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第2部 5章

28 2度目の視察を①

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「今年の視察の場所と日程が正式に決まったよ」

 休憩時間にアリシアの部屋を訪れたレイヴンがそう言った。
 王領の視察である。
 暖かい今の時期に行くことが多いが、去年は使節団の派遣があって冬になった。今年は使節団が戻る前に、との声もあったが、その前にはカナリーの結婚式という一大イベントがある。結局今年も去年と同じく冬の初め頃に行くことになっていた。
 その日程と場所が正式に決まったということである。

「今年はどこへ?」

「ティナムだよ」

「まあ、大きな港がある場所ですね」

 レイヴンは頷いた。ティナムには大きな港があり、重要な交易港になっている。
 ルトビア公爵家の領地にも港はあるのでアリシアは船も海も見慣れているかもしれないが、王都とは違う景色に触れれば気晴らしになるのではないかと思っていた。

「ただ今回は日に余裕がなくて行程を伸ばせなかったんだ。行きも帰りも移動には3日しか掛けられない。大丈夫かな?」

 メトワへ行った時は片道3日のところを4日掛けて移動した。旅に慣れていないアリシアの為に休憩を多く挟んだからだ。
 今回はそれが難しいと言う。

「ええ、大丈夫ですわ。問題ありません」

 レイヴンは「日に余裕がない」と言ったが、本当はそれだけではないだろう。
 アリシアたちが王都を離れる日にちが伸びれば、それだけ警備の騎士も王都を離れるということだ。騎士の移動にも費用は掛かる。それに宿泊する宿も通常より多く取らなければならない。宿自体を借り切るので費用が嵩む。
 今、社交界ではアリシアへ厳しい視線が向けられている。
 レイヴンはアリシアへの非難を抑える為に、余計な手間や費用を掛けない方が良いと判断したのだ。

「ティナムでは海が見れるのですね。楽しみですわ」

 アリシアはレイヴンの胸に頬を寄せる。
 レイヴンは愛おしそうにアリシアを抱き締めてくれた。




 レイヴンはアリシアを大切にしてくれている。
 王陵への視察に同行するのも、知らない場所へ行ってみたいというアリシアの願いを叶える為だ。
 レイヴンはティナムの話をしてアリシアを喜ばせたかったのだろう。

 アリシアも喜んでいないわけではない。知らない土地を見て歩くのはずっと望んでいたことだ。楽しみに思うしワクワクしている。
 だけど喜び切れない自分がいた。

 ティナムへ行くには往復で6日、馬車で揺られなければならない。
 体に負担がかかるのでもしアリシアが懐妊していれば、レイヴンは同行を許さないだろう。
 つまりレイヴンは、冬の初め、半年先でもアリシアが懐妊していないと思っている。

 アリシアはぶるりと体を震わせた。
 
 レイヴンはアリシアとの子を望んでくれている。
 被害者妄想、なのだろう。誰も世継ぎの話などしていない。

 こんなことを考えてはいけないと思うのに、一度浮かんだ思いは中々忘れられそうになかった。



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