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第2部 5章

44 記念日

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「アリシア、デートしよう!」

「デート…ですか?」

「そうだよ。もうすぐ1周年だからね」

 アリシアが首を傾げる。
 レイヴンはそんなアリシアの様子を気にすることなく笑顔でアリシアを抱き寄せた。

 もう少しで初めてアリシアが「愛している」と言ってくれてから1年になる。
 その少し後には初めて王都の街でデートをした。
 どちらもレイヴンにとっては大切な記念日だが、アリシアが覚えていなくても仕方がない。元々アリシアはそういった記念日に拘りがないのだ。

 残念ながら初めてデートをした記念日は週の半ばだったが、初めて愛を告げられた記念日は週末の前日にある。
 この日は1日休みを取ってデートに行く。そしてまた週末を寝室に籠って過ごすのだ。
 最近辛いことの多いアリシアの為に、レオナルドも協力してくれる。

「去年王都の街でデートしてからもうすぐ1年だよ。今年も街へ行こう。ね?」

「あれからもう1年も経つのですか……」

 アリシアが呆然としたように呟いた。
 その気持ちはレイヴンにもわかる。色々なことがあり過ぎて、この1年はあっという間に過ぎてしまった。

「あの日のデートが楽しかったから度々行きたいって思ってたのに、結局1年経ってしまった。今度のデートも思いっきり楽しもうね」

 レイヴンは今でもアリシアが孤児院や病院へ慰問する時は付き添っている。
 だけど慰問の時は護衛騎士も多く連れている為、自由に街を歩くことはできない。街へ行く時はまた身分を隠してお忍びで行くのだ。

「それじゃあまたお兄様が洋服を用意して下さるのかしら」

 アリシアが楽しそうに笑う。
 最近は笑っていても、ふとした時に辛そうな表情を見せていた。
 このデートが少しでも気晴らしになれば良いと思う。

「そうだね。レオに頼んでおいた。レオもアリシアの洋服を選ぶのは楽しいみたいだよ?」

 レオナルドが協力的なのは、王都へ行くのがお忍びだから、というのもあった。
 服装や髪形を変えて身分を隠して行くので、歌劇オペラの時のように挨拶に現れる貴族がいない。
 アリシアを批判する貴族たちも、レイヴンに纏わりつく令嬢もいないのだ。

「素朴なワンピースのアリシアも可愛かったなぁ」

 レイヴンが去年のアリシアを思い出して幸せそうに笑う。
 アリシアも1年前を思い出すと自然に微笑んでいた。




 レイヴンはアリシアが可愛かったと言うが、ラフな格好をしたレイヴンも格好良かったと思う。白いシャツと黒いスキニーパンツがレイヴンのスタイルの良さを引き立てていた。
 あれからレイヴンは剣を鍛錬する時間を増やして鍛えているので更に筋肉がついて体が引き締まっている。きっと街に出れば女性の視線を集めるだろう。
 アリシアは去年レイヴンに視線を向けていた女性たちを思い出すと少しだけモヤモヤした気持ちになってレイヴンに抱き着いた。
 レイヴンは何も言わずに抱き締め返してくれる。

 本当はアリシアにもわかっていた。
 レイヴンもレオナルドも、嫌なことが続いているアリシアを気遣ってくれているのだ。
 哀しい顔は見せない様にしていたつもりなのに、見せてしまっていたのだろうか。

 アリシアがどれだけ繕っていても、2人は本当の気持ちを見抜いてしまう。
 これからはもっと気をつけなければ、と心の中で呟いた。



 
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