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第2部 6章
97 それぞれの後悔①
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困ったな。
アリシアの部屋を辞したレオナルドは溜め息をついた。
アリシアが抱えているのは罪悪感だ。
ジェーンに直接非難されたわけではない。それどころかジェーンは今も知らぬふりを続けている。
だからこそアリシアは己の企みを認めて謝ることもできないのだ。
最も言葉にして認めるにはあまりにも重大なことだ。文に認めたりして、万が一他に漏れたら大変なことになる。
ここはレイヴンが考えたとおりに2人を会わせ、直接話しをさせるしかないだろう。
その時の人払いは念入りに。レオナルドが扉の前に立っても良い。
そんな決意を秘めたまま、レオナルドは王太子宮を出た。
そんなレオナルドのところへノティスが訪ねてきたのは数日後のことである。
レオナルドは驚きを持ってノティスを迎え入れた。
ノティスとは何度も顔を合わせているが2人きりで会ったことはなく、ノティスがレオナルドの執務室へ訪れるのも初めてだ。むしろ執務棟へ足を踏み入れるのも初めてなのではないかと思われた。
それなのにレイヴンのところではなくレオナルドのところへ来たのはなぜなのか。
レオナルドは嫌な予感がした。
一通り挨拶を終えた後、レオナルドとノティスは応接用のソファに向かい合って座る。テーブルにはフランクが淹れた紅茶が置かれていた。
だけどノティスは紅茶を味わう余裕もない様子でレオナルドにある文を差し出した。
「ジェーン嬢は結婚式を欠席するようです……」
「なんですって?!」
驚いたレオナルドは受け取った文へ視線を落とす。
ノティスの顔を窺い、頷いたのを見て文を開いた。
それはジェーンからノティスへ宛てられた文だった。
時節の挨拶や近況を述べた後、結婚式に言及している。おそらく結婚式用のドレスを贈ると書かれたノティスの文に対し、「今取り組んでいる施策に手間を取られている為、領地を離れることができません。ドレスを贈っていただいても無駄になってしまいそうです」と書かれていた。
ジェーンが領地で行っている施策に関してはルトビア公爵家で大体把握している。後見となり資金を援助しているのだから当然のことだ。
そしてレオナルドが知る限り、数日領地を開けることもできないような施策は行っていないはずだった。
「ジェーン嬢と義姉上は仲違いされているのでしょうか。その、わたしのせいで……?」
「っ?!」
レオナルドは驚いて顔を上げた。そして思い至る。
どんなに忙しくてもこれまでのジェーンであればアリシアの出産祝いに駆けつけないはずがないのだ。それを断られた時点で2人の仲がおかしいことに気がついていたのだろう。
そして今回のことで決定的になった。
ノティスはノティスなりに考えたのだろう。そして切っ掛けはアリシアのキトラ訪問だと気がついた。
あの時キトラにはノティスがいた。2人の縁談が進んでいると知らなかったアリシアは呆然としていたものだ。
ノティスは自分だけ知らされていなかったことがアリシアの気に触ったのでは、と思ったのだろう。
「大丈夫ですよ。確かに今2人の仲はうまくいっていると言えませんが……。ノティス殿下には責任のないことです。それに今は拗れていたとしても2人の仲が簡単に壊れることはありません。すぐ元の通りに戻りますよ」
レオナルドはふわりとした笑顔を見せる。
半分は願望を含んだ言葉だが、ノティスに責任がないのは事実だ。いや、それどころか問題を抱えているのはアリシアだけである。
レオナルドは「本当に大丈夫でしょうか……」と視線を落とすノティスに、笑顔で頷く。
だけど一度ジェーンと話す必要があるだろう。
ジェーンが滞在している街を思い浮かべたレオナルドは、休暇を申請すべく往復に掛かる日数を数え始めた。
アリシアの部屋を辞したレオナルドは溜め息をついた。
アリシアが抱えているのは罪悪感だ。
ジェーンに直接非難されたわけではない。それどころかジェーンは今も知らぬふりを続けている。
だからこそアリシアは己の企みを認めて謝ることもできないのだ。
最も言葉にして認めるにはあまりにも重大なことだ。文に認めたりして、万が一他に漏れたら大変なことになる。
ここはレイヴンが考えたとおりに2人を会わせ、直接話しをさせるしかないだろう。
その時の人払いは念入りに。レオナルドが扉の前に立っても良い。
そんな決意を秘めたまま、レオナルドは王太子宮を出た。
そんなレオナルドのところへノティスが訪ねてきたのは数日後のことである。
レオナルドは驚きを持ってノティスを迎え入れた。
ノティスとは何度も顔を合わせているが2人きりで会ったことはなく、ノティスがレオナルドの執務室へ訪れるのも初めてだ。むしろ執務棟へ足を踏み入れるのも初めてなのではないかと思われた。
それなのにレイヴンのところではなくレオナルドのところへ来たのはなぜなのか。
レオナルドは嫌な予感がした。
一通り挨拶を終えた後、レオナルドとノティスは応接用のソファに向かい合って座る。テーブルにはフランクが淹れた紅茶が置かれていた。
だけどノティスは紅茶を味わう余裕もない様子でレオナルドにある文を差し出した。
「ジェーン嬢は結婚式を欠席するようです……」
「なんですって?!」
驚いたレオナルドは受け取った文へ視線を落とす。
ノティスの顔を窺い、頷いたのを見て文を開いた。
それはジェーンからノティスへ宛てられた文だった。
時節の挨拶や近況を述べた後、結婚式に言及している。おそらく結婚式用のドレスを贈ると書かれたノティスの文に対し、「今取り組んでいる施策に手間を取られている為、領地を離れることができません。ドレスを贈っていただいても無駄になってしまいそうです」と書かれていた。
ジェーンが領地で行っている施策に関してはルトビア公爵家で大体把握している。後見となり資金を援助しているのだから当然のことだ。
そしてレオナルドが知る限り、数日領地を開けることもできないような施策は行っていないはずだった。
「ジェーン嬢と義姉上は仲違いされているのでしょうか。その、わたしのせいで……?」
「っ?!」
レオナルドは驚いて顔を上げた。そして思い至る。
どんなに忙しくてもこれまでのジェーンであればアリシアの出産祝いに駆けつけないはずがないのだ。それを断られた時点で2人の仲がおかしいことに気がついていたのだろう。
そして今回のことで決定的になった。
ノティスはノティスなりに考えたのだろう。そして切っ掛けはアリシアのキトラ訪問だと気がついた。
あの時キトラにはノティスがいた。2人の縁談が進んでいると知らなかったアリシアは呆然としていたものだ。
ノティスは自分だけ知らされていなかったことがアリシアの気に触ったのでは、と思ったのだろう。
「大丈夫ですよ。確かに今2人の仲はうまくいっていると言えませんが……。ノティス殿下には責任のないことです。それに今は拗れていたとしても2人の仲が簡単に壊れることはありません。すぐ元の通りに戻りますよ」
レオナルドはふわりとした笑顔を見せる。
半分は願望を含んだ言葉だが、ノティスに責任がないのは事実だ。いや、それどころか問題を抱えているのはアリシアだけである。
レオナルドは「本当に大丈夫でしょうか……」と視線を落とすノティスに、笑顔で頷く。
だけど一度ジェーンと話す必要があるだろう。
ジェーンが滞在している街を思い浮かべたレオナルドは、休暇を申請すべく往復に掛かる日数を数え始めた。
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