574 / 697
第2部 6章
2 国王からの話①
しおりを挟む
レイヴンはアリシアに月のモノがきた日、密かに医務室へ押しかけていた。
アリシアの体調を人一倍気にしているレイヴンが、具合の悪いアリシアを騒ぎ立てずに見守っていたのは懐妊していると思っていたからだ。
だけど月のモノがきたことでその可能性はなくなった。
それならばアリシアのあの体調不良は何なのか。
重大な病気なのではないのか。
そう言って詰め寄るレイヴンに、侍医長は言い辛そうに眉を下げた。
「……恐らくストレスでしょう。ストレスで胃の痛みを感じたり、食事を摂れなくなる方がいます。妃殿下は……、多大なストレスを抱えておられるのだと思います」
「っ!!」
ストレスと言われたら、心当たりがあり過ぎる。
子どものことやアリシアを非難する貴族たちなど色々あるが、その中でもレイヴンに纏わりついている令嬢たちは質が悪い。
馴れ馴れしくレイヴンに触れようとするばかりか、アリシアに暴言を吐く。その場その場できつく咎めているけれど、議会が付いているからか態度を改めようとしない。きっとレイヴンの見えないところでもアリシアに何か言っているだろう。
あの女たちを王都から追い払ってやる。
意気込んで医務室を出たレイヴンだったが、扉の近くで待っていた国王の従者に阻まれた。
国王の執務室へ入ると、国王がしかつめらしい顔でレイヴンを待っていた。
執務机の手前に置かれたソファにはマルグリットが悲痛な顔で座っている。
酷く嫌な予感がした。
国王も王妃もアリシアのことを知っていた。
それも当然のことで、王太子宮を含む内宮を統括管理しているのはマルグリットだ。内宮で体調を崩す者がいればマルグリットへ報告が行く。併せてレイヴンとアリシアの閨の様子もアリシアの月のモノについても報告されている。
2人とも何も言っていなかったが、レイヴンやアリシアと同じ様に初めての孫を期待して、そして落胆していたのだ。
その後国王は何かを言おうとして言い辛そうに視線を伏せる。
これからが本題だった。
「そなたたちを取り巻く環境は理解している。その上で……、そなたを囲む令嬢たちを表立って非難するのは止めるんだ」
「陛下?!」
「そなたに子が生まれるまで議会は側妃候補を立て続ける。令嬢たちは側妃に選ばれようと競い続ける。それを1人1人罰していればとんでもない数になる。それはわかっているだろう」
「……それは、」
「側妃になりたいと望むすべての令嬢を処分するのか?忘れるな、そなたがどう言おうとこれまで3年で子ができなければ側妃を迎えてきたんだ。これまで続いていた慣習を変えるというのはそんなに簡単なことではない」
「…………」
「これまで認められていたことが認められなくなった。それだけでも貴族たちは不満を募らせている。そこへ側妃になりたいと望んだからと立て続けに令嬢を処分すればどうなるか。処分を受け没落する家が1つや2つの内はまだ良い。10も20も出てこれば、中央の勢力バランスはめちゃくちゃになる。国政にも影響が出るだろう。そしてそうして没落した家の者たちは、そなたやアリシアへの恨みを募らせる。その者たちが手を組めば内乱が起こるかもしれない」
「……はい」
それはレイヴンもレオナルドも理解していた。
去年の段階でレイヴンに纏わりつく令嬢をすべて排除しなかったのはきりがないからだ。だから特別酷い態度のガーモット伯爵令嬢を見せしめにして自ら身を引かせるように仕向けた。
だけどその反動も大きく、貴族たちの批判はレイヴンに側妃を薦めようとしないアリシアへ向かっている。同じことをしてもアリシアへの非難が強まるだけだろう。
「目に余る態度の令嬢には、本人ではなくその家にこちらから抗議文を送る。そなたからは何もするな」
アリシアが王太子妃である以上、アリシアへの無礼は王家への無礼である。
王家への無礼を見逃せば王権に傷がつく。
だから国王から正式に抗議する。それで弁えなければ不敬罪だ。
国王と王妃が王家として対処するというなら任せるしかない。
「……かしこまりました」
レイヴンは胸に手を当て一礼をした。
アリシアの体調を人一倍気にしているレイヴンが、具合の悪いアリシアを騒ぎ立てずに見守っていたのは懐妊していると思っていたからだ。
だけど月のモノがきたことでその可能性はなくなった。
それならばアリシアのあの体調不良は何なのか。
重大な病気なのではないのか。
そう言って詰め寄るレイヴンに、侍医長は言い辛そうに眉を下げた。
「……恐らくストレスでしょう。ストレスで胃の痛みを感じたり、食事を摂れなくなる方がいます。妃殿下は……、多大なストレスを抱えておられるのだと思います」
「っ!!」
ストレスと言われたら、心当たりがあり過ぎる。
子どものことやアリシアを非難する貴族たちなど色々あるが、その中でもレイヴンに纏わりついている令嬢たちは質が悪い。
馴れ馴れしくレイヴンに触れようとするばかりか、アリシアに暴言を吐く。その場その場できつく咎めているけれど、議会が付いているからか態度を改めようとしない。きっとレイヴンの見えないところでもアリシアに何か言っているだろう。
あの女たちを王都から追い払ってやる。
意気込んで医務室を出たレイヴンだったが、扉の近くで待っていた国王の従者に阻まれた。
国王の執務室へ入ると、国王がしかつめらしい顔でレイヴンを待っていた。
執務机の手前に置かれたソファにはマルグリットが悲痛な顔で座っている。
酷く嫌な予感がした。
国王も王妃もアリシアのことを知っていた。
それも当然のことで、王太子宮を含む内宮を統括管理しているのはマルグリットだ。内宮で体調を崩す者がいればマルグリットへ報告が行く。併せてレイヴンとアリシアの閨の様子もアリシアの月のモノについても報告されている。
2人とも何も言っていなかったが、レイヴンやアリシアと同じ様に初めての孫を期待して、そして落胆していたのだ。
その後国王は何かを言おうとして言い辛そうに視線を伏せる。
これからが本題だった。
「そなたたちを取り巻く環境は理解している。その上で……、そなたを囲む令嬢たちを表立って非難するのは止めるんだ」
「陛下?!」
「そなたに子が生まれるまで議会は側妃候補を立て続ける。令嬢たちは側妃に選ばれようと競い続ける。それを1人1人罰していればとんでもない数になる。それはわかっているだろう」
「……それは、」
「側妃になりたいと望むすべての令嬢を処分するのか?忘れるな、そなたがどう言おうとこれまで3年で子ができなければ側妃を迎えてきたんだ。これまで続いていた慣習を変えるというのはそんなに簡単なことではない」
「…………」
「これまで認められていたことが認められなくなった。それだけでも貴族たちは不満を募らせている。そこへ側妃になりたいと望んだからと立て続けに令嬢を処分すればどうなるか。処分を受け没落する家が1つや2つの内はまだ良い。10も20も出てこれば、中央の勢力バランスはめちゃくちゃになる。国政にも影響が出るだろう。そしてそうして没落した家の者たちは、そなたやアリシアへの恨みを募らせる。その者たちが手を組めば内乱が起こるかもしれない」
「……はい」
それはレイヴンもレオナルドも理解していた。
去年の段階でレイヴンに纏わりつく令嬢をすべて排除しなかったのはきりがないからだ。だから特別酷い態度のガーモット伯爵令嬢を見せしめにして自ら身を引かせるように仕向けた。
だけどその反動も大きく、貴族たちの批判はレイヴンに側妃を薦めようとしないアリシアへ向かっている。同じことをしてもアリシアへの非難が強まるだけだろう。
「目に余る態度の令嬢には、本人ではなくその家にこちらから抗議文を送る。そなたからは何もするな」
アリシアが王太子妃である以上、アリシアへの無礼は王家への無礼である。
王家への無礼を見逃せば王権に傷がつく。
だから国王から正式に抗議する。それで弁えなければ不敬罪だ。
国王と王妃が王家として対処するというなら任せるしかない。
「……かしこまりました」
レイヴンは胸に手を当て一礼をした。
0
お気に入りに追加
1,727
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました
ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。
それは王家から婚約の打診があったときから
始まった。
体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。
2人は私の異変に気付くこともない。
こんなこと誰にも言えない。
彼の支配から逃れなくてはならないのに
侯爵家のキングは私を放さない。
* 作り話です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる