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しおりを挟む僕のお散歩の時間に、時折街に出るようになった。近くの街の人たちは、もうクーを見慣れているので驚いたりしないし、クーに食べ物をくれたりもするんだって。外に出るとき、クーは僕のことを守ってくれてるらしい。ママ曰く結界を張ってくれるんだって。
まぁ、ともかく僕は安全な訳だ。街に行くとママとお近づきになろうとする大人達に囲まれるのだ。ママは有名な魔法使いだからね。囲んでくるその人たちは、なんか怖いんだよなぁ。
僕がもっと人慣れすれば良いんだろうけど…今日も今日とてクーを抱き締めて、人が捌けるまでじっとしていた。昔、というか日本にいた時は人見知りとかは別になかったんだけどな。
「うーん…ここまで駄目だと、何か原因が有るのかな…。」
「げんいん?」
「そう、なんで人が怖いのか、分かる?」
「んー…あんまりよくないかんじがするから…?」
「それが分かるの?」
「うん」
「なるほど…取り敢えず、無理に街に出るのは辞めようか。ククリが怖い思いするだけだしね。」
「うん。」
結局のところ街に出るのは最低限に留めることになって、外出するとしても森へ出かけることの方が多くなった。人慣れするという目標は未達成だけど、スー兄の夏休みにレオおじさんの領地に行く時、大丈夫かな。少し不安だ。
森へ行くときはクーが同行してくれる。大体ママも一緒に来てくれるし、パパも冒険者をお休みしてる時は付き合ってくれる。そこで森を歩く方法なんかを習っているので、少しずつだけど森に詳しくなってるんだ。
近付くと危険な物とかはクーが止めてくれる事もある。綺麗な花だなーと思って近付いたら毒を持つものだったり、いい匂いだなーと思ったら肉食植物だったり…。森には危険がいっぱいだ。
「ククリ、結構慣れてきたね?」
「そーお?」
「僕にはそう見えるよ。でも、そういう自信を付け始めた時にこそ足を掬われるから、気を付けるんだよ。」
「うん!」
「ククリは良い子だなー!良く勉強もしてるみてぇだし。」
「んふふ!」
「よしよーし!可愛いな。」
パパの大きな手でわしわしと撫でられる。ぐりんぐりんと撫でられるのに合わせて頭が揺れる。なかなか激しいなで方だけどそれも嫌いじゃない。パパは筋肉凄いから、優しく撫でてても僕には強いんだ。もっと鍛えていつかパパの撫で撫でを平然と受け止められる男になる!
「ふんすっ!」
「ククリ、どうしたの?」
「ん?なんでもないよ?」
頬をペちんと叩いて気合を入れてたのを変な目で見られてしまった。気合を入れる、みたいなのはこちらの世界では別の動きなのだろうか?ともかく頬を叩いたりはしないらしい。気をつけよう。人前では不自然に映るみたいだし。
「ねぇクー、きょうはどこまでいく?みずうみ?」
「こーん」
「ちがうの?」
「こん」
「んん、どこいくの?」
「こんこん」
ついておいで、とばかりに前に出て歩き始めるクー。よく狩りに出かけているだけあって、森にも詳しく、よく景色の綺麗なところに連れて行ってくれるんだ。クーは安全なルートを通ってくれるので、魔獣に襲われることはない。そもそもクーは強いから向かってくる魔獣自体が殆どいないんだけどね。
「どこ行くつもりなんだろうな?」
「さぁね。僕もよくこの森の探索はしてたけど、そんな僕でも全く知らなかった所に連れて行ってくれるからね。」
「ほぉ、そりゃ楽しみだな。」
「んふふー!クーはすごいんだよ!」
「こん!」
クーの尻尾がご機嫌に揺れる。そんなふさふさ尻尾に頬を擽られる。近付きすぎていたみたいだ。くすぐったい。
「ふぁ!クーのしっぽ…」
「はははっ!段々近付いてってたぞククリ」
「だってもふもふが、めのまえにあるんだもん…」
「ふふっほんとにククリはもふもふが好きだねぇ。」
「うん!」
30分程歩いた所でクーが立ち止まる。そこは美しく花が咲いている場所だった。そんなに広い花畑ではないけど、花の甘い香りも相まってとても良い場所だった。そこで休憩を取ることにして、ママが軽食として作ってくれたサンドイッチを食べる。サンドイッチの中身はお肉だったり、卵だったりでとても美味しかった。
それにしても良い場所だなぁ。クーはよくこんな穴場知ってるよね。もしかしたら僕達の為に探してくれてるのかなぁ、とか思ったり…?真相はわからないけど、取り敢えず素敵な場所を教えて貰ったお礼に撫で撫でしておこう。クーも撫でられるの好きみたいだからね。僕達はウィンウィンな関係なのだ!
「おお、珍しい植物生えてんな。なかなかの報酬になるやつだぞ!」
「ケル…情緒がない…」
「わ、悪い!き、綺麗だなー。」
「はぁ…まぁいいけど。ククリ、お昼寝する?」
「んー、うん!ちょっとだけ、する。クー、いっしょ」
「こん」
「ほんとに仲良しだね。」
「はぁ…俺にももっと懐かねぇかな…ククリ」
「ケルはククリといる時間が短いからね。」
「だよなぁ…依頼受けてたら帰らないこともあるし…」
「まぁ、僕には懐いてるから良いけどね。」
「んぅ…すぅ…すぅ…」
「よく寝てんな。あー…可愛い。」
「起こさないでよ?」
「おう、気を付ける。」
寝顔をガン見されてるなんて知らずにぐっすり眠った。30分ほどで起きて、また歩いて帰る。途中で暗くなり始めたので、パパに抱っこしてもらった。んふふ、逞しくて頼もしい。
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