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第2部 6章

27 思わぬ客人②

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「それでは晩餐の時間までしばらくお寛ぎください」

「ええ、ありがとう。――マーサ」

 アリシアが礼を告げるとマーサはにこりと笑って頭を下げた。
 そっと部屋から退出していく。



「滞在中のアリシア様のお世話をさせていただく侍女を紹介致します」
 
 玄関ホールで家令に声を掛けられたアリシアは驚いた。
 美しい姿勢で立っているのはクレールだ。
 クレールは柔和な笑顔でマーサを紹介してくれた。

 クレールもマーサも王都の侯爵邸で働く者たちだ。
 だけどアリシアが来ると知って、ジェーンはその数日間だけ領地と王都の使用人を入れ替えていた。
 アリシアをよく知っている人たちの方が親身になって世話をしてくれる。お忍びでの滞在を外へ漏らすこともないだろうという配慮だった。

 正直なところアリシアはほっとしていた。
 ジェーンと仲が良いといってもこれまで王都の侯爵邸しか訪れたことがなく、領地へ来るのは初めてのことだ。
 ここの人たちにとってはアリシアもレオナルドもサンドラとジェーンを苦しめたデミオンの身内でしかない。きっと歓迎されないだろうと思っていた。

 だけどクレールやマーサは違う。王都の邸でもアリシアたちを歓迎してくれていた。
 そう思って見渡してみれば、ホールに集まる使用人たちは皆見知った者たちだった。
 皆再会を喜びながらアリシアの姿に胸が痛いといった複雑な表情をしている。

 次に憂鬱なのが晩餐だった。
 今日は朝から調子が良く、いつもより食べられたといっても半分くらいだ。それもアリシアの為に用意された、いわば病人食である。
 客人を持て成そうと用意された豪華な食事にほとんど手を付けずに残してしまうのも、無理をして部屋でもどすのも申し訳ない。

 だけどジェーンはそれも考えていてくれた。

「アリシア様のお身体のことはレオ兄様から聞いています。無理はなさらないで下さい」

 密かにそう伝えてくれたジェーンは、食べられそうなものだけ食べれば良いと言う。ドレスも正装ではなく、コルセットをつけない楽なワンピースにしようと言ってくれた。
「ワンピースの方が楽ですものね」
 そう言って笑うジェーンは長い間怪我のせいでコルセットをつけることができなかった。無理をしてつけるコルセットがどれだけ苦しいか知っているのだ。
 アリシアはその言葉に甘えさせてもらうことにした。


 マーサに手伝ってもらい、晩餐用のワンピースに着替える。
 化粧は顔色を隠す為に濃く塗っているし、髪は帽子で隠れるようひっつめ髪だ。
 それをマーサは顔色を変えず整えていく。終わった時には少しは見れる姿になっていた。


 
 供された食事はアリシアが好きなものばかりだった。
 フルコースだが一皿一皿の量は通常より少なく盛り付けられている。沢山残してしまうより元から少なくしている方が心理的に楽だと考えてくれたのだろう。
 その心遣いが嬉しく、アリシアは楽な気持ちで食事を口にすることができた。
 

 食事は和やかに進んだ。
 ジェーンに話したいことはあるが、この場で話すことはできない。
 夕食後ジェーンの部屋でじっくりと話したい。

 食事後のことを考えそわそわするアリシアは、レオナルドがじっと見ていることに気がついていなかった。

 
 食事も終盤に差し掛かってきた頃だ。
 クレールがやってきてジェーンに何かを告げる。
 ジェーンが頷くと食堂の扉が開かれ、男性が入ってきた。

「義姉上がいらっしゃっていると聞いて、ご挨拶に伺いました」

「ノティス殿下……っ?!」

 アリシアが驚いて声を上げる。
 こちらに向かい、軽く頭を下げた男性は確かにノティスだった。



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