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第2部 5章
幕間 ―何気ない日常の記憶―
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「おはよう、アリシア」
「おはようございます、レイヴン様」
朝起きて一番最初に目にするこの笑顔にもすっかり慣れた。
ちゅっちゅっと何度か軽い口づけを交わし、それぞれ身嗜みを整えに行く。
身支度を終えると一緒に朝食を摂る。大抵はアリシアの部屋のテラスだ。
テラスからはアリシアの我儘のせいで植え替えられた庭園が見える。
新しくなった庭園は見事だが、本当は以前の庭園も気に入っていたのだ。
それを告げた時、レイヴンはとても喜んでくれた。
後から聞いた話では、結婚前にレイヴンが1年中どの季節でもアリシアの好きな花が部屋から見られるようにと、庭師に指示して作らせたらしい。
「なぜ私の好きな花をご存知なのですか?」と訊けば、また「〇〇伯爵家の庭園で見ていたから」などと言うのだろう。
そんなにわかりやすく見ていたことなんてないはずなのに。
そう思えば、嫁いできたその日から不思議な程生活に違和感を感じなかった。
出されるお茶もお菓子も好きなものばかりで、食事も好みの味付けだった。
浴室で使われるオイルやクリームは公爵家から持参したものも勿論あったけれど、王宮で用意されていたもののどれもが感触も香りもアリシアの好みにぴったりだった。
それらのことをアリシアはずっと不思議に思うこともなかった。
誰かがアリシアの為に手配してくれたとは思わずに、偶々好みに合うものが揃っていたのだと、与えられたものをただ受け取っていたのだ。
それを思えば、アリシアはレイヴンの好みを何も知らない。
花も香りもお菓子もお茶も、アリシアの好きなものが出てくるばかりで、レイヴンの好きなものが出てくることはなかった。
レイヴンにそれを告げると、レイヴンはきょとんとした顔をする。
そうして花も香りもお菓子もお茶も、「アリシアが喜ぶものが良い」と言うのだ。
アリシアも最近はレイヴンの表情に注意している。
すべてがアリシアの好みに合うよう揃えられたこの部屋で、よく見ていればレイヴンの好きなもの――もしくは嫌いなもの――がわかるのではないかと思っていたけれど、共に過ごすレイヴンはいつもとても幸せそうで、とても表情の変化を見つけることができない。
レオナルドに相談しても、「やっとやって来た蜜月だから、しばらくはそっとしておくと良いよ」と可笑しそうに笑われただけだ。
だからしばらくはこのままで過ごすことにする。
今までと同じように過ごしながら、これまで意識していなかったレイヴンの表情を良く見ていたら、レイヴンの好みがわかる時がきっと来るだろうから。
着替えを終えたレイヴンが部屋へ入ってきてアリシアを抱き締める。
ついさっき別れたばかりなのに、「淋しかった」と頬を寄せる。
そんなレイヴンの背中をそっと抱き締め返して朝食の席に着く。
こうして今日も1日が始まるのだ。
「おはようございます、レイヴン様」
朝起きて一番最初に目にするこの笑顔にもすっかり慣れた。
ちゅっちゅっと何度か軽い口づけを交わし、それぞれ身嗜みを整えに行く。
身支度を終えると一緒に朝食を摂る。大抵はアリシアの部屋のテラスだ。
テラスからはアリシアの我儘のせいで植え替えられた庭園が見える。
新しくなった庭園は見事だが、本当は以前の庭園も気に入っていたのだ。
それを告げた時、レイヴンはとても喜んでくれた。
後から聞いた話では、結婚前にレイヴンが1年中どの季節でもアリシアの好きな花が部屋から見られるようにと、庭師に指示して作らせたらしい。
「なぜ私の好きな花をご存知なのですか?」と訊けば、また「〇〇伯爵家の庭園で見ていたから」などと言うのだろう。
そんなにわかりやすく見ていたことなんてないはずなのに。
そう思えば、嫁いできたその日から不思議な程生活に違和感を感じなかった。
出されるお茶もお菓子も好きなものばかりで、食事も好みの味付けだった。
浴室で使われるオイルやクリームは公爵家から持参したものも勿論あったけれど、王宮で用意されていたもののどれもが感触も香りもアリシアの好みにぴったりだった。
それらのことをアリシアはずっと不思議に思うこともなかった。
誰かがアリシアの為に手配してくれたとは思わずに、偶々好みに合うものが揃っていたのだと、与えられたものをただ受け取っていたのだ。
それを思えば、アリシアはレイヴンの好みを何も知らない。
花も香りもお菓子もお茶も、アリシアの好きなものが出てくるばかりで、レイヴンの好きなものが出てくることはなかった。
レイヴンにそれを告げると、レイヴンはきょとんとした顔をする。
そうして花も香りもお菓子もお茶も、「アリシアが喜ぶものが良い」と言うのだ。
アリシアも最近はレイヴンの表情に注意している。
すべてがアリシアの好みに合うよう揃えられたこの部屋で、よく見ていればレイヴンの好きなもの――もしくは嫌いなもの――がわかるのではないかと思っていたけれど、共に過ごすレイヴンはいつもとても幸せそうで、とても表情の変化を見つけることができない。
レオナルドに相談しても、「やっとやって来た蜜月だから、しばらくはそっとしておくと良いよ」と可笑しそうに笑われただけだ。
だからしばらくはこのままで過ごすことにする。
今までと同じように過ごしながら、これまで意識していなかったレイヴンの表情を良く見ていたら、レイヴンの好みがわかる時がきっと来るだろうから。
着替えを終えたレイヴンが部屋へ入ってきてアリシアを抱き締める。
ついさっき別れたばかりなのに、「淋しかった」と頬を寄せる。
そんなレイヴンの背中をそっと抱き締め返して朝食の席に着く。
こうして今日も1日が始まるのだ。
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