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番外編
アリシアの誕生日 12 (終)
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積み上げられた贈り物はひとまず後回しにして、夕食を摂ることにした。
2人掛けのダイニングテーブルにすべての料理が並べられ、使用人たちが退室していく。
並べられたメニューはアリシアの好きなものばかりだ。
好みの装飾がされた部屋で好きな人と食べる好きな料理は、これまで味わったことがないような特別な味がした。
夕食が終わるとケーキが運び込まれた。
レイヴンが特別に命じて作らせたらしい。
白いクリームでデコレートされた表面にはたくさんの果物が盛り付けられていた。
「レイヴン様は私が好きなものを覚えてくださっているのですね」
アリシアが微笑む。
生クリームがたっぷり使われたケーキも果物もアリシアが好きなものだ。ケーキに合わせて出された紅茶もアリシアが好きな茶葉が使われていた。
「アリシアが喜んでくれて良かった」
レイヴンがホッとしたように笑う。
アリシアが嬉しいのは好きなものを食べられることではなく、レイヴンがアリシアを喜ばせようと考えてくれることだ。その気持ちが伝わっているだろうか。
アリシアはレイヴンと目を合わせるとにっこり笑った。
「ありがとうございます、レイヴン様。とても嬉しいですわ」
瞬間、レイヴンの顔が赤く染まった。
ケーキを食べた後は応接セットへ移ってレイヴンと並んで座る。
レイヴンの膝に乗せられないのはこれから贈り物を開くからだ。大量の贈り物を一度に開くのは難しいので、レイヴンにいくつか選んでもらうことにした。
ここでまたレイヴンは頭を悩ませる。
どれもアリシアに似合うと思って選んだものだが、気に入ってもらえるのはどれだろうか。
「これかなぁ……。いや、やっぱりこっちから……」
贈り物の包みを持ってうんうん唸るレイヴンにアリシアは苦笑する。
やはりアリシアの気持ちは伝わっていないようだ。
「レイヴン様。私はレイヴン様が私のことを思ってくださっているのが一番嬉しいのですよ?なので何をいただいても気に入らないものなんてありません」
「アリシア……」
レイヴンが目を潤ませる。
アリシアが両手を差し出すとレイヴンは持っていた包みをそっと渡した。
「まあ!可愛らしい」
5つ目の包みを開くと子猫のぬいぐるみが出てきた。
クリッとした目もピンと立った耳も本物の子猫のようだ。愛らしい曲線を描く背中を撫でてみると、もふもふとした柔らかい感触が心地よかった。
「アリシアは猫が好きだよね。それに…可愛いものも好きだと思ったんだけど、どうかな?」
「はい、猫も可愛いものも大好きですわ。ありがとうございます」
今のアリシアの部屋には可愛らしいものが何も飾られていない。王太子妃には相応しくないからと、可愛いものはすべて置いて来てしまった。
だけどこの部屋になら王太子妃に似つかわしくないものがあっても良いのかもしれない。
アリシアは感謝の気持ちを込めてレイヴンの頬に口づけた。
その後はレイヴンの膝に乗せられ、色んな話をした。
贈り物の中から出てきたクッキーをつまんで互いの口へ運ぶ。
クッキーを口にしたレイヴンがアリシアの指を舐めるので、真似をしてレイヴンの指を舐めたらきつく抱き締められた。
思えばレイヴンの誕生日には毎年一緒に過ごしていたのに、こんな暖かい触れ合いはなかった。
それはレイヴンの誕生日が国事行事であり、一緒に過ごしていても祝う気持ちよりも公務を全うしようという気持ちが大きかったからだ。
本当の意味でレイヴンの誕生日を祝ったことはないのかもしれない。
「レイヴン様。次のレイヴン様の誕生日もこうして一緒に過ごしましょう。当日は無理ですが、その前後の休みの日であれば1日中一緒に過ごせますわ」
「……うん。アリシア、ありがとう」
レイヴンが泣きそうな顔で笑う。
アリシアがレイヴンの頬へ手を伸ばすと、レイヴンの顔が近づいてきて唇が触れた。
そのまま深く口づけられる。
この日、初めてこの部屋のベッドが使われることになった。
2人掛けのダイニングテーブルにすべての料理が並べられ、使用人たちが退室していく。
並べられたメニューはアリシアの好きなものばかりだ。
好みの装飾がされた部屋で好きな人と食べる好きな料理は、これまで味わったことがないような特別な味がした。
夕食が終わるとケーキが運び込まれた。
レイヴンが特別に命じて作らせたらしい。
白いクリームでデコレートされた表面にはたくさんの果物が盛り付けられていた。
「レイヴン様は私が好きなものを覚えてくださっているのですね」
アリシアが微笑む。
生クリームがたっぷり使われたケーキも果物もアリシアが好きなものだ。ケーキに合わせて出された紅茶もアリシアが好きな茶葉が使われていた。
「アリシアが喜んでくれて良かった」
レイヴンがホッとしたように笑う。
アリシアが嬉しいのは好きなものを食べられることではなく、レイヴンがアリシアを喜ばせようと考えてくれることだ。その気持ちが伝わっているだろうか。
アリシアはレイヴンと目を合わせるとにっこり笑った。
「ありがとうございます、レイヴン様。とても嬉しいですわ」
瞬間、レイヴンの顔が赤く染まった。
ケーキを食べた後は応接セットへ移ってレイヴンと並んで座る。
レイヴンの膝に乗せられないのはこれから贈り物を開くからだ。大量の贈り物を一度に開くのは難しいので、レイヴンにいくつか選んでもらうことにした。
ここでまたレイヴンは頭を悩ませる。
どれもアリシアに似合うと思って選んだものだが、気に入ってもらえるのはどれだろうか。
「これかなぁ……。いや、やっぱりこっちから……」
贈り物の包みを持ってうんうん唸るレイヴンにアリシアは苦笑する。
やはりアリシアの気持ちは伝わっていないようだ。
「レイヴン様。私はレイヴン様が私のことを思ってくださっているのが一番嬉しいのですよ?なので何をいただいても気に入らないものなんてありません」
「アリシア……」
レイヴンが目を潤ませる。
アリシアが両手を差し出すとレイヴンは持っていた包みをそっと渡した。
「まあ!可愛らしい」
5つ目の包みを開くと子猫のぬいぐるみが出てきた。
クリッとした目もピンと立った耳も本物の子猫のようだ。愛らしい曲線を描く背中を撫でてみると、もふもふとした柔らかい感触が心地よかった。
「アリシアは猫が好きだよね。それに…可愛いものも好きだと思ったんだけど、どうかな?」
「はい、猫も可愛いものも大好きですわ。ありがとうございます」
今のアリシアの部屋には可愛らしいものが何も飾られていない。王太子妃には相応しくないからと、可愛いものはすべて置いて来てしまった。
だけどこの部屋になら王太子妃に似つかわしくないものがあっても良いのかもしれない。
アリシアは感謝の気持ちを込めてレイヴンの頬に口づけた。
その後はレイヴンの膝に乗せられ、色んな話をした。
贈り物の中から出てきたクッキーをつまんで互いの口へ運ぶ。
クッキーを口にしたレイヴンがアリシアの指を舐めるので、真似をしてレイヴンの指を舐めたらきつく抱き締められた。
思えばレイヴンの誕生日には毎年一緒に過ごしていたのに、こんな暖かい触れ合いはなかった。
それはレイヴンの誕生日が国事行事であり、一緒に過ごしていても祝う気持ちよりも公務を全うしようという気持ちが大きかったからだ。
本当の意味でレイヴンの誕生日を祝ったことはないのかもしれない。
「レイヴン様。次のレイヴン様の誕生日もこうして一緒に過ごしましょう。当日は無理ですが、その前後の休みの日であれば1日中一緒に過ごせますわ」
「……うん。アリシア、ありがとう」
レイヴンが泣きそうな顔で笑う。
アリシアがレイヴンの頬へ手を伸ばすと、レイヴンの顔が近づいてきて唇が触れた。
そのまま深く口づけられる。
この日、初めてこの部屋のベッドが使われることになった。
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