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第2部 6章

76 ホームパーティー

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「まあまあ、可愛らしいこと。クロウちゃん、おばあちゃまですよ」

 舞踏会から数週間が経ち、世間が落ち着きを取り戻した頃、アリシアの部屋でちょっとしたホームパーティーが開かれていた。
 集まっているのは国王夫妻とルトビア公爵夫妻、そしてレオナルドがディアナを連れてきている。カナリーも夫のサディアスと共に出席していた。他にもジェイやアイビス、ノティスにパトリシアがいる。

 誕生祝いのあれやこれやが終わってホッと一息ついた休日。皆がクロウを見に行きたいと希望するのも道理だろう。
 方々から届く訪問の予定伺いに、それならばとこちらから招くことにしたのだ。
 勿論皆も状況を理解し、喜んで出席してくれている。

 アリシアはこの日が床上げだった。
 レイヴンはまだ当分ベッドへ入れておきたがっていたが、ジェイやノティスにアリシアの夜着姿を見せるわけにはいかないと渋々了承してくれた。アリシアはこのままいつまでもベッドから出られないような気がしていたので、良い切っ掛けとなり万々歳だ。

「それにしても、これ程殿下にそっくりとは……」

 レオナルドはまだ複雑そうである。反対にレイヴンはちょっとホッとしていた。
 レオナルドとアリシアは、同じ顔をより男らしくしたらレオナルドになり、女らしくしたらアリシアになったという程よく似ている。これでクロウがアリシアに似ていたら、レオナルドの方が父親に見えてしまいそうだ。

 それにレオナルドは、そんなことを言いながらクロウの様子をよく見に来ていた。
 レイヴンがまだ寝室へ執務机を入れているので、書類の持参を口実にアリシアに会いに来て、その帰りにクロウの顔を見ていく。
 おかげでクロウもレオナルドの顔をすっかり覚えてしまって「おじちゃまですよ~」と声を掛ければ、「きゃっきゃ」と嬉しそうに声を上げて両手を振り回していた。

 これで面白くないのはレイヴンだ。
 不貞腐れた顔で「僕の子なのに……」と呟くレイヴンに、マルグリットが「皆知っているわよ」と冷静に言い返す。
 誰も何も言わないけれど、皆心の中で頷いていた。


「クロウちゃま。アイビスよ、初めまして」

 弾んだ声で話し掛けるのはアイビスだ。
 アイビスにとってクロウは数少ない年下の相手である。クロウが笑ってもあくびをしても嬉しいらしく、「笑ったわ!」「可愛い!」と大はしゃぎだ。
 ただ「おばちゃま」とは呼ばれたくないらしく、何度か「おねえちゃまよ」と呼び掛けようとして、チラチラこちらを窺っていた。
 
 そんなアイビスも以前と比べて随分としっかりしてきた。
 もうすぐ11歳になるのでそろそろ婚約者を決める時期だ。子どもでいられるのもあと少しである。


 この日招待客たちは、それぞれクロウへ贈り物を用意してくれていた。
 壮観だったのは国王の贈り物で、丸太で組まれたログハウス風の小屋が庭園に運び込まれた。
 クロウが中で遊ぶのはまだ先のことだが、外を駆けまわるようになれば良い秘密基地になるだろう。それまではアリシアがこっそり入って遊びたいと思ったのは秘密である。

 他にもマルグリットやオレリアはぬいぐるみを用意してくれていた。
 レオナルドからの絵本、カナリーからのシロフォン、パトリシアからのオルゴールと並べられて、ベビーベッドの周りが宝箱のようになっている。

「あの。こちら、私が刺繍を刺したのです」

 ディアナが差し出す包みを開けると、小さな水色の靴下が出てきた。
 シンプルな生地の中に花や蝶の刺繍がされている。刺繍は貴族令嬢の嗜みなので幼い頃から習っていただろうが、小さな靴下に刺すのは大変だっただろう。

「ありがとう。とても素敵だわ」

 アリシアが礼を言うと、ディアナは恥ずかしそうに微笑んだ。
 ディアナは最近レオナルドの婚約者として、公爵領にある孤児院や病院の慰問活動に力を入れているという。それらは嫁ぐ前のアリシアが力を入れていたものだが、しっかり受け継いでくれているらしい。
 孤児院では度々バザーを開き、その売り上げを運営費に充てている。ディアナが刺繍の腕を上げているのは、バザーに出す品を多く用意してくれているからだろう。

「次はあなたたちの結婚式ね」

 そんな様子を見ていたマルグリットが感慨深そうに息を吐いた。
 あなたたちというのは、ディアナとパトリシアのことだ。この春学園を卒業した2人は、それぞれ嫁ぐことになっている。

 隣同士で座ったディアナとパトリシアは顔を見合わせた。
 3年でAクラスに入ったディアナはパトリシアとクラスメイトになり、すっかり仲良くなったようだ。
 以前はアリシアのお茶会に招いていても、1人だけ身分が違うと小さくなっていたが、そんなところもなくなった。次期公爵夫人としての心構えができたようだ。

「とうとうお義姉様ができるのね……」

 アリシアが呟くとディアナは恥ずかしそうに目を伏せた。
 
 


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