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第2部 6章
26 思わぬ客人①
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週末がきた。
アリシアは予定通り目立たない質素な服を着て、髪をまとめ上げて帽子で隠す。
2人は寝室に籠っていると見せかけないといけないのでレイヴンは見送りに行くことができない。部屋を出ようとするアリシアを何度も抱き締め、口づけた。
「気をつけてね、アリシア。具合が悪くなったらすぐにレオに言うんだよ」
「ご心配なさらなくても大丈夫ですわ、レイヴン様。私、なんだかとても気分が良いのです」
それは本当だった。
ジェーンにレイヴンの子を生んでもらう。
そう吹っ切れたからなのか、解決の糸口が掴めたからなのか、いつになく体が軽く感じられる。最近はほとんど食べられなかった朝食も半分以上食べることができた。
それはレイヴンも見ていたはずだ。
「確かにいつもより顔色が良く見えるけど……。だけど絶対に無理しないで」
そう言って抱き締めるレイヴンの温もりをアリシアは幸せに受け止めた。
だけどいつまでもそうしているわけにはいかない。
レオナルドの「そろそろ行かなければ遅くなってしまいます」の声で、レイヴンは渋々アリシアを放す。
もう一度だけアリシアからぎゅっと抱き着き、部屋を後にした。
密かに乗り込む馬車は公爵家のものだ。
嫁ぐまでアリシアも毎日使っていた。懐かしく感じながらまずは公爵邸を目指す。そこでキトラへ向かう護衛と合流するのだ。
公爵邸の門をくぐっても人に見られてはいけないのでカーテンを開けることはできない。マリアンに会うのも無理だ。淋しいけれど、望みを果たす為には仕方のないことだと唇を噛みしめ、ぐっと堪えた。
護衛についてくれるのはマーフィーが率いる一団だ。
マーフィーは孤児院訪問の件があってから公爵家に戻っていた。あんなことになってしまったが、元々は優秀な騎士である。アリシアを大切に思い、秘密を守ってくれる人物でもある。
「キトラまで同行致します。必ず御守り致しますのでご安心ください」
「ああ、このまますぐに出発してくれ」
「御意」
扉を開かないままレオナルドとマーフィーが言葉を交わす。
すぐに馬車が動き出した。
騎士に守られた馬車が公爵邸の門を出ていく。
物々しい様子だが、レオナルドがアリシアの為に各地を訪れていたのが功を奏し、馬車を見かけても怪しむ者はいない。レオナルドがまた遠方へ出掛けるのだと思ってくれるだろう。
そうして馬車は走り続け、陽が落ちる頃キトラに着いた。
「ようこそおいでくださいました」
「久しぶりだね、ジェーン。出迎えありがとう」
玄関ホールに入ると出迎えたのは僅かな人数だった。
アリシアが王太子妃でなくても客人を迎えるには淋しい数である。
アリシアの訪問は内密だと予め伝えてあったので、秘密を知る人の数が最小で済むようジェーンが考えてくれたのだろう。
「久しぶりね、ジェーン」
「お久しぶりです、アリシア様」
にこやかに応えるジェーンだが内心では驚いていた。
美しかったアリシアが見る影もない程痩せてしまっている。
領地にいても王都の噂は伝わってきていた。
レイヴンに側妃を娶るよう求める声。
子を生めないアリシアを嘲笑う声。
その中でアリシアの体調が思わしくないようだという声も聞こえていた。
アリシアを取り巻く環境がどれ程厳しかったのか、アリシアのこの姿が物語っている。
だけどそんな中でも私を頼って来てくれた。
ジェーンはそれを嬉しく思う。
これまではジェーンが助けてもらうばかりだった。だけどジェーンだってアリシアを大切に思っているのだ。
アリシアを助ける為なら何でもしてみせる。
少しの間でも嫌なことを忘れて楽しく過ごせるよう努めましょう。
ジェーンは心の中でそう誓った。
アリシアは予定通り目立たない質素な服を着て、髪をまとめ上げて帽子で隠す。
2人は寝室に籠っていると見せかけないといけないのでレイヴンは見送りに行くことができない。部屋を出ようとするアリシアを何度も抱き締め、口づけた。
「気をつけてね、アリシア。具合が悪くなったらすぐにレオに言うんだよ」
「ご心配なさらなくても大丈夫ですわ、レイヴン様。私、なんだかとても気分が良いのです」
それは本当だった。
ジェーンにレイヴンの子を生んでもらう。
そう吹っ切れたからなのか、解決の糸口が掴めたからなのか、いつになく体が軽く感じられる。最近はほとんど食べられなかった朝食も半分以上食べることができた。
それはレイヴンも見ていたはずだ。
「確かにいつもより顔色が良く見えるけど……。だけど絶対に無理しないで」
そう言って抱き締めるレイヴンの温もりをアリシアは幸せに受け止めた。
だけどいつまでもそうしているわけにはいかない。
レオナルドの「そろそろ行かなければ遅くなってしまいます」の声で、レイヴンは渋々アリシアを放す。
もう一度だけアリシアからぎゅっと抱き着き、部屋を後にした。
密かに乗り込む馬車は公爵家のものだ。
嫁ぐまでアリシアも毎日使っていた。懐かしく感じながらまずは公爵邸を目指す。そこでキトラへ向かう護衛と合流するのだ。
公爵邸の門をくぐっても人に見られてはいけないのでカーテンを開けることはできない。マリアンに会うのも無理だ。淋しいけれど、望みを果たす為には仕方のないことだと唇を噛みしめ、ぐっと堪えた。
護衛についてくれるのはマーフィーが率いる一団だ。
マーフィーは孤児院訪問の件があってから公爵家に戻っていた。あんなことになってしまったが、元々は優秀な騎士である。アリシアを大切に思い、秘密を守ってくれる人物でもある。
「キトラまで同行致します。必ず御守り致しますのでご安心ください」
「ああ、このまますぐに出発してくれ」
「御意」
扉を開かないままレオナルドとマーフィーが言葉を交わす。
すぐに馬車が動き出した。
騎士に守られた馬車が公爵邸の門を出ていく。
物々しい様子だが、レオナルドがアリシアの為に各地を訪れていたのが功を奏し、馬車を見かけても怪しむ者はいない。レオナルドがまた遠方へ出掛けるのだと思ってくれるだろう。
そうして馬車は走り続け、陽が落ちる頃キトラに着いた。
「ようこそおいでくださいました」
「久しぶりだね、ジェーン。出迎えありがとう」
玄関ホールに入ると出迎えたのは僅かな人数だった。
アリシアが王太子妃でなくても客人を迎えるには淋しい数である。
アリシアの訪問は内密だと予め伝えてあったので、秘密を知る人の数が最小で済むようジェーンが考えてくれたのだろう。
「久しぶりね、ジェーン」
「お久しぶりです、アリシア様」
にこやかに応えるジェーンだが内心では驚いていた。
美しかったアリシアが見る影もない程痩せてしまっている。
領地にいても王都の噂は伝わってきていた。
レイヴンに側妃を娶るよう求める声。
子を生めないアリシアを嘲笑う声。
その中でアリシアの体調が思わしくないようだという声も聞こえていた。
アリシアを取り巻く環境がどれ程厳しかったのか、アリシアのこの姿が物語っている。
だけどそんな中でも私を頼って来てくれた。
ジェーンはそれを嬉しく思う。
これまではジェーンが助けてもらうばかりだった。だけどジェーンだってアリシアを大切に思っているのだ。
アリシアを助ける為なら何でもしてみせる。
少しの間でも嫌なことを忘れて楽しく過ごせるよう努めましょう。
ジェーンは心の中でそう誓った。
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