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第2部 5章

76 歓迎②

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 歓迎は晩餐の席でも続いた。
 宿にはヴァルシャ伯爵夫妻と娘たちだけではなく、伯爵家の親族も多く顔を揃えている。伯爵夫妻の兄弟や従兄妹なども子どもたちを連れて訪れていた。
 ただそれは、なんとかレイヴンの目に留まるよう親族中から年頃の令嬢をかき集めたというわけではなく、少しでも多く親族の顔を売り、王族との繋がりを持たせようという目的のようだ。それを証拠に令嬢たちはレイヴンに秋波を送るのではなく、ジェリーたちと同じようなきらきらした瞳をレイヴンとアリシアへ向けている。
 そんな令嬢たちの視線に最初は困惑していたレイヴンとアリシアだが、会話を交わす内にその理由に思い当った。

「殿下と妃殿下は強い絆で結ばれているのですね」

「そのお2人の間に入り込もうとは、なんと愚かな令嬢でしょう!」

「ですが殿下は大勢の前で妃殿下を庇われたのでしょう。素晴らしいですわ!」

「正に真実の愛ですわ!!」

 前のめりに2人を称える令嬢たちにアリシアたちは思わず仰け反ってしまう。
 つまり令嬢たちは、以前舞踏会でレイヴンがガーモット伯爵令嬢ジェンナに言い放った言葉を知っているのだ。
 ジェンナはアリシアが隣にいるにも関わらず、側妃に選ばれようとレイヴンに纏わりついていた。そのジェンナに、レイヴンは「白い結婚で良ければ側妃にしてやる」と言い放ったのだ。ジェンナはその場で凍り付いていた。

 ガーモット伯爵を含め、多くの貴族たちの反感を買ったこの言葉だが、年若い令嬢たちにはアリシアへの愛情を示す言葉として好感を持たれたようだ。そして困難にあっても愛を貫き通す理想のカップルとして2人に憧れを抱いている。
 2人は称えるべきカップルで、2人の間を邪魔するべきではないと信じる少女たちは、レイヴンの側妃になりたいという思いなんて欠片も持っていなかった。

 2人に友好的ではあるものの、未だ跡継ぎがいないことや慣例を無視して側妃を拒否するレイヴンに思うところがある大人たちは微妙な顔つきをしているが、令嬢たちの勢いは止まらない。

「私も殿下のような方と婚約したいですわ」

「本当に……。殿下のように一途で情熱的な方と婚約できれば幸せでしょうね」

「お2人は私たちの憧れです!!」

 そう言われては、婚約者時代の2人の関係を知っている大人たちは益々顔を顰めた。
 2人はずっと表面的な関係しかなかったし、レイヴンには学生時代婚約者の従姉を想っているという噂があったのだ。
 シェリーは学園でその噂を聞いているはずなのに目を輝かせているのは、ジェーンの懐妊や愛人にするという噂と同様に学園での噂も間違いだったと認識されているのだろうか。

 曇りのない瞳で2人を見つめる少女たちに、当初の懸念とは違った理由で居心地の悪さを感じながら、レイヴンとアリシアは晩餐とその後のティータイムを乗り切った。
 伯爵たちに見送られて部屋へ戻った頃には2人共ぐったり疲れ果て、旅の疲れもあってベッドに入るとあっという間に眠り込んでいた。

 しかもそれはヴァルシャ伯爵家だけのことではなかった。
 宿地としてルトビア公爵家の派閥の領や友好的な領ばかりを選んだからだろうか。ティナムに着くまですべての宿で同じことが起きたのである。




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