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番外編2

今日の佳き日に こぼれ話

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 教会の周りには沢山の人が集まっていた。
 招待客ではない。王都に住む平民たちだ。
 貴族の煌びやかな生活に触れる機会のない彼らにとって、その世界を垣間見れる結婚式はこの上ない娯楽となる。話を聞きつけた平民たちが少しでも覗き見ようと教会を囲むのはいつもの光景だった。
 勿論警備の騎士が教会を囲んでいるので敷地に入ることはできないが、華やかなドレスを着た人々が幸せに溢れた新郎新婦を出迎える姿を遠目に見るだけで彼らも幸せになれるのだ。

 その中に一組の家族がいた。
 ジョッシュとエミリー、2歳になる2人の娘である。
 少女は華やかなドレスを着た貴婦人たちに喜んで両手を伸ばしているが、ジョッシュとエミリーは見つからないよう木陰に身を隠している。

 王都の外れで暮らすエミリーたちが貴族の情報を知ることはできない。
 繋がりがあるのも時々隠れてやってくるジョッシュの両親とマーサだけだ。どちらも身分を隠してやってくるので、娘は両親が元貴族だなんて思っていないだろう。今日のことが知れたのも、マーサがこっそり教えてくれたからだ。


 
 教会の扉が開き、新郎と新婦が外に出てくる。
 ワッと沸いた歓声の中、眩しそうに目を細めた新郎新婦は幸せそうに見つめ合い、ゆっくりと歩き出した。



「お義姉様、きれい……」

 教会の格式も招待客の数も、幸せそうに輝く笑顔さえ自分たちの結婚式とは違っている。
 あんなに嫌い、妬み、憎んだ義姉だったのに、少しもそんな感情は浮かばなかった。
 それどころか、あんな最低なドレスを着て、母の望み通りに参列者たちの笑い者にならなくて良かったと心から思う。
 そう思える自分が嬉しかった。

「うん。とても綺麗で幸せそうだ」

 涙を流しながら小さく手を叩く妻の肩を抱き寄せてジョッシュが囁く。
「おひめちゃま!」と喜ぶ娘と3人、ジェーンとノティスの姿が馬車の中へ消えるまで見つめ続けた。








 ジェーンとノティスの結婚披露パーティーはキャンベル侯爵邸の大広間で行われた。
 有名な会場を押さえて行われることも多い結婚披露パーティーだが、アンジュが買い集めた悪趣味な調度品で溢れた侯爵邸を覚えている者もいる。
 新しくなった侯爵邸のお披露目も兼ねてこの場所で行うことにしたようだ。


「まあ、美しいわ……」

 結婚披露パーティーなので、いくら王太子夫妻とはいっても勝手に邸内を歩きまわることはできない。
 それでも玄関を一歩入ったところからアリシアの知っている侯爵邸とは全く違っていることがわかった。
 玄関ホールから続く螺旋階段の上にはサンドラの肖像画が掛けられている。現在の当主はジェーンなので本来ならばおかしいが、ノティスと2人で描かれるまでサンドラの肖像画を掛けておくのだろう。もう隠しておく必要もない。
 生前のサンドラを知る者は肖像画の見える場所で立ち止まり、しばし故人を偲んでいた。

 

 パーティーは盛大に催され、ジェーンとノティスは祝いを言いに来る人たちに囲まれている。
 アリシアとレイヴンも2人に祝いを述べた後、少し友人たちと話をして早々に侯爵邸を辞した。

 国王と王妃は結婚式の後すぐに王宮へ帰っている。レイヴンとアリシアも立場上臣下のパーティーに長居することはできない。
 それでも新しくなった侯爵邸を見ることができたのでアリシアは嬉しかった。
 カナリーの時のように侯爵夫妻が初めて開く舞踏会の時にも顔を出すことはできるだろうから、もう一度くらいは侯爵邸を見ることができるだろう。

「舞踏会じゃなくてもお忍びで行けば良いよ」

 馬車に乗り込むと、隣りに座ったレイヴンがアリシアの心を読んだように囁く。
 アリシアは驚いてレイヴンの顔を見た。レイヴンは悪戯っ子のような顔で笑っている。

 かつてジョッシュとエミリーの噂を聞いたアリシアは、我慢できずに飛び出した。
 あれがジェーンの転機となった。
 王太子妃としてはお忍びで臣下の邸を訪れようとする王太子を止めなければならないだろう。
 だけど楽しみに思う自分がいる。

「………時々ですよ。時々」

 目を逸して後ろめたそうに応えるアリシアにレイヴンは嬉しそうに笑った。



 王太子宮に戻るとレイヴンとアリシアはさっと湯浴みをして楽な服に着替えた。
 お腹が大きくなっているアリシアはもうずっとワンピースだ。
 本当はすぐにクロウのところへ行きたかったが、そうしなかったのは一度クロウに会うと中々離れられないと思ったからだ。
 そしてその予想は見事に当たった。

「ただいま、クロウ」

 子ども部屋に入ると積み木で遊んでいたクロウがピタッと動きを止めてレイヴンとアリシアを見る。
 我に返ると手に持っていた積み木を放り出して走り出した。

とちゃーーー父様っ!かちゃーーー母様っ!」

 2人のところまで走ってくると、アリシアのワンピースにしがみついて泣き声を上げる。
 クロウが生まれてから、レイヴンとアリシアが休日に出かけるのはこれが初めてだった。
 まだ1歳なので曜日の区別がついているのかわからないが、2人がいない5日を乗り越えれば一緒に過ごせる
日が2日ある。本能でそう覚えているのだろう。
 それなのに、5日我慢したのに、2人がいなかった。

「まあまあ。先程までご機嫌でしたのに、お2人のお顔を見ると淋しかったことを思い出したようですね」

 ルクセンヌ伯爵夫人がくすくす笑う。
「よくあることですよ」とマリアンも微笑ましく見守っている。
 だけどアリシアは力の限り声を上げて泣くクロウに胸がキュッと痛くなった。それはレイヴンも同じようだ。

「ごめんね、クロウ。淋しかったね」

「とちゃーーーっ!」

 レイヴンがしゃがんで背中を撫でるとクロウがレイヴンにしがみつく。
 レイヴンは一度クロウをぎゅっと抱き締めると、そのまま抱き上げてソファへ移動した。勿論片手ではアリシアの腰を抱いている。

「今は好きなだけ泣かせてあげて下さい」

 ルクセンヌ伯爵夫人の言葉にレイヴンは頷く。アリシアと2人で背や頭を撫でて宥めながら、今日見てきた幸せな光景を話しだした。
 そうしてクロウのご機嫌が直った後も、クロウが眠るまで3人で過ごした。





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最近全然書けてなかったので、リハビリ的に書きました。
公開してから結婚式はジェーン視点で書いた方が良かったと後悔(^_^;)
これも勉強ですね……



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