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第2部 5章

25 支え合い②

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 しばらく当たり障りのない会話を交わした後、レオナルドが僅かに姿勢を変えた。
 レオナルドが本当に話したいことはこれからである。

「それで……。お2人をどう思ったかな?」

「……仲が良ろしくて、素敵なご夫妻だと思いました。お2人は本当に想い合っておられるのですね。睦まじいお2人の様子を見ていると、こちらまで幸せな気持ちになれました」

「そう。お2人は、本当に想い合っておられるんだ」

 レオナルドの表情が曇る。
 その理由はディアナにもわかっていた。

 2人は互いに想い合い、幸せそうに見える。
 そう答えたのは嘘ではない。だけどディアナは、2人がただ幸せなだけではないことを知っていた。



「婚姻から3年経ちますのに、まだ懐妊の兆しはないとか……」

「王太子殿下が側妃を迎えられるのも時間の問題ですな」

「殿下は側妃を娶るのを拒んでおられるとか」

「殿下が拒んでおられるのなら、妃殿下からお薦めするのが筋でしょう」

「お世継ぎができぬことをどのように考えておられるのか……」

「妃としての勤めを果たすつもりがないのですわ」

 これらは舞踏会でアリシアに聞こえるよう囁かれていた言葉である。

 ディアナはレイヴンが議会の決めた側妃候補を拒否していることを、いや、側妃を娶ること自体を拒んでいることを知っていた。
 ディアナが羨ましく思う純愛も、王太子という立場では認められないらしい。
 貴族たちはレイヴンの意志が固いとみると、責任感が強く子がいないことを気にしているだろうアリシアを責めることにしたようだ。

 レイヴンは基本的に舞踏会ではアリシアの傍にいる。
 だけど男性には男性の、女性には女性の社交があるので全く傍を離れない、というわけにはいかなかった。
 舞踏会全体から見れば僅かな時間だが、必ず訪れる1人の時間に貴族たちは集中砲火を浴びせるのだ。

 勿論レオナルドが黙って見ているはずがない。
 レオナルドは貴族たちの中傷が始まるとすぐにアリシアの傍へ行く。アリシアの傍に立ち、周りの悪意から守る防波堤になっていた。
 
 だけどアリシアがレイヴンと別れるのは、女性だけの社交の為だ。そこにレオナルドが入ることはできない。
 それに王太子妃が守られてばかりでは体面を傷つけることになる。
 今必要なのは、さり気なく付き添える女性だった。それが結果としてアリシアを守ることになる。
 そしてレオナルドは、その役目をディアナに望んでいた。

「レオナルド様。私でお役に立てるのでしたら、是非お力になりたいと思います。妃殿下にお会いして、すっかり好きになってしまいました」

 アリシアはディアナを身内として受け入れようとしてくれた。
 身内ならば守られるだけではなく、互いに守り合うものだ。

「……ありがとう。助かるよ」
 
 ホッとした様子のレオナルドに、ディアナは微笑んで頷いた。
 アリシアの辛い立場にレオナルドも心を痛めている。アリシアの側にいることは、レオナルドを守ることでもあるのだ。根本的な解決にはならなくても、少しでも力になれると良い。

 ディアナは表情を緩めたレオナルドを見て安堵する。
 この問題を解決する為には、アリシアが懐妊するのをただ待つしかなかった。

 

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