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第2部 5章

39 覚悟①

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 この日、レイヴンとアリシアはリベラ侯爵家の舞踏会に来ていた。
 最近ではアルスタから戻る使節団の帰還式典と舞踏会の準備に追われているレイヴンだが、これはカナリーを次期侯爵夫人としてお披露目する為のものである。王籍を離れた後も王家がカナリーの後ろ盾だと示す為にも外すことのできない舞踏会だった。

 レイヴンとアリシアが広間へ足を踏み入れると、そこかしこで黄色い声が上がる。
 あまり臣下の開く舞踏会には参加しないレイヴンだが、これはカナリーの晴れ舞台なので出席するだろうと見込んだ令嬢たちが、レイヴンの訪れを待っていたのだ。
 令嬢たちには隣に立つアリシアが見えていないらしい。

 最近は社交界に出る度に非難を受けるアリシアだが、王宮に引き籠っているわけにもいかない。それは中傷に負けることと同義である。
 アリシアはこれまでと同じように、何を言われても気にしないことにしていた。

 広間へ入ってすぐのところで客人を出迎える侯爵夫妻に挨拶を受け、広間の中へと進んでいく。
 本日の主役であるサディアスとカナリーがすぐに挨拶に訪れた。
 カナリーは薄紅色のドレスを着ていて、初々しくありながらも存在感を放っている。

「王太子殿下、妃殿下。今宵はお出で下さり、ありがとうございます」

「改めて結婚おめでとう、2人とも。2人の幸せを心から願っている」

 形式的な挨拶が終わると、カナリーの表情が緩む。
 サディアスはまだ緊張しているようだが、彼ももう王太子の義弟になったのだ。これからはその立場に慣れていかなくてはならない。

「お義姉様のドレス、素敵ですわ。それはモルガン伯爵領の織物ですわね」

「ええ、そうよ。モルガン伯爵夫人が贈って下さったの」

 アリシアは最近、社交界で着るドレスに苦慮していた。
 レイヴンの色を使ったドレスは貴族たちの悪感情を掻き立てるが、着なくなれば寵愛が薄れたのだと嗤われる。
 そんなアリシアの窮状を知ったアシュリーが、織物を献上すると申し出てくれたのだ。

 モルガン伯爵領の織物は染めも織り目も独特なので見る人が見れば一目でわかる。
 王太子や王太子妃に貴族が特産品を献上するのは良くあることで、献上品にレイヴンの色が使われていないのは当然のことだ。
 モルガン伯爵家は特産品の中でも最上のものを献上することになるが、それをアリシアが社交界で着れば話題になって伯爵領の織物が売れる。現にアリシアのドレスがモルガン伯爵領の織物を使ったものだと気づいた夫人方は感嘆の息を漏らしていた。

 織物を王宮まで届けてくれるのはルーファスだ。
 年越しに合わせて領地に戻ったルーファスだが、年が変わってからも数か月ごとに王都へ来ては国王の執務室で話をしている。最近では同席する大臣や文官たちからその優秀さが広められ、ルトビア公爵家の縁者だから贔屓されているという風評を覆していた。ロバートの陰に隠れていたルーファスの才能が王都で認められたのだ。

 そうして王宮へ通う内に、ルーファスはアリシアの置かれた状況に気がついた。
 知らせを受けたサラはすぐにアシュリーへ報告し、2人で織り物を選んでくれたという。
 それ以来、定期的に織物が届けられている。ルーファスによると、「可愛い姪の為に」と毎回アシュリーが張り切って選んでいるそうだ。



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