上 下
18 / 87

18

しおりを挟む






僕のお散歩の時間に、時折街に出るようになった。近くの街の人たちは、もうクーを見慣れているので驚いたりしないし、クーに食べ物をくれたりもするんだって。外に出るとき、クーは僕のことを守ってくれてるらしい。ママ曰く結界を張ってくれるんだって。

まぁ、ともかく僕は安全な訳だ。街に行くとママとお近づきになろうとする大人達に囲まれるのだ。ママは有名な魔法使いだからね。囲んでくるその人たちは、なんか怖いんだよなぁ。

僕がもっと人慣れすれば良いんだろうけど…今日も今日とてクーを抱き締めて、人が捌けるまでじっとしていた。昔、というか日本にいた時は人見知りとかは別になかったんだけどな。

「うーん…ここまで駄目だと、何か原因が有るのかな…。」

「げんいん?」

「そう、なんで人が怖いのか、分かる?」

「んー…あんまりよくないかんじがするから…?」

「それが分かるの?」

「うん」

「なるほど…取り敢えず、無理に街に出るのは辞めようか。ククリが怖い思いするだけだしね。」

「うん。」

結局のところ街に出るのは最低限に留めることになって、外出するとしても森へ出かけることの方が多くなった。人慣れするという目標は未達成だけど、スー兄の夏休みにレオおじさんの領地に行く時、大丈夫かな。少し不安だ。

森へ行くときはクーが同行してくれる。大体ママも一緒に来てくれるし、パパも冒険者をお休みしてる時は付き合ってくれる。そこで森を歩く方法なんかを習っているので、少しずつだけど森に詳しくなってるんだ。

近付くと危険な物とかはクーが止めてくれる事もある。綺麗な花だなーと思って近付いたら毒を持つものだったり、いい匂いだなーと思ったら肉食植物だったり…。森には危険がいっぱいだ。

「ククリ、結構慣れてきたね?」

「そーお?」

「僕にはそう見えるよ。でも、そういう自信を付け始めた時にこそ足を掬われるから、気を付けるんだよ。」

「うん!」

「ククリは良い子だなー!良く勉強もしてるみてぇだし。」

「んふふ!」

「よしよーし!可愛いな。」

パパの大きな手でわしわしと撫でられる。ぐりんぐりんと撫でられるのに合わせて頭が揺れる。なかなか激しいなで方だけどそれも嫌いじゃない。パパは筋肉凄いから、優しく撫でてても僕には強いんだ。もっと鍛えていつかパパの撫で撫でを平然と受け止められる男になる!

「ふんすっ!」

「ククリ、どうしたの?」

「ん?なんでもないよ?」

頬をペちんと叩いて気合を入れてたのを変な目で見られてしまった。気合を入れる、みたいなのはこちらの世界では別の動きなのだろうか?ともかく頬を叩いたりはしないらしい。気をつけよう。人前では不自然に映るみたいだし。

「ねぇクー、きょうはどこまでいく?みずうみ?」

「こーん」

「ちがうの?」

「こん」

「んん、どこいくの?」

「こんこん」

ついておいで、とばかりに前に出て歩き始めるクー。よく狩りに出かけているだけあって、森にも詳しく、よく景色の綺麗なところに連れて行ってくれるんだ。クーは安全なルートを通ってくれるので、魔獣に襲われることはない。そもそもクーは強いから向かってくる魔獣自体が殆どいないんだけどね。

「どこ行くつもりなんだろうな?」

「さぁね。僕もよくこの森の探索はしてたけど、そんな僕でも全く知らなかった所に連れて行ってくれるからね。」

「ほぉ、そりゃ楽しみだな。」

「んふふー!クーはすごいんだよ!」

「こん!」

クーの尻尾がご機嫌に揺れる。そんなふさふさ尻尾に頬を擽られる。近付きすぎていたみたいだ。くすぐったい。

「ふぁ!クーのしっぽ…」

「はははっ!段々近付いてってたぞククリ」

「だってもふもふが、めのまえにあるんだもん…」

「ふふっほんとにククリはもふもふが好きだねぇ。」

「うん!」

30分程歩いた所でクーが立ち止まる。そこは美しく花が咲いている場所だった。そんなに広い花畑ではないけど、花の甘い香りも相まってとても良い場所だった。そこで休憩を取ることにして、ママが軽食として作ってくれたサンドイッチを食べる。サンドイッチの中身はお肉だったり、卵だったりでとても美味しかった。

それにしても良い場所だなぁ。クーはよくこんな穴場知ってるよね。もしかしたら僕達の為に探してくれてるのかなぁ、とか思ったり…?真相はわからないけど、取り敢えず素敵な場所を教えて貰ったお礼に撫で撫でしておこう。クーも撫でられるの好きみたいだからね。僕達はウィンウィンな関係なのだ!

「おお、珍しい植物生えてんな。なかなかの報酬になるやつだぞ!」

「ケル…情緒がない…」

「わ、悪い!き、綺麗だなー。」

「はぁ…まぁいいけど。ククリ、お昼寝する?」

「んー、うん!ちょっとだけ、する。クー、いっしょ」

「こん」
 
「ほんとに仲良しだね。」

「はぁ…俺にももっと懐かねぇかな…ククリ」

「ケルはククリといる時間が短いからね。」

「だよなぁ…依頼受けてたら帰らないこともあるし…」

「まぁ、僕には懐いてるから良いけどね。」

「んぅ…すぅ…すぅ…」

「よく寝てんな。あー…可愛い。」

「起こさないでよ?」

「おう、気を付ける。」

寝顔をガン見されてるなんて知らずにぐっすり眠った。30分ほどで起きて、また歩いて帰る。途中で暗くなり始めたので、パパに抱っこしてもらった。んふふ、逞しくて頼もしい。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

巻き込まれ異世界転移者(俺)は、村人Aなので探さないで下さい。

はちのす
BL
異世界転移に巻き込まれた憐れな俺。 騎士団や勇者に見つからないよう、村人Aとしてスローライフを謳歌してやるんだからな!! *********** 異世界からの転移者を血眼になって探す人達と、ヒラリヒラリと躱す村人A(俺)の日常。 イケメン(複数)×平凡? 全年齢対象、すごく健全

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

処理中です...