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第2部 5章
47 クリスタル②
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「あら?あの屋台は…」
しばらくレイヴンの肩に凭れてじっとしていたアリシアだったが、ふと顔を上げると小さな声で呟いた。
レイヴンがアリシアの視線を追ってみると、通りの向こうに屋台が見える。去年西瓜の果実水を買った屋台だ。
アリシアはあの果実水を気に入っていた。
「暑いから喉が渇いたよね。買ってこようか」
「……お願いしても?」
「勿論だよ。シアはこのまま座ってて」
そう言ったものの、レイヴンは傍を離れるのを躊躇った。
だけどレイヴンも喉の渇きは感じているし、アリシアが暑さにあたったのなら喉を潤した方が良い。
逡巡した後、「絶対ここを離れないでね」と言い残してレイヴンは屋台へ向かうことにした。
何度も振り返りながら、レイヴンが屋台へ向かっていく。
レイヴンの姿が遠くなると、アリシアは周りを見渡して立ち上がった。
レイヴンが躊躇いながらも屋台へ向かったのは、民衆に紛れて騎士が巡回しているからだ。彼らは警護の対象を認識しているので、見つかればすぐにアリシアだと見抜かれてしまう。
アリシアは辺りに騎士がいないことを確認すると、先程見ていたクリスタルのお店へ向かって駆け出した。
屋台とは距離があるとはいえ、受け渡しが早く、それほど並ぶようなお店ではない。
急がなければレイヴンが戻ってきてしまう。
「おや、お嬢さん」
アリシアが店へ駆け込むと、店番のおばあさんが驚いた顔をした。
だけどアリシアにはおばあさんに構っている余裕がない。
様々な種類の願い事が書かれたクリスタルの中で、アリシアの目を惹いたのは1つだけだ。アリシアは透明のクリスタルを手に取るとおばあさんへ差し出した。
「これを、お願いします」
おばあさんは1人で戻って来たアリシアが、ピンクのクリスタルを選ぶと思っていたようだ。
初々しい恋人たち。
関係が始まったばかりの2人。
そんな風に見えていたのかもしれない。
それなのに透明のクリスタルを手にしたアリシアに、怪訝な顔をする。
透明のクリスタルは、「大願成就」のクリスタルだ。「恋愛成就」や「健康祈願」のように、願い事は決められていない。
何を「大きな願い」とするかはクリスタルを持つ人次第だ。
「何か、叶えたい願いがあるんだねぇ…」
クリスタルを受け取って走り去るアリシアの背中を見つめながら、おばあさんは呟いた。
ベンチまで戻るとアリシアは大きく息を吐いた。
幸い、レイヴンはまだ戻ってきていない。巡回する騎士にも気づかれずに済んだようだ。
アリシアはホッと胸を撫でおろすと、ポケットの膨らみに手を触れた。
クリスタルは小さくて、見ただけではわからないだろう。
あの店へ戻る為に、具合が悪いふりをした。
レイヴンに心配を掛けるとわかっていながら、諦めることができなかったのだ。
クリスタルに願いを叶える力があるなんて信じていない。
気休めのようなもので、ないよりは安心できるくらいのものだろうか。
それなのに‥…、どうしても手に入れたいと思ってしまった。
どうしてこれが欲しかったのか。
どうしてレイヴンと一緒の時に買わなかったのか。
それは考えたくない。
屋台の方へ視線を向けると、レイヴンの姿が見えた。両手に果実水を持ち、急ぎ足でこちらへ向かってくる。
その姿を眺めていると、追い詰められたような気持ちが緩んでくる。
「遅くなってごめんね。大丈夫だった?」
「ええ。何もなかったわ」
アリシアは差し出された果実水を笑顔で受け取る。
並んで飲んだ果実水は、去年と同じ素朴な西瓜の味がした。
しばらくレイヴンの肩に凭れてじっとしていたアリシアだったが、ふと顔を上げると小さな声で呟いた。
レイヴンがアリシアの視線を追ってみると、通りの向こうに屋台が見える。去年西瓜の果実水を買った屋台だ。
アリシアはあの果実水を気に入っていた。
「暑いから喉が渇いたよね。買ってこようか」
「……お願いしても?」
「勿論だよ。シアはこのまま座ってて」
そう言ったものの、レイヴンは傍を離れるのを躊躇った。
だけどレイヴンも喉の渇きは感じているし、アリシアが暑さにあたったのなら喉を潤した方が良い。
逡巡した後、「絶対ここを離れないでね」と言い残してレイヴンは屋台へ向かうことにした。
何度も振り返りながら、レイヴンが屋台へ向かっていく。
レイヴンの姿が遠くなると、アリシアは周りを見渡して立ち上がった。
レイヴンが躊躇いながらも屋台へ向かったのは、民衆に紛れて騎士が巡回しているからだ。彼らは警護の対象を認識しているので、見つかればすぐにアリシアだと見抜かれてしまう。
アリシアは辺りに騎士がいないことを確認すると、先程見ていたクリスタルのお店へ向かって駆け出した。
屋台とは距離があるとはいえ、受け渡しが早く、それほど並ぶようなお店ではない。
急がなければレイヴンが戻ってきてしまう。
「おや、お嬢さん」
アリシアが店へ駆け込むと、店番のおばあさんが驚いた顔をした。
だけどアリシアにはおばあさんに構っている余裕がない。
様々な種類の願い事が書かれたクリスタルの中で、アリシアの目を惹いたのは1つだけだ。アリシアは透明のクリスタルを手に取るとおばあさんへ差し出した。
「これを、お願いします」
おばあさんは1人で戻って来たアリシアが、ピンクのクリスタルを選ぶと思っていたようだ。
初々しい恋人たち。
関係が始まったばかりの2人。
そんな風に見えていたのかもしれない。
それなのに透明のクリスタルを手にしたアリシアに、怪訝な顔をする。
透明のクリスタルは、「大願成就」のクリスタルだ。「恋愛成就」や「健康祈願」のように、願い事は決められていない。
何を「大きな願い」とするかはクリスタルを持つ人次第だ。
「何か、叶えたい願いがあるんだねぇ…」
クリスタルを受け取って走り去るアリシアの背中を見つめながら、おばあさんは呟いた。
ベンチまで戻るとアリシアは大きく息を吐いた。
幸い、レイヴンはまだ戻ってきていない。巡回する騎士にも気づかれずに済んだようだ。
アリシアはホッと胸を撫でおろすと、ポケットの膨らみに手を触れた。
クリスタルは小さくて、見ただけではわからないだろう。
あの店へ戻る為に、具合が悪いふりをした。
レイヴンに心配を掛けるとわかっていながら、諦めることができなかったのだ。
クリスタルに願いを叶える力があるなんて信じていない。
気休めのようなもので、ないよりは安心できるくらいのものだろうか。
それなのに‥…、どうしても手に入れたいと思ってしまった。
どうしてこれが欲しかったのか。
どうしてレイヴンと一緒の時に買わなかったのか。
それは考えたくない。
屋台の方へ視線を向けると、レイヴンの姿が見えた。両手に果実水を持ち、急ぎ足でこちらへ向かってくる。
その姿を眺めていると、追い詰められたような気持ちが緩んでくる。
「遅くなってごめんね。大丈夫だった?」
「ええ。何もなかったわ」
アリシアは差し出された果実水を笑顔で受け取る。
並んで飲んだ果実水は、去年と同じ素朴な西瓜の味がした。
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