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番外編

思い出のブローチ

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「お母様、お願いがあるの」

「私もお願いがあるの、お母様」

 ここはいつものキャンベル侯爵邸である。
 子どもたちを連れて集まったオレリア、アシュリー、サンドラは日当たりの良いサンルームでお茶を飲んでいた。
 レオナルドやロバートと一緒に庭園で遊んでいたはずのアリシアとジェーンがそれぞれの母親のところへ駆け込んできたのだ。

「お願い?」

「まあ、何かしら?」

 母親たちが興味深そうに問い掛けると、2人はきらきらした目で声を揃えた。

「私たち、お揃いのものが欲しいの!」
「私たち、お揃いのものが欲しいの!」



「……お揃いのもの?」

 オレリアとサンドラが顔を見合わせる。
 そこへ遅れて到着をしたレオナルドとロバートが笑いながら説明をした。

「2人はお揃いの装飾品が欲しいのですよ。髪飾りとか首飾りとか……。お揃いなら何でも良いみたいです」

「先日のお茶会で見た伯爵令嬢たちの髪飾りが余程羨ましかったみたいですね」

 6歳になったアリシアとジェーンは他家の集まりに呼ばれるようになった。
 先日も伯爵家に招かれている。お茶会というほどちゃんとしたものではないが、同じ年頃の子どもたちを集めて交流させようという催しである。

 そこにはアリシアたち以外にもたくさんの令嬢子息が招かれていた。
 その中で招待主である伯爵家の令嬢と仲良しだという伯爵令嬢がお揃いの髪飾りをしていたのだ。
 その時も2人を羨ましそうに眺めていたアリシアとジェーンだが、先日の思い出話をしている内にどうしてもお揃いのものが欲しくなってしまったらしい。

「お揃いは仲良しの証なんだって」

「私たちも仲良しよ。だからお揃いのものが欲しいの!」

 オレリアとサンドラはまた顔を見合わせた。
 アシュリーは「まあまあ、女の子は良いわねぇ…」と羨ましそうに溜息をついている。確かにレオナルドとロバートがどんなに仲が良くても、2人でお揃いのものを、とは言わないだろう。そもそもモルガン伯爵家の3人は独立心が強いので、誰かと合わせるのは嫌がりそうだ。

 2人がもっと幼い頃はお揃いのドレスを着せ、同じ髪型をさせていたオレリアとサンドラである。2人がお揃いの装飾品を持つというのも抵抗はない。
 ただ貴族たちは成長するにつれて流行の最先端を追うようになる。誰かと同じであることを嫌い、新しい流行りを生もうと躍起になるものだ。
 それがわかっていたから、2人が物心ついてからはお揃いの格好をさせるのを止めていた。

 だけどその2人が自らお揃いのものが欲しいと言い出したのだ。
 社交界に出る前の、懐かしい思い出になるかもしれない。
 そう思ったオレリアとサンドラは、アダムも交えて話し合い、2人の目の色と同じエメラルドのブローチを作ることにした。
 既製品ではなく、2人だけのブローチを作ったのが公爵家と侯爵家の誇りである。
 他の者が同じブローチを手に入れることはできないのだ。




「まあ、綺麗……っ!」

「私たちの瞳の色ね!」

 ブローチを初めて見たアリシアとサンドラは美しいブローチに感嘆の声を上げた。
 小ぶりながら成長して社交界へ出るようになっても使えるデザインになっている。周りを縁取るピンクゴールドの台座も美しい。

「2人がいつまでも仲良くいられるようわたしたちからの贈り物だ。大切にしなさい」

「はい!お父様!」

「ありがとうございます!」

 アダムからブローチを受け取った2人は感嘆の声を上げる。
 早速胸元につけた2人はレオナルドとロバートに見せようと部屋を飛び出した。

「2人とも!廊下を走ってはいけませんよ!!」

 オレリアの声が2人の背中を追う。
 その声が聞こえないように、2人は歓声を上げながら走っていた。



 ジェーンのブローチは数年後、エミリーに奪われてしまうのだが……。
 それまでは2人が顔を合わせる時、必ず2人の胸元で煌めいている宝物になった。





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番外編 処罰の後 29話でエミリーの宝箱から出てきたブローチです!



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