498 / 697
第2部 5章
13 友人①
しおりを挟む
「まあ、それでは殿下と歌劇へ?」
「その公演は私も観に行きたいと思っていたのです。羨ましいですわ」
「グランヴァリエは往年の光を取り戻そうとしていますものね。既にチケットの入手は困難だと聞いています」
丸テーブルを囲んだ3人の女性が、アリシアの話を興味深く聞いている。
今日はアリシアが親しくなった友人たちとのお茶会の日だ。
学園で同窓生だった3人はそれぞれ皆結婚している。
伯爵家から侯爵家の嫡男に嫁いだイリーナ、イリーナとは反対に侯爵家から伯爵家へ嫁いだジョアニー、そしてカロリーナは伯爵家の惣領姫として入り婿を迎えた。
レイヴンと開いたお茶会で、遠慮がちに、それでも熱心に話し掛けて来たのはカロリーナだ。
カロリーナは、国王が女性の継承権を認めるよう議会に諮った後、入り婿の夫との仲が上手くいかなくなった。
夫は自分が伯爵位を継ぐと信じて結婚している。だけど女性の継承権が認められればそれが覆されるかもしれない。傍で見ていたカロリーナには、夫の苛立ちや焦りが手に取るようにわかったという。
「本来穏やかな人ですのに、声を荒げることが増えていました。両親もそんな夫を見る内に眉を顰めるようになってしまって…。気がつけば夫は邸の中で孤立していました」
それはジェーンが案じていたことだ。
女性の継承権を認めるのかどうか、議論が長引けば長引くほど家庭内の不和は酷くなる。
できる限り早く決着をつける為にジェーンは議会で話をした。
カロリーナはあの日、議場で傍聴していたという。
「……正直に申し上げると、あの時までジェーン様を恨む気持ちもありました。ですがあの日、議会でジェーン様の話を聞いて、姿を見て、私は自分が恥ずかしくなりました。ジェーン様はあのような境遇でも侯爵家や領地を守る為に自身ができることを必死で務めておられたのに、私は何をしていたのかと。私と夫が上手くいかなくなったのは、彼ときちんと話をしていないから。彼は同じ邸にいるのに、声を荒げても決して暴力を振るう方ではないのに、私は彼から目を逸らして、話し合うことをしていませんでした」
それからカロリーナは何度も夫と話し合ったという。
話し合ってみると、彼は決して人が変わったわけではなかった。
結婚してすぐに伯爵から引き継いだ仕事はそれまでと同じように真面目にこなしていたし、新しい施策の提案をすることもあった。反対に伯爵の方が、婿に手柄を立てさせまいと彼の案を無視していたようだ。
それを聞いたカロリーナはすぐに父へ確かめた。
娘に詰め寄られた伯爵は、気まずそうな顔で頷く。
それは大きな衝撃だった。
女性の継承権はまだ認められていない。
それなのに父は、娘に跡を継がせようと領民の為の施策を無視していたのだ。
こんなことを続けていてはいけない。
そう強く思ったカロリーナは、その後設けた両親と夫との話し合いの中で、例え女性の継承権が認められたとしても爵位を継ぐつもりはないと告げた。
「ジェーン様と違って私は元々領主としての勉強をしていません。学んでいたのは夫の方です。それなのに私が娘だからと取り上げてしまうのは間違っていると思いました」
カロリーナの話を聞いた伯爵夫妻もそれを受け入れた。
娘婿とはすっかり拗れてしまったが、元々跡継ぎにするつもりで2人が婚約した時から育てていたのだ。彼が真面目な性格なのは伯爵夫妻も良く知っていた。
結局、次の跡継ぎはカロリーナが生んだ子にすること。もしカロリーナに子が生まれなければ、伯爵家の血筋から養子を取ること。
それを確約させて、後継者の変更はしないことに決めた。
「その公演は私も観に行きたいと思っていたのです。羨ましいですわ」
「グランヴァリエは往年の光を取り戻そうとしていますものね。既にチケットの入手は困難だと聞いています」
丸テーブルを囲んだ3人の女性が、アリシアの話を興味深く聞いている。
今日はアリシアが親しくなった友人たちとのお茶会の日だ。
学園で同窓生だった3人はそれぞれ皆結婚している。
伯爵家から侯爵家の嫡男に嫁いだイリーナ、イリーナとは反対に侯爵家から伯爵家へ嫁いだジョアニー、そしてカロリーナは伯爵家の惣領姫として入り婿を迎えた。
レイヴンと開いたお茶会で、遠慮がちに、それでも熱心に話し掛けて来たのはカロリーナだ。
カロリーナは、国王が女性の継承権を認めるよう議会に諮った後、入り婿の夫との仲が上手くいかなくなった。
夫は自分が伯爵位を継ぐと信じて結婚している。だけど女性の継承権が認められればそれが覆されるかもしれない。傍で見ていたカロリーナには、夫の苛立ちや焦りが手に取るようにわかったという。
「本来穏やかな人ですのに、声を荒げることが増えていました。両親もそんな夫を見る内に眉を顰めるようになってしまって…。気がつけば夫は邸の中で孤立していました」
それはジェーンが案じていたことだ。
女性の継承権を認めるのかどうか、議論が長引けば長引くほど家庭内の不和は酷くなる。
できる限り早く決着をつける為にジェーンは議会で話をした。
カロリーナはあの日、議場で傍聴していたという。
「……正直に申し上げると、あの時までジェーン様を恨む気持ちもありました。ですがあの日、議会でジェーン様の話を聞いて、姿を見て、私は自分が恥ずかしくなりました。ジェーン様はあのような境遇でも侯爵家や領地を守る為に自身ができることを必死で務めておられたのに、私は何をしていたのかと。私と夫が上手くいかなくなったのは、彼ときちんと話をしていないから。彼は同じ邸にいるのに、声を荒げても決して暴力を振るう方ではないのに、私は彼から目を逸らして、話し合うことをしていませんでした」
それからカロリーナは何度も夫と話し合ったという。
話し合ってみると、彼は決して人が変わったわけではなかった。
結婚してすぐに伯爵から引き継いだ仕事はそれまでと同じように真面目にこなしていたし、新しい施策の提案をすることもあった。反対に伯爵の方が、婿に手柄を立てさせまいと彼の案を無視していたようだ。
それを聞いたカロリーナはすぐに父へ確かめた。
娘に詰め寄られた伯爵は、気まずそうな顔で頷く。
それは大きな衝撃だった。
女性の継承権はまだ認められていない。
それなのに父は、娘に跡を継がせようと領民の為の施策を無視していたのだ。
こんなことを続けていてはいけない。
そう強く思ったカロリーナは、その後設けた両親と夫との話し合いの中で、例え女性の継承権が認められたとしても爵位を継ぐつもりはないと告げた。
「ジェーン様と違って私は元々領主としての勉強をしていません。学んでいたのは夫の方です。それなのに私が娘だからと取り上げてしまうのは間違っていると思いました」
カロリーナの話を聞いた伯爵夫妻もそれを受け入れた。
娘婿とはすっかり拗れてしまったが、元々跡継ぎにするつもりで2人が婚約した時から育てていたのだ。彼が真面目な性格なのは伯爵夫妻も良く知っていた。
結局、次の跡継ぎはカロリーナが生んだ子にすること。もしカロリーナに子が生まれなければ、伯爵家の血筋から養子を取ること。
それを確約させて、後継者の変更はしないことに決めた。
0
お気に入りに追加
1,727
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】
臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!?
※毎日更新予定です
※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください
※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる