。はい、ククリ。」

「うん、ありがとう。」

(たすけてくえて、ありごとう。のわーる)

…助けてくれてありがとう、かな?字を書くのが得意じゃないのか、まだ習いたてなのかもしれない。それでも直接メッセージを伝えたくて、手紙を書いてくれたんだろう。助けられて良かった。結局、僕はなにも出来てないんだけど…。

治療したのも、綺麗にしてくれたのも、全ては世話を買って出てくれたレオおじさんのおかげだし。それでも一人眠り続けていた彼が目覚めた事は嬉しいことだ。元気になったノワールとそのうち会えるといいな。





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