狂ウルウ

男子高校生の狂気

日本の片隅にある一高校。地元に馴染んだ高校であって、有名校というわけでもなかった。しかし…一夜にして、全世界に名前が知れ渡ることになる。何故ならそこで起こった事件は、世界でも例を見ないほどに摩訶不思議で怪奇なものであったから。

それがどれくらい不思議かというと、UFOや宇宙人くらい？いや、神話の世界で語られる物語くらい、かな。

まぁそんな例えに意味なんかない。その事件の内容を知れば、その奇怪さを否応なしに理解することになるのだから。

そして…その事件の真相を知る人は、犯人とたった一人の生き残りの少女以外には存在していないのだから。




少年A

少年犯罪ではよく用いられる仮名。

そう呼ばれるに至った少年は、一言で言えば劣等生であった。カーストの底辺に位置していた。だからといって虐められていた、という事実は学校側によると確認されていないのだが。

まぁよくある話であって、彼が普通で無かった、というだけのことだ。いや、彼が狂気に染まってしまったのは、"掃除屋"に出会ってしまったからなのかもしれない。

それまでは普通で最低な日々を送っていたのだから。


眠れないまま朝日が指す。寝不足で重だるい身体を起こす。学校に行かない、という選択肢は僕には無い。

「お…おはよう…ございます…」

「おはよーお母さん、ねぇ今日休んでいい？なんかだるい」

母に向けてした筈の僕の挨拶は後からやってきた妹の声にかき消される。そして当たり前のように僕は無視され、母の意識は妹だけに向けられる。そんなに大きな声を出す事ができる時点でそんなに体調だって悪くないに決まってる。

「おはよう、春ちゃん、大丈夫かしら？熱測っておきなさいね。休んでいいから」

「うん…ありがと。」

体調の悪い子供を心配する優しい母の姿は理想的な母親と言っていいだろう。もう一人の子供の存在を無いものとして扱っていることを除けば、だが。

僕だって…今更家族なんかに期待なんかしていない。

妹と父と母が話す声を背にひっそりと家を出る。そして行きたくもない学校へと向かう。学校での扱いも家での扱いと大差ない。頭の良い学校なだけあって、直接的に攻撃してくることはない。ただし、その分陰湿になるというもので、モノがなくなるのは日常茶飯事。そしてそれはすべて僕が自分で失くしたことになる。なぜなら僕がこの学校の最底辺で頭が悪いから。

そんな理由とも言えない理由で虐められ続けている。死のうと思うことだってあったけれど、死んだ所で誰ひとり反省などしないのだ。そんなこと、イジメで自殺した先人たちのニュースを見ていれば分かる。"そのような事実は確認出来ておりません。"なんていう常套句で僕の死は意味の無いものに成り下がる。

ただでは死んでやらない。僕は総てをブチ壊してやりたい。何もかも…僕を無視して幸せそうな家庭を演じるクソみたいな家族も、学校の関係者も。

「おっはよー、底辺くん。もう来なくていいって言ったよね？なんで来てんの？」

「……」

「うっわー…無視？俺傷付いちゃーう…お前が俺を先に傷付けたんだから、お前が傷付くのも当然だよな？」

そう言った彼が何か仕掛けているだろう事は分かっている。それでも僕はそれを避ける事は許されない。もっと酷いことをされるくらいなら、大人しく…その方が楽だから。椅子に座ったとき、ぐさりと画鋲が突き刺さる。痛い…。


家にも学校にも居たくない。そして家に帰る時間を遅らせるため、繁華街をぶらついていた。そんな時だ、"掃除屋"のことを聞いたのは。

…クソみたいな日常を僕はブチ壊す事に決めた。

居ても居なくても良かった。だけど彼は…掃除屋は確かに存在した。