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第2部 6章
35 療養計画①
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アリシアが寝付いてから10日も経つと、それぞれそれなりに順応していく。
だけどすぐにまた新しい問題が表面化してくる。間近に迫った王領への視察だ。
レイヴンは「こんな時にアリシアの傍を離れることはできない!」と、視察へ行かないと言って騒いでいる。それを何とかして行かせようと宥めすかしているのがマルグリットやレオナルド、フランクだ。
とはいえ、レイヴンも本当はわかっているのだ。
人も金も多く動く視察を、こんな直前になって取り止めることも延期することもできない。自身の役目をきちんと認識しているレイヴンは、その日が来ればどんなに辛くても視察へ出掛けて行く。
だからマルグリットたちは、「ちゃんと私たちが看ているから心配ないわ」や、「もし何か変化があればすぐにお知らせ致します」と言って少しでもレイヴンの気持ちが軽くなるよう努めていた。
そうして何もできない内にただ月日が流れていく。
度々アリシアの元を訪れては様子を見ていくマルグリットは、何日経っても変化のないアリシアの様子に強い焦燥を覚えていた。
アリシアへ呼び掛けても応えはない。表情さえ動かない。
このまま王太子宮に置いていてはいけない気がした。
「父上も一緒とは……。どうされたのですか?」
理由もわからないままマルグリットに集められた面々はお互いに顔を見合わせた。
場所はアリシアの部屋。集められたのは国王とレイヴン、アダムとオレリアにレオナルドだ。
この場所を選んだのは、アリシアの傍に付き添う人がいなくなるので、何かあった時にすぐ駆けつけられる場所の方が安心だろうと考えたからだ。ここならアリシアにも話が聞こえるかもしれないが、もし何か反応があるならその方が良い。
「急に呼び出してごめんなさいね。驚いたでしょう?」
アダムやレオナルドへ向かって言えば、2人は礼儀正しい態度で「とんでもございません」と応える。
まわりくどい言い方をしても仕方ないので、マルグリットは単刀直入に伝えることにした。
「アリシアを一度王宮から離した方が良いと思うの」
「え?!」
「なに?」
「母上?!何を……っ!!」
声を上げたのは、レオナルド、国王、レイヴンである。
アダムも驚いた顔をしているが、鋼の精神力で声を上げるのを堪えたようだ。オレリアは驚きすぎて声も出ないといったところか。
最も彼らの反応は予想の範囲内だったので、マルグリットは気にすることなく先を続けた。
「しばらく様子を見ていたけれど、このままこうしていても良くなることはないような気がするの。アリシアには強いストレスが掛かっていると侍医長が言っていたでしょう?私も同じ経験をしたからよくわかるのだけど、王宮はアリシアにとって良い環境とは言えないわ」
アリシアの耳に入っているかはわからないが、レイヴンに側妃を娶るよう求める声は大きくなっていた。同時に跡継ぎを生むことなく病に倒れたアリシアを役立たずだと嗤う声も。
幸いなことに王太子宮にはアリシアを慕う者が多いようだが、使用人たちも一枚岩ではない。
もし扉の向こうから、「王太子殿下が側妃を娶るそうよ」「お相手は既に懐妊しているらしい」などと囁かれたら、今のアリシアでは耐えられないだろう。
そうでなくとも療養するのに環境を変えるというのはよくある手だ。
一度ストレスの元となる王宮やレイヴンからも離れて過ごしてみるのが良いのではないだろうか。
「ですが、妃殿下はどこへ……?」
アダムが震える声で問い掛ける。
王太子宮から離すというなら、王都から離れた離宮へ移されることになる。
アリシアにとっては馴染みのない場所だ。そこへ正気をなくしたアリシアを押し込めるというのは、療養というより幽閉ではないだろうか。
「……私は公爵家のマナーハウスへ移してはどうかと思っているの」
「なにっ?!」
一際大きな声を上げたのは国王だった。
マルグリットは国王の顔を静かに見つめた。
だけどすぐにまた新しい問題が表面化してくる。間近に迫った王領への視察だ。
レイヴンは「こんな時にアリシアの傍を離れることはできない!」と、視察へ行かないと言って騒いでいる。それを何とかして行かせようと宥めすかしているのがマルグリットやレオナルド、フランクだ。
とはいえ、レイヴンも本当はわかっているのだ。
人も金も多く動く視察を、こんな直前になって取り止めることも延期することもできない。自身の役目をきちんと認識しているレイヴンは、その日が来ればどんなに辛くても視察へ出掛けて行く。
だからマルグリットたちは、「ちゃんと私たちが看ているから心配ないわ」や、「もし何か変化があればすぐにお知らせ致します」と言って少しでもレイヴンの気持ちが軽くなるよう努めていた。
そうして何もできない内にただ月日が流れていく。
度々アリシアの元を訪れては様子を見ていくマルグリットは、何日経っても変化のないアリシアの様子に強い焦燥を覚えていた。
アリシアへ呼び掛けても応えはない。表情さえ動かない。
このまま王太子宮に置いていてはいけない気がした。
「父上も一緒とは……。どうされたのですか?」
理由もわからないままマルグリットに集められた面々はお互いに顔を見合わせた。
場所はアリシアの部屋。集められたのは国王とレイヴン、アダムとオレリアにレオナルドだ。
この場所を選んだのは、アリシアの傍に付き添う人がいなくなるので、何かあった時にすぐ駆けつけられる場所の方が安心だろうと考えたからだ。ここならアリシアにも話が聞こえるかもしれないが、もし何か反応があるならその方が良い。
「急に呼び出してごめんなさいね。驚いたでしょう?」
アダムやレオナルドへ向かって言えば、2人は礼儀正しい態度で「とんでもございません」と応える。
まわりくどい言い方をしても仕方ないので、マルグリットは単刀直入に伝えることにした。
「アリシアを一度王宮から離した方が良いと思うの」
「え?!」
「なに?」
「母上?!何を……っ!!」
声を上げたのは、レオナルド、国王、レイヴンである。
アダムも驚いた顔をしているが、鋼の精神力で声を上げるのを堪えたようだ。オレリアは驚きすぎて声も出ないといったところか。
最も彼らの反応は予想の範囲内だったので、マルグリットは気にすることなく先を続けた。
「しばらく様子を見ていたけれど、このままこうしていても良くなることはないような気がするの。アリシアには強いストレスが掛かっていると侍医長が言っていたでしょう?私も同じ経験をしたからよくわかるのだけど、王宮はアリシアにとって良い環境とは言えないわ」
アリシアの耳に入っているかはわからないが、レイヴンに側妃を娶るよう求める声は大きくなっていた。同時に跡継ぎを生むことなく病に倒れたアリシアを役立たずだと嗤う声も。
幸いなことに王太子宮にはアリシアを慕う者が多いようだが、使用人たちも一枚岩ではない。
もし扉の向こうから、「王太子殿下が側妃を娶るそうよ」「お相手は既に懐妊しているらしい」などと囁かれたら、今のアリシアでは耐えられないだろう。
そうでなくとも療養するのに環境を変えるというのはよくある手だ。
一度ストレスの元となる王宮やレイヴンからも離れて過ごしてみるのが良いのではないだろうか。
「ですが、妃殿下はどこへ……?」
アダムが震える声で問い掛ける。
王太子宮から離すというなら、王都から離れた離宮へ移されることになる。
アリシアにとっては馴染みのない場所だ。そこへ正気をなくしたアリシアを押し込めるというのは、療養というより幽閉ではないだろうか。
「……私は公爵家のマナーハウスへ移してはどうかと思っているの」
「なにっ?!」
一際大きな声を上げたのは国王だった。
マルグリットは国王の顔を静かに見つめた。
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