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第2部 5章

15 友人③

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「それで新しいドレスを仕立てられるのですね。お2人が一緒にドレスのデザインを決めておられた話は聞き及んでおります」

「私も聞きましたわ。随分仲睦まじいご様子だったとか」

 ジョアニーとイリーナが微笑んで頷き合う。カロリーナもにこにこしながら話を聞いている。

 歌劇オペラに着ていくドレスの話である。
 デザイナーを呼んでレイヴンと一緒にデザインを決めた。その時の話がデザイナーを通じで広まっているのだ。

 この時呼んだデザイナーはルトビア公爵家の馴染みの者で、ジェーンのドレスを作る時に呼んだ者と同じである。
 人気のデザイナーは貴族の邸に呼ばれることが多い。デザイナーは自身を売り込む為にも王太子夫妻に呼ばれた話を行く先々で披露している。それをわかっているから彼女たちを呼んだという側面もあった。

 アリシアが嫁いでから既に3年が経ち、レイヴンが側妃を迎えても非難を受けることはない。レイヴンの側妃を狙う令嬢たちの動きは活発になっている。
 そんな令嬢たちを牽制する為にも、定期的に2人の仲睦まじい様子を知らしめる必要があるのだ。
 アリシアたちの狙い通り、社交界ではその話で持ち切りである。

「お2人の睦まじい様子を耳にして、私、心から安堵いたしましたの」

 ジョアニーがほぅと息を吐く。
 先日謝罪を受けたように、ジョアニーたちはレイヴンとジェーンの噂を信じていた。
 そのことについてはレイヴンが謝罪を受け入れたことで終わったことになっているが、心の重りは取り除かれていないらしい。
 今は3人共レイヴンとアリシアが互いに想い合っていると知っている。同時に学生時代の2人が心無い噂に心を痛めていたと思っているのだ。

「心配を掛けてごめんなさいね」
 
 アリシアは内心気まずさを感じながら、それを見せないように微笑んだ。
 こんな時、3人とジェーンの違いを思い知らされる。
 学生時代、アリシアやレイヴンの身近にいて2人を見てきたジェーンがそんな心配をすることはない。ジェーンはアリシアが噂を信じていたことも、それを何とも思っていなかったことも知っているのだ。
 そして2人の想いが通じるよう手助けをしてくれたのはジェーンだった。

 この3人はそれを知らない。そして知られてもいけない。
 だけどアリシアはそれで良いと思っている。
 3人はジェーンとは違う、新しい友人なのだ。

 以前レオナルドが言っていた言葉を思い出す。
 大きな秘密を抱えたアリシアたちは、お互いに4人だけしか信じることができなかった。
 だけど心を開いてみれば、マルグリットやレイヴン、カナリーと味方になってくれる人はいたのだ。アリシアは今、カナリーたちを心から信頼している。
 ジョアニーたちともきっと新しい関係を築いていけるだろう。
 
「ドレスが出来上がるのが楽しみですわ。私たちも見ることができれば良いのですが」

「同じ日の公演を取るのは難しいでしょうね……」

 ドレスが出来上がるまでは数か月掛かる。今はお針子たちが必死で作成しているだろう。
 ただ貴族が同じドレスを2度着ることはほとんどない。だから3人は噂のドレスが見れないと嘆いているのだ。
 だけどアリシアは、何度同じドレスを着ても良いと思っている。

「あの、良ければ後日、どこかへ出掛けましょうか」

「まあ!」

「それは素敵ですわ!」

「是非ご一緒させて下さいませ」

 夜間の外出となれば夫妻揃ってとなる。
 侯爵たちも皆忙しくしているので日付が決まるのは随分先になるだろう。
 だけど新たな約束ができた。
 しばらくは楽しく過ごせそうである。




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