599 / 697
第2部 6章
27 思わぬ客人②
しおりを挟む
「それでは晩餐の時間までしばらくお寛ぎください」
「ええ、ありがとう。――マーサ」
アリシアが礼を告げるとマーサはにこりと笑って頭を下げた。
そっと部屋から退出していく。
「滞在中のアリシア様のお世話をさせていただく侍女を紹介致します」
玄関ホールで家令に声を掛けられたアリシアは驚いた。
美しい姿勢で立っているのはクレールだ。
クレールは柔和な笑顔でマーサを紹介してくれた。
クレールもマーサも王都の侯爵邸で働く者たちだ。
だけどアリシアが来ると知って、ジェーンはその数日間だけ領地と王都の使用人を入れ替えていた。
アリシアをよく知っている人たちの方が親身になって世話をしてくれる。お忍びでの滞在を外へ漏らすこともないだろうという配慮だった。
正直なところアリシアはほっとしていた。
ジェーンと仲が良いといってもこれまで王都の侯爵邸しか訪れたことがなく、領地へ来るのは初めてのことだ。
ここの人たちにとってはアリシアもレオナルドもサンドラとジェーンを苦しめたデミオンの身内でしかない。きっと歓迎されないだろうと思っていた。
だけどクレールやマーサは違う。王都の邸でもアリシアたちを歓迎してくれていた。
そう思って見渡してみれば、ホールに集まる使用人たちは皆見知った者たちだった。
皆再会を喜びながらアリシアの姿に胸が痛いといった複雑な表情をしている。
次に憂鬱なのが晩餐だった。
今日は朝から調子が良く、いつもより食べられたといっても半分くらいだ。それもアリシアの為に用意された、いわば病人食である。
客人を持て成そうと用意された豪華な食事にほとんど手を付けずに残してしまうのも、無理をして部屋でもどすのも申し訳ない。
だけどジェーンはそれも考えていてくれた。
「アリシア様のお身体のことはレオ兄様から聞いています。無理はなさらないで下さい」
密かにそう伝えてくれたジェーンは、食べられそうなものだけ食べれば良いと言う。ドレスも正装ではなく、コルセットをつけない楽なワンピースにしようと言ってくれた。
「ワンピースの方が楽ですものね」
そう言って笑うジェーンは長い間怪我のせいでコルセットをつけることができなかった。無理をしてつけるコルセットがどれだけ苦しいか知っているのだ。
アリシアはその言葉に甘えさせてもらうことにした。
マーサに手伝ってもらい、晩餐用のワンピースに着替える。
化粧は顔色を隠す為に濃く塗っているし、髪は帽子で隠れるようひっつめ髪だ。
それをマーサは顔色を変えず整えていく。終わった時には少しは見れる姿になっていた。
供された食事はアリシアが好きなものばかりだった。
フルコースだが一皿一皿の量は通常より少なく盛り付けられている。沢山残してしまうより元から少なくしている方が心理的に楽だと考えてくれたのだろう。
その心遣いが嬉しく、アリシアは楽な気持ちで食事を口にすることができた。
食事は和やかに進んだ。
ジェーンに話したいことはあるが、この場で話すことはできない。
夕食後ジェーンの部屋でじっくりと話したい。
食事後のことを考えそわそわするアリシアは、レオナルドがじっと見ていることに気がついていなかった。
食事も終盤に差し掛かってきた頃だ。
クレールがやってきてジェーンに何かを告げる。
ジェーンが頷くと食堂の扉が開かれ、男性が入ってきた。
「義姉上がいらっしゃっていると聞いて、ご挨拶に伺いました」
「ノティス殿下……っ?!」
アリシアが驚いて声を上げる。
こちらに向かい、軽く頭を下げた男性は確かにノティスだった。
「ええ、ありがとう。――マーサ」
アリシアが礼を告げるとマーサはにこりと笑って頭を下げた。
そっと部屋から退出していく。
「滞在中のアリシア様のお世話をさせていただく侍女を紹介致します」
玄関ホールで家令に声を掛けられたアリシアは驚いた。
美しい姿勢で立っているのはクレールだ。
クレールは柔和な笑顔でマーサを紹介してくれた。
クレールもマーサも王都の侯爵邸で働く者たちだ。
だけどアリシアが来ると知って、ジェーンはその数日間だけ領地と王都の使用人を入れ替えていた。
アリシアをよく知っている人たちの方が親身になって世話をしてくれる。お忍びでの滞在を外へ漏らすこともないだろうという配慮だった。
正直なところアリシアはほっとしていた。
ジェーンと仲が良いといってもこれまで王都の侯爵邸しか訪れたことがなく、領地へ来るのは初めてのことだ。
ここの人たちにとってはアリシアもレオナルドもサンドラとジェーンを苦しめたデミオンの身内でしかない。きっと歓迎されないだろうと思っていた。
だけどクレールやマーサは違う。王都の邸でもアリシアたちを歓迎してくれていた。
そう思って見渡してみれば、ホールに集まる使用人たちは皆見知った者たちだった。
皆再会を喜びながらアリシアの姿に胸が痛いといった複雑な表情をしている。
次に憂鬱なのが晩餐だった。
今日は朝から調子が良く、いつもより食べられたといっても半分くらいだ。それもアリシアの為に用意された、いわば病人食である。
客人を持て成そうと用意された豪華な食事にほとんど手を付けずに残してしまうのも、無理をして部屋でもどすのも申し訳ない。
だけどジェーンはそれも考えていてくれた。
「アリシア様のお身体のことはレオ兄様から聞いています。無理はなさらないで下さい」
密かにそう伝えてくれたジェーンは、食べられそうなものだけ食べれば良いと言う。ドレスも正装ではなく、コルセットをつけない楽なワンピースにしようと言ってくれた。
「ワンピースの方が楽ですものね」
そう言って笑うジェーンは長い間怪我のせいでコルセットをつけることができなかった。無理をしてつけるコルセットがどれだけ苦しいか知っているのだ。
アリシアはその言葉に甘えさせてもらうことにした。
マーサに手伝ってもらい、晩餐用のワンピースに着替える。
化粧は顔色を隠す為に濃く塗っているし、髪は帽子で隠れるようひっつめ髪だ。
それをマーサは顔色を変えず整えていく。終わった時には少しは見れる姿になっていた。
供された食事はアリシアが好きなものばかりだった。
フルコースだが一皿一皿の量は通常より少なく盛り付けられている。沢山残してしまうより元から少なくしている方が心理的に楽だと考えてくれたのだろう。
その心遣いが嬉しく、アリシアは楽な気持ちで食事を口にすることができた。
食事は和やかに進んだ。
ジェーンに話したいことはあるが、この場で話すことはできない。
夕食後ジェーンの部屋でじっくりと話したい。
食事後のことを考えそわそわするアリシアは、レオナルドがじっと見ていることに気がついていなかった。
食事も終盤に差し掛かってきた頃だ。
クレールがやってきてジェーンに何かを告げる。
ジェーンが頷くと食堂の扉が開かれ、男性が入ってきた。
「義姉上がいらっしゃっていると聞いて、ご挨拶に伺いました」
「ノティス殿下……っ?!」
アリシアが驚いて声を上げる。
こちらに向かい、軽く頭を下げた男性は確かにノティスだった。
0
お気に入りに追加
1,727
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】
臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!?
※毎日更新予定です
※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください
※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる