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第2部 6章
79 密か事②
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アリシアが王領へ移り、懐妊が公布されると、ルトビア公爵家も祝いに訪れる人や届けられる品で一気に騒がしくなった。また、公爵家から王領のアリシアへ品や文を送るのに人目を気にする必要もなくなった。
そんな中でマリアンがロバートの商会へ行く機会も増えた。ロバートはアリシアの為に国内に留まっていたから、マリアンと顔を合わせるようになったのだ。
そうして想いを確かめ合った2人は、共に過ごす未来を選んだ。
ロバートがレオナルドへ相談したというのも大体想像できた。
マリアンは平民の娘で、ロバートは子爵なのだ。
「わたしは身分に拘らないと言ったのですが、彼女が気にしましてね。何か策はないかとレオナルドへ相談したのですよ」
貴族でも男爵家や子爵家なら裕福な平民と縁を結ぶ家もある。
特段おかしなことではないが、マリアンは気にしたのだろう。今は子爵であってもロバートは伯爵令息なのだ。自分のせいでロバートの経歴に傷をつけたくないと考えたのだ。
「時を同じくして妃殿下の侍女、エレノア殿から相談を受けましてね。当家の侍女をリンメル子爵家の養女に貰えないかと」
「実はマリアンとは度々文を交わしていたのです。妃殿下のことを一番把握しているのは彼女ですから。随分と勉強になりました」
「………………」
エレノアは以前からマリアンと交流があったように言っているが、そんな様子は見受けられなかった。
2人が初めて交わったのは、アリシアが王領へ移った時のはずだ。あの時、2人は長い時間話をしていたと聞いているが、分かり合うことがあったのだろうか。そしてその後もアリシアの知らないところで交流が続いていたのかもしれない。
思えば最近並べられるものは、食べ物にしても着るものにしても完全にアリシアの好みにあうものだった。
エレノアと交流を持つことで、マリアンは僅かながらもアリシアの様子を知ることができる。そしてエレノアもマリアンと交流を持つことで、アリシアの好みや望みを把握することができた。
「交流を持つ内に、少しずつ私的な話をするようになったのですが、その中で悩みを打ち明けられたのです。想い合う方ができたけれど、身分が違うので受け入れることができない、と」
「っ!!」
身分の違いからマリアンは一度ロバートを諦めようとしたのだ。
だけどロバートは諦められなかったのだろう。そしてエレノアも諦めさせたくないと思った。
「同時に私は、マリアンをもう一度妃殿下のお傍で仕えさせることはできないかと考えていたのです。なので父に相談しました。友とも妹とも思う方を養女にして貰えないか、と。父はすぐに承諾して下さいました」
エレノアの父、リンメル子爵がマリアンを養女としてすぐに受け入れたのは理解できた。
マリアンは平民とはいえ、ルトビア公爵家の血筋の娘だ。父親も一族の重鎮として尊重されている。それにロバートとの縁談が決まっているのなら、モルガン伯爵家とも繋がりを持てる。
リンメル子爵にとってはメリットしかない話である。
「マリアンが王宮へ上がれなかったのは身分がなかったせいです。ですが今や子爵令嬢となりました。王子殿下の侍女頭として、これ以上信頼のおける者はいないと存じます。どうかマリアンをお任じ下さいませ」
マリアンがクロウに仕えてくれるのなら、アリシアにとってもこれ以上ないことである。アリシアはレイヴンの顔を窺った。
レイヴンは、マリアンがアリシアへ向ける忠誠を認めてくれているが、マリアンはレイヴンへ敵意を向けていた。
そんな相手に息子の世話を任せてくれるだろうか。
「……アリシアやクロウに何かあった時、必ず僕に報告すること。それが条件だ」
「っ!!」
アリシアは目を見開いた。
レイヴンが言っているのは、アリシアがデミオンに鞭で打たれた時のことだ。あの時、マリアンはアダムに逆らってもアリシアの言葉に従い、それを隠した。
だけど今後同じことがあった時は、必ずレイヴンに報告すること。アリシアやクロウが何と言ったとしても隠すことは許さないと言っているのだ。
それを誓わなければ、レイヴンにとって信頼に足る者ではない。
「……必ずお言葉に従うと誓います。同じ過ちは二度と犯しません」
マリアンは胸に手を当てて誓いを立てた。
あのことはマリアンにとっても苦い後悔となって圧し掛かっているのだ。
アリシアに従ったことでキャンベル侯爵位は守られたけれど、ジェーンはその後も暴力を受けることになってしまった。
同じ後悔はアリシアもしている。
もっと早くレイヴンに相談できていたら、もっと早くにジェーンを救えたかもしれない。
「それじゃあ僕に異論はないよ。マリアンをクロウの侍女頭に任命しよう。ルクセンヌ伯爵夫人と良く相談をしてクロウを守ってくれ」
「ありがとうございます!」
部屋の中がわっと湧いた。
皆どうなるのか見守っていたらしい。
とにかくこれで頼もしい侍女がクロウに付いたのだ。
そんな中でマリアンがロバートの商会へ行く機会も増えた。ロバートはアリシアの為に国内に留まっていたから、マリアンと顔を合わせるようになったのだ。
そうして想いを確かめ合った2人は、共に過ごす未来を選んだ。
ロバートがレオナルドへ相談したというのも大体想像できた。
マリアンは平民の娘で、ロバートは子爵なのだ。
「わたしは身分に拘らないと言ったのですが、彼女が気にしましてね。何か策はないかとレオナルドへ相談したのですよ」
貴族でも男爵家や子爵家なら裕福な平民と縁を結ぶ家もある。
特段おかしなことではないが、マリアンは気にしたのだろう。今は子爵であってもロバートは伯爵令息なのだ。自分のせいでロバートの経歴に傷をつけたくないと考えたのだ。
「時を同じくして妃殿下の侍女、エレノア殿から相談を受けましてね。当家の侍女をリンメル子爵家の養女に貰えないかと」
「実はマリアンとは度々文を交わしていたのです。妃殿下のことを一番把握しているのは彼女ですから。随分と勉強になりました」
「………………」
エレノアは以前からマリアンと交流があったように言っているが、そんな様子は見受けられなかった。
2人が初めて交わったのは、アリシアが王領へ移った時のはずだ。あの時、2人は長い時間話をしていたと聞いているが、分かり合うことがあったのだろうか。そしてその後もアリシアの知らないところで交流が続いていたのかもしれない。
思えば最近並べられるものは、食べ物にしても着るものにしても完全にアリシアの好みにあうものだった。
エレノアと交流を持つことで、マリアンは僅かながらもアリシアの様子を知ることができる。そしてエレノアもマリアンと交流を持つことで、アリシアの好みや望みを把握することができた。
「交流を持つ内に、少しずつ私的な話をするようになったのですが、その中で悩みを打ち明けられたのです。想い合う方ができたけれど、身分が違うので受け入れることができない、と」
「っ!!」
身分の違いからマリアンは一度ロバートを諦めようとしたのだ。
だけどロバートは諦められなかったのだろう。そしてエレノアも諦めさせたくないと思った。
「同時に私は、マリアンをもう一度妃殿下のお傍で仕えさせることはできないかと考えていたのです。なので父に相談しました。友とも妹とも思う方を養女にして貰えないか、と。父はすぐに承諾して下さいました」
エレノアの父、リンメル子爵がマリアンを養女としてすぐに受け入れたのは理解できた。
マリアンは平民とはいえ、ルトビア公爵家の血筋の娘だ。父親も一族の重鎮として尊重されている。それにロバートとの縁談が決まっているのなら、モルガン伯爵家とも繋がりを持てる。
リンメル子爵にとってはメリットしかない話である。
「マリアンが王宮へ上がれなかったのは身分がなかったせいです。ですが今や子爵令嬢となりました。王子殿下の侍女頭として、これ以上信頼のおける者はいないと存じます。どうかマリアンをお任じ下さいませ」
マリアンがクロウに仕えてくれるのなら、アリシアにとってもこれ以上ないことである。アリシアはレイヴンの顔を窺った。
レイヴンは、マリアンがアリシアへ向ける忠誠を認めてくれているが、マリアンはレイヴンへ敵意を向けていた。
そんな相手に息子の世話を任せてくれるだろうか。
「……アリシアやクロウに何かあった時、必ず僕に報告すること。それが条件だ」
「っ!!」
アリシアは目を見開いた。
レイヴンが言っているのは、アリシアがデミオンに鞭で打たれた時のことだ。あの時、マリアンはアダムに逆らってもアリシアの言葉に従い、それを隠した。
だけど今後同じことがあった時は、必ずレイヴンに報告すること。アリシアやクロウが何と言ったとしても隠すことは許さないと言っているのだ。
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もっと早くレイヴンに相談できていたら、もっと早くにジェーンを救えたかもしれない。
「それじゃあ僕に異論はないよ。マリアンをクロウの侍女頭に任命しよう。ルクセンヌ伯爵夫人と良く相談をしてクロウを守ってくれ」
「ありがとうございます!」
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