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第2部 6章
31 公式発表
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そのまま1週間が過ぎた。
アリシアの体調は変わらない。起き上がると酷い目昧と吐き気に襲われるらしく、ずっと床に伏せたままだ。
アリシアの病は寝込んでから4日目に発表された。
アリシアが担当していた公務もあり、復帰の目途が立たない以上いつまでも隠しているわけにはいかない。アリシアが嫁いで以来毎月開いていたお茶会も、孤児院や病院への慰問もすべて中止された。
レイヴンに群がる令嬢とその親たちは色めき立った。
昨今の状態からアリシアの不調は明らかだったが、王家が公式にそれを認めたのだ。これでアリシアが早期に世継ぎを生む可能性は消えた。こうなってしまえばどれ程レイヴンが嫌がったとしても側妃を迎えるしかない。
アリシアの病が公表されたその日の午後には、レイヴンの執務室の前に複数の令嬢が集まっていた。
だけど令嬢たちはここでレイヴンの知らなかった一面を知ることになる。
執務室から出てきたレイヴンは満面の笑みを浮かべて近づく令嬢たちを一瞥すると、「黙れ」と一言告げて立ち去った。
レイヴンは礼儀を弁えない令嬢たちを咎めたわけでも非難したわけでもない。
だけど外向きの笑顔を湛えたレイヴンしか知らない令嬢たちは、射抜くような冷たい視線を向けられ、「ひぃっ!」と悲鳴を上げて凍り付いた。
令嬢たちに少しでも他人を気遣う気持ちがあれば、レイヴンの目の下に隈があることに気付いただろう。アリシアが寝付いてからまだ4日しか経っていないのに、顔からは生気が消え、僅かに顔の輪郭が細くなっていることも。
それに気づいた僅かな令嬢は、レイヴンがアリシアを心から案じていることを、とても側妃を受け入れるような心境にはなれないことに気がついた。
これは側妃に選ばれる好機ではなく、しばらく側妃選びが先送りされる危機かもしれない。
レイヴンは寝付いたアリシアの面倒をよく見ているという。
アリシアは起き上がれないので食事をするのも横になったままだ。その食事の世話を侍女に任せず3食ともレイヴンが行っている。
アリシアの口元にスプーンで掬ったスープや柔らかく煮込んだ野菜を運ぶ。口から零してしまったりもどしてしまっても嫌な顔をせずに口元を拭ったり着替えさせたりする。
その甲斐甲斐しい姿に王太子宮で勤める侍女たちは、本当に殿下は妃殿下を愛しているのだと密かに涙を拭っていた。
寝付いてしまったアリシアだが、最初の日、目を覚ますと枕元に座るマルグリットやレイヴンと少しだけ話をした。
「お役に立てず、申し訳ありません……」
そう言って謝るアリシアに、マルグリットはあえて明るく応えた。
「何を言っているの?あなたが嫁いで来てから街の人の困り事が正確に王宮の奥まで届くようになったのよ。それにあなたが建てた学校からは若い医師が続々と生まれているのよ。十分務めを果たしてくれているわ」
「そうだよ、アリシア!アリシアが視察に同行するようになってから王領の店が流行るようになったんだよ。皆感謝してるんだ」
アリシアが言っているのは公務のことではない。
マルグリットもレイヴンもそれをわかっていながらわからないふりをした。
実際にアリシアが孤児院や病院へ慰問に行くようになってから、補修工事が必要な道の情報を聞いたり、治安が悪い場所の取り締まりを強化したりすることができた。医師の学校を建てることで地方の医師不足も少しずつ改善するだろう。アリシアと一緒に行ったメトワの調香師には今も注文が殺到しているし、ティナムの装飾品店も貴族たちで大賑わいだという。
アリシアはこれまで役目を果たそうと必死にやってきた。
だけど何より大切で重要な役目を果たせていないので、そこばかりに目が向いてしまうのだ。
「レイヴン様。側妃を……」
そこまで言って、だけど最後までは言えなかった。
言葉を詰まらせるアリシアにレイヴンは身を乗り出して否定をする。
「側妃は迎えない!僕にはアリシアだけだ!」
「レイヴン様……」
レイヴンがはらはらと涙を零すアリシアの涙を拭い、優しく髪を撫でる内にアリシアはまた眠りにつく。
そして次に目が覚めた時、アリシアは表情をなくしていた。
今のアリシアは話をすることも泣くことも笑うこともない。
アリシアの体調は変わらない。起き上がると酷い目昧と吐き気に襲われるらしく、ずっと床に伏せたままだ。
アリシアの病は寝込んでから4日目に発表された。
アリシアが担当していた公務もあり、復帰の目途が立たない以上いつまでも隠しているわけにはいかない。アリシアが嫁いで以来毎月開いていたお茶会も、孤児院や病院への慰問もすべて中止された。
レイヴンに群がる令嬢とその親たちは色めき立った。
昨今の状態からアリシアの不調は明らかだったが、王家が公式にそれを認めたのだ。これでアリシアが早期に世継ぎを生む可能性は消えた。こうなってしまえばどれ程レイヴンが嫌がったとしても側妃を迎えるしかない。
アリシアの病が公表されたその日の午後には、レイヴンの執務室の前に複数の令嬢が集まっていた。
だけど令嬢たちはここでレイヴンの知らなかった一面を知ることになる。
執務室から出てきたレイヴンは満面の笑みを浮かべて近づく令嬢たちを一瞥すると、「黙れ」と一言告げて立ち去った。
レイヴンは礼儀を弁えない令嬢たちを咎めたわけでも非難したわけでもない。
だけど外向きの笑顔を湛えたレイヴンしか知らない令嬢たちは、射抜くような冷たい視線を向けられ、「ひぃっ!」と悲鳴を上げて凍り付いた。
令嬢たちに少しでも他人を気遣う気持ちがあれば、レイヴンの目の下に隈があることに気付いただろう。アリシアが寝付いてからまだ4日しか経っていないのに、顔からは生気が消え、僅かに顔の輪郭が細くなっていることも。
それに気づいた僅かな令嬢は、レイヴンがアリシアを心から案じていることを、とても側妃を受け入れるような心境にはなれないことに気がついた。
これは側妃に選ばれる好機ではなく、しばらく側妃選びが先送りされる危機かもしれない。
レイヴンは寝付いたアリシアの面倒をよく見ているという。
アリシアは起き上がれないので食事をするのも横になったままだ。その食事の世話を侍女に任せず3食ともレイヴンが行っている。
アリシアの口元にスプーンで掬ったスープや柔らかく煮込んだ野菜を運ぶ。口から零してしまったりもどしてしまっても嫌な顔をせずに口元を拭ったり着替えさせたりする。
その甲斐甲斐しい姿に王太子宮で勤める侍女たちは、本当に殿下は妃殿下を愛しているのだと密かに涙を拭っていた。
寝付いてしまったアリシアだが、最初の日、目を覚ますと枕元に座るマルグリットやレイヴンと少しだけ話をした。
「お役に立てず、申し訳ありません……」
そう言って謝るアリシアに、マルグリットはあえて明るく応えた。
「何を言っているの?あなたが嫁いで来てから街の人の困り事が正確に王宮の奥まで届くようになったのよ。それにあなたが建てた学校からは若い医師が続々と生まれているのよ。十分務めを果たしてくれているわ」
「そうだよ、アリシア!アリシアが視察に同行するようになってから王領の店が流行るようになったんだよ。皆感謝してるんだ」
アリシアが言っているのは公務のことではない。
マルグリットもレイヴンもそれをわかっていながらわからないふりをした。
実際にアリシアが孤児院や病院へ慰問に行くようになってから、補修工事が必要な道の情報を聞いたり、治安が悪い場所の取り締まりを強化したりすることができた。医師の学校を建てることで地方の医師不足も少しずつ改善するだろう。アリシアと一緒に行ったメトワの調香師には今も注文が殺到しているし、ティナムの装飾品店も貴族たちで大賑わいだという。
アリシアはこれまで役目を果たそうと必死にやってきた。
だけど何より大切で重要な役目を果たせていないので、そこばかりに目が向いてしまうのだ。
「レイヴン様。側妃を……」
そこまで言って、だけど最後までは言えなかった。
言葉を詰まらせるアリシアにレイヴンは身を乗り出して否定をする。
「側妃は迎えない!僕にはアリシアだけだ!」
「レイヴン様……」
レイヴンがはらはらと涙を零すアリシアの涙を拭い、優しく髪を撫でる内にアリシアはまた眠りにつく。
そして次に目が覚めた時、アリシアは表情をなくしていた。
今のアリシアは話をすることも泣くことも笑うこともない。
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