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第2部 5章

71 嬉しい報せ

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 アリシアたちとのお茶会の後、引継ぎを済ませたジェーンは領地へ発った。
 次にいつ会えるのかわからない。
 ジェーンの気持ちとしては、年に数回ある王家主催の舞踏会には顔を繋ぐ為にも出席したいところだが、それも領地の状況によっては叶わないこともある。
 だけど何年会えなかったとしても2人の関係が変わることはない。
 アリシアは自分の道を歩き出したジェーンを誇らしい気持ちで見送った。
 


 それからも時間は変わらず過ぎていく。
 アリシアは毎月「今月こそは」と期待をして、月のモノが来てはがっかりする。
 レイヴンは何も言わずに優しく抱き締めてくれるけれど、アリシアの中では段々と焦る気持ちが強くなってきていた。

 それでもアリシアの日常は変わらない。
 王太子妃としての執務を行い、月に一度お茶会を開く。孤児院や病院への慰問も続けている。
 アリシアと言葉を交わした者たちは、いつも通りの笑顔を見せるアリシアにそんな暗い気持ちがあるなんて気づいていないだろう。



「皆様、お久しぶりですね」

「御無沙汰してしまい、申し訳ございません。また、舞踏会では折角お心添えをいただきましたのに、欠席してしまって申し訳ございませんでした」

「本日はお招きいただき、ありがとうございます」

「またこうしてお会いできて嬉しいですわ」
 
 アリシアの言葉にカロリーナ、イリーナ、ジョアニーの3人が揃って頭を下げる。今日はカロリーナたちとのお茶会の日だ。4人で集まるのは随分久しぶりである。 
 カロリーナは使節団の帰国を祝う舞踏会を体調不良で欠席した。
 最後にカロリーナと顔を合わせたのは、舞踏会の前に開いたお茶会の席だ。

 あの舞踏会でアリシアはジェーンに紹介するようカロリーナに頼まれていた。
 それなのに欠席したのだから、余程体調が悪かったということである。あれ以来直接会うのは初めてだが、舞踏会の翌日に詫び状が届いていた。

「気にしないでちょうだい。王領へ発つ前に会えて良かったわ」

 季節は進み、もう冬の入り口である。
 レイヴンとアリシアは翌週から王領の視察に出ることになっている。
 随分と間が空いてしまったお茶会だが、それには理由があった。
 
 友人とはいってもアリシアが招待状を送れば、それは王太子妃からの招待である。余程の理由がない限り断ることはできない。只でさえ舞踏会でのことで借りがあるカロリーナは体調が戻っていなくても無理をして出席するだろう。
 だからアリシアは、カロリーナの体調が完全に回復したと思えるまで待った。
 今日お茶会に招いたのは、カロリーナが他家のお茶会へ出席していたと聞いたからである。
 
「こちらには初めて参りましたが美しい庭園ですね」

「本当に。珍しい花々が沢山あって驚いてしまいます」

 アリシアに薦められて席に着いた3人がそれぞれに感嘆の声を上げる。
 外は寒くてお茶会に適さないので、今日の席は温室に儲けていた。王族に招かれた時しか入ることのできない温室の為、3人共興味深げに辺りを見渡している。

「ところでカロリーナ様。体調はもうよろしいの?」

 すっかり空気が和んだ頃、アリシアは気になっていたことを訊いた。
 カロリーナからの文は詫びが主な内容で、体調についてはあまり書かれていなかったのだ。舞踏会を欠席するほど酷く、回復するまでに数か月掛かっているので気になってしまう。
 
 するとカロリーナは驚いたような顔をして、それから恥ずかしそうに目を伏せた。
 そっと腹部に手を添える。

「それが……。実は懐妊しているのです。具合が悪かったのも悪阻だったようで……。跡継ぎとなる初めての子ですから、落ち着くまで大事を取ろうと外出を控えておりました。心配をお掛けして申し訳ありません」

 瞬間、エレーナとジョアニーから歓声が上がった。
 2人は学生時代からカロリーナと仲が良く、未だ子のいないカロリーナを密かに心配していたのだ。

「おめでとう、カロリーナ!」

「本当に。私も嬉しいわ!」

 華やかに盛り上がる友人たちの中で、アリシアは心が冷えていくのがわかった。
 
 3人の友人の中で、カロリーナだけがまだ子がいなかった。
 カロリーナも私と一緒だと、どこかで安心していたのだろうか。

「――素敵な報告が聞けて嬉しいわ。大事になさってね」

 アリシアもにっこり笑う。
 3人がアリシアを見て態度を変えなかったことだけが救いだった。

 その後お茶会はお祝いムードのまま続いていく。
 3人を見送った後、アリシアは何を話したのか全く覚えていなかった。
 


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