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第2部 5章
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「殿下、お疲れなら少し休まれてはどうですか?」
レイヴンの執務室へ入室したレオナルドは、疲れた様子のレイヴンを見て声を掛けた。
ここ最近特に何か大きな事件があったわけではないが、レイヴンの執務はいつも立て込んでいる。それなのに少しも残業をせずに決まった時間にアリシアの元へ戻る為、常に必死で職務に取り組んでいるのだ。
だけど大量の書類を短い時間で処理する為には高い集中力がいる。
そして集中力を維持する為には休憩も必要だった。
「……アリシアのいないところで眠りたくないんだ」
元々執務室の続き部屋には仮眠を取る為のベッドが用意されている。以前はそこで横になることもあった。
だけどあの悪夢を見て以来、レイヴンはアリシアのいない場所で眠るのを恐れるようになっていた。
目が覚めた時にアリシアが隣にいないと思うと耐えられない。
「……仕方ありませんね」
レオナルドが溜息を吐いた。
レオナルドにはあの悪夢について話してある。
アリシアを半年も放っておいたことや、約束を忘れて側妃を優先したことなど、すべてはとても話せなかった。
だけど側妃を迎えたこと。側妃に子が生まれてからはレイヴンがそちらにかまけるようになり、その結果アリシアが身分を捨てて実家に帰ってしまったことを話した。
その時レオナルドに向けられた冷ややかな目をレイヴンは忘れない。
話を聞き終えた後、レオナルドは「流石アリシアですね。アリシアが帰ってくるのなら、僕が全力で守りますよ」と冷たい顔のまま満足そうに頷いていた。
その後、数日は冷たい態度を見せていたレオナルドだったが、このところはもう元に戻っている。
元々夢の話で現実ではないことと、レイヴンの立場としてはどれだけ拒んでいてもこのままでは側妃を迎えないわけにはいかないと知っているからだ。
レオナルドにも立場がある。
アリシアの兄としてもルトビア公爵家の跡取りとしても、望んでいるのはアリシアの子を世継ぎにすることだ。
だけどこのままアリシアに子が生まれなければ、側妃を反対し続けるのも難しい。
一家臣としては早期に世継ぎを定めることの重要性を理解しているからだ。
レイヴンにとって叔父にあたる王弟も、弟も、王家の血を引く者は多数存在している。子がいないまま即位すれば、その中の誰かを担ぎ上げた貴族たちが王位を巡って争うことになるだろう。その危険性を知りながら側妃を拒否するレイヴンは、「次期国王の資格なし」と言われて廃位に追い込まれるかもしれない。
だからレオナルドは、本来なら側近としてレイヴンに側妃を迎えるよう薦めなければならない立場なのだ。
レオナルドはレイヴンに、側妃を迎えるなとは言えない。
だけど、「アリシアを冷遇したら許しません」とは念を押されている。
「……少し早いですが、アリシアのところへ行かれてはどうです?」
勤務時間や休憩時間は決まっていてもきっちり守る必要はない。最終的に1日分の仕事が終わっていれば良いのである。
レオナルドの言葉にレイヴンは目を輝かせて部屋を飛び出した。
「まあ、レイヴン様」
休憩時間より早く訪れたレイヴンに目を丸くしたアリシアだったが、後ろからついて来たレオナルドに「少し休ませて差し上げてくれ」と言われて大体の事情を察することができた。
横になるようレイヴンを促す。
だけどレイヴンは、「アリシアといるのに眠るなんて勿体ない」などと言って嫌がった。
「それじゃあ私も一緒に横になりますから。ね?」
そう言ってアリシアが微笑む。
可愛らしく小首を傾げたアリシアに、レイヴンが逆らえるはずがなかった。
「2刻(約1時間)程で迎えに上がります」
いそいそと寝室へ向かうレイヴンにレオナルドが声を掛ける。
レイヴンに聞こえているかは不明だが、エレノアがしっかり礼をしていたので問題ないだろう。
少しは自分も羽を伸ばそう。
執務棟へ戻りながら、レオナルドは大きく伸びをした。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
少し時間の補足説明を…。
調べると、
①古代~室町時代の「四八刻法」:一刻=30分
②室町時代~江戸時代の「不定時法」:一刻=約2時間
となるようです。
架空の国ですし、このお話では①古代~室町時代の「四八刻法」:一刻=30分を使用しています。
レイヴンの執務室へ入室したレオナルドは、疲れた様子のレイヴンを見て声を掛けた。
ここ最近特に何か大きな事件があったわけではないが、レイヴンの執務はいつも立て込んでいる。それなのに少しも残業をせずに決まった時間にアリシアの元へ戻る為、常に必死で職務に取り組んでいるのだ。
だけど大量の書類を短い時間で処理する為には高い集中力がいる。
そして集中力を維持する為には休憩も必要だった。
「……アリシアのいないところで眠りたくないんだ」
元々執務室の続き部屋には仮眠を取る為のベッドが用意されている。以前はそこで横になることもあった。
だけどあの悪夢を見て以来、レイヴンはアリシアのいない場所で眠るのを恐れるようになっていた。
目が覚めた時にアリシアが隣にいないと思うと耐えられない。
「……仕方ありませんね」
レオナルドが溜息を吐いた。
レオナルドにはあの悪夢について話してある。
アリシアを半年も放っておいたことや、約束を忘れて側妃を優先したことなど、すべてはとても話せなかった。
だけど側妃を迎えたこと。側妃に子が生まれてからはレイヴンがそちらにかまけるようになり、その結果アリシアが身分を捨てて実家に帰ってしまったことを話した。
その時レオナルドに向けられた冷ややかな目をレイヴンは忘れない。
話を聞き終えた後、レオナルドは「流石アリシアですね。アリシアが帰ってくるのなら、僕が全力で守りますよ」と冷たい顔のまま満足そうに頷いていた。
その後、数日は冷たい態度を見せていたレオナルドだったが、このところはもう元に戻っている。
元々夢の話で現実ではないことと、レイヴンの立場としてはどれだけ拒んでいてもこのままでは側妃を迎えないわけにはいかないと知っているからだ。
レオナルドにも立場がある。
アリシアの兄としてもルトビア公爵家の跡取りとしても、望んでいるのはアリシアの子を世継ぎにすることだ。
だけどこのままアリシアに子が生まれなければ、側妃を反対し続けるのも難しい。
一家臣としては早期に世継ぎを定めることの重要性を理解しているからだ。
レイヴンにとって叔父にあたる王弟も、弟も、王家の血を引く者は多数存在している。子がいないまま即位すれば、その中の誰かを担ぎ上げた貴族たちが王位を巡って争うことになるだろう。その危険性を知りながら側妃を拒否するレイヴンは、「次期国王の資格なし」と言われて廃位に追い込まれるかもしれない。
だからレオナルドは、本来なら側近としてレイヴンに側妃を迎えるよう薦めなければならない立場なのだ。
レオナルドはレイヴンに、側妃を迎えるなとは言えない。
だけど、「アリシアを冷遇したら許しません」とは念を押されている。
「……少し早いですが、アリシアのところへ行かれてはどうです?」
勤務時間や休憩時間は決まっていてもきっちり守る必要はない。最終的に1日分の仕事が終わっていれば良いのである。
レオナルドの言葉にレイヴンは目を輝かせて部屋を飛び出した。
「まあ、レイヴン様」
休憩時間より早く訪れたレイヴンに目を丸くしたアリシアだったが、後ろからついて来たレオナルドに「少し休ませて差し上げてくれ」と言われて大体の事情を察することができた。
横になるようレイヴンを促す。
だけどレイヴンは、「アリシアといるのに眠るなんて勿体ない」などと言って嫌がった。
「それじゃあ私も一緒に横になりますから。ね?」
そう言ってアリシアが微笑む。
可愛らしく小首を傾げたアリシアに、レイヴンが逆らえるはずがなかった。
「2刻(約1時間)程で迎えに上がります」
いそいそと寝室へ向かうレイヴンにレオナルドが声を掛ける。
レイヴンに聞こえているかは不明だが、エレノアがしっかり礼をしていたので問題ないだろう。
少しは自分も羽を伸ばそう。
執務棟へ戻りながら、レオナルドは大きく伸びをした。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
少し時間の補足説明を…。
調べると、
①古代~室町時代の「四八刻法」:一刻=30分
②室町時代~江戸時代の「不定時法」:一刻=約2時間
となるようです。
架空の国ですし、このお話では①古代~室町時代の「四八刻法」:一刻=30分を使用しています。
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