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僕らが暮らしていた所の近くの街よりもずっと大きくて、毎日マーケットが開かれているらしい。取り敢えずそのマーケットを覗いてみることになった。けれどなかなかの人混みだ。手を繋いでも逸れる可能性がないわけじゃないので、気を付けなくちゃね。スー兄の手をぎゅっと握りしめる。

「ククリ、不安?」

「うん、まいごになっちゃいそう…」

「大丈夫だよ、俺がしっかりククリを見てるからね。」「こん!」

「うん、ありがとうスーにぃ、クー」

前評判通りに雑多な雰囲気だ。異国情緒溢れる商品も多く置かれていた。とは言っても僕基準だから、本当に異国の物かは分からないけど。その中で特に目を引かれたのは動物を象った置物だ。

「ママ!ここみたい!」

「ふふ、いいよククリ。好きなだけ買ってあげるからね。」

「いっこ、でいいよ?」

「一つだけでいいの?」

「うん」

石で作られたツルリとした爬虫類っぽい置物や木製の四足歩行の動物の置物。その中で一際目を引かれて止まない物があった。クーが小さくなったような置物だ。モフモフまでは再現されていないが、デフォルメされたクーにしか見えない。

僕がそれを選ぶと、本当にそれでいいのか?と何度も確認された。どうやらデフォルメよりもリアル寄りの置物が人気らしい。デフォルメキャラ可愛いのになぁ。他に見ていたお客さんもリアルな置物を選んで買っていく。

「これください!」

「はいよ、って…本当にそれでいいのかい?」

「うん!」

「そ、そうか…じゃあ包むが後で交換とかは出来ないから。」

「うん、ありがとう。」

ママが支払ってくれて、僕は置物をしっかりと自身の肩掛けカバンへと仕舞いこむ。んふふー!お部屋に大事に飾ろうっと!小さいクーだから、ちびクー?ミニクー?んー、ミニクーだな!ミニカーみたいな響きが気に入った!

「嬉しそうだなククリ。そんなに良かったのか?あの置物」

「うん!ちっちゃいクーみたいでかわいい!」

「クーみたい?あれが…?」

「うん!」

「そ、そうか、ククリは独特な感性を持ってんだな。」

パパまでそんなことを…!?そんなに変かなぁ?特徴は捉えてるし似てると思うんだけど…。そりゃあ全くの別物なのは分かるけどね。リアルなのも格好いいし可愛いけど、これはこれで良さがあると思うんだ。

「ククリ嬉しそうで可愛い!」

「もー!スーにぃ、なでなでだめー!」

「えー?こんなに可愛いのに撫でずに居られないって。」

「スーにぃもなでなでするよ?」

「うん、ありがとうククリ。」

ほっぺをすりすりされたり、撫でられたりしたので、僕もお返しにスー兄を撫でておいた。ふにゃりと笑う顔が可愛い!普段から穏やかな表情でいることが多いけど、ふにゃって笑うと本当に可愛いんだよ。

「一通りマーケットは見れたかな。他に見たい場所ある?」

「んー、どうぶつさんがいるところ!」

「動物か…それなら街よりも郊外の森で多く見られると思うぞ?」

「ククリを森に連れて行く気?パパ」

「このあたりの魔獣なら余裕だろ。」

「そうなの?」

「おう、スイでも倒せるやつしか出ない。」

「なら大丈夫かな。」

「街の中で見たいところはもうないかな?」

大きな街で栄えてるけど、観光地ってわけではないみたいだからな。珍しい物は多いけど、見たいものとかは特にないかも…。美味しいもの食べたいくらいかな。レオおじさんやシアさんたちに何か買っていくかな?

「あ!おみやげ、かう!」

「お土産か、何にする?」

「んー、おかし?シアさんたち、なにがすき?」

「んー、レオは肉だろうな。シアは甘いもん好きだぜ。シグナルドは分からねぇけど。」

「じゃああまいもの!」

「あっちの方にあるんじゃないかな?」

「そーなの?スーにぃ」

「うん、甘くていい香りがするから。」

「なら行ってみようか。」

「こん」

クーも同意するように鳴いているから、その方向に甘い香りがするのは確からしい。僕はなんにも分からないのに、やはり獣人って嗅覚が鋭いんだな。そうして辿り着いたお店で、ケーキと日持ちするお菓子を買って帰った。

人混みの中だったけれど僕は家族に囲まれていたので、怖くなったりせずに街の探索を終えることが出来た。気を張っていたので疲れた気はする。でも街を楽しめて良かったと思う。

「ふぁぁ…」

「ふふっあくびしてる。お疲れだね、ククリ。」

「まま…だっこ…」

「うん、おいで。」

抱き上げられて、目の前の温もりにすりすりする。ママはお花のいい香りがするんだ。暖かくて心地良い。微睡んでいるといつの間にか馬車に乗り込んで、ガタゴト揺られていた。






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