上 下
482 / 697
第2部 4章

106 側妃候補の令嬢は②

しおりを挟む
「レイヴン様を、信じています……」

 アリシアはレイヴンの胸に身を凭れさせた。
 レイヴンの言葉や気持ちを疑っているわけではない。レイヴンはアリシアを愛してくれている。
 側妃を娶りたくないというのも、娶らずに済むよう動いているのも本当だろう。
 だけどこのまま子どもを授かることができなければ。

 レイヴンが王太子である以上、必ず跡継ぎを儲けなければならない。
 アリシアが生めないのであれば、生める相手を娶らなければならないのだ。
 マルグリットがアリシアに話をしたのは、その現実と向き合わせ、覚悟を決めさせる為だろう。マルグリットは本来、レイヴンに側妃を娶るよう勧める立場である。
 
「……陛下がルトビア公爵家の一族ばかりを優遇するのを問題視していると聞きました。議会はどのように言っているのですか?」

「………そんなの、ただのこじつけだよ」

 それはアリシアにもわかっていた。
 レイヴンとアリシアの仲を壊す為にジェーンとの噂を利用したように、側妃を迎えさせる為に使える状況はすべて使うというだけだ。
 それでも他の貴族の不満を煽り易い問題である。
 アリシアがじっと見つめていると、レイヴンが嫌々口を開いた。

「……側妃候補の令嬢が学園を卒業した一月後に、娶るようにと……」

 アリシアは息を飲んだ。
 学園の卒業式まであと三月みつきもない。そしてアリシアがレイヴンに嫁いだのも、学園を卒業した一月後だった。
 つまり嫁いで丁度3年後ということである。

「だけど、僕は絶対娶らないから!あいつらの思い通りになんて、絶対にさせない!!アリシアは何も心配しなくて良いんだ!!」

 身を硬くしたアリシアに、レイヴンは必死で言い聞かせる。
 それでもアリシアの凍り付いたような表情は動かなかった。

「………候補の方は?」

「っ!娶らないんだから、誰でも関係ないよ!」

 こんな話は聞かせたくない。
 そう思ったレイヴンは首を振った。
 だけどアリシアは納得しない。

「候補の、方は?」

「……………っ!」

 実際のところ、ルトビア公爵家の対立派閥の令嬢であれば誰でも良いような状況だった。
 初めはちゃんと候補を選んでいた議会も、レオナルドやロバートの妨害で令嬢がどんどん辞退していく。それどころかルトビア公爵家の派閥に寝返る者まで出て来ている。
 そして数少なくなった候補者をレイヴンへ提案しても、レイヴンが受け付けない。候補の令嬢が一巡したところで、「これまで推薦した令嬢の中から1名選んで下さい」となった。

 それでも最有力候補はいる。
 レイヴンが気に入ったわけではなく、候補になる令嬢の中で一番身分が高い令嬢だ。

「………ルシア・ブラウニング侯爵令嬢だ」

「………そうですか」

 アリシアはそれだけ言うと目を伏せた。
 唇が震えている。だけどアリシアはもう涙を零さなかった。
 そんなアリシアをレイヴンが抱き締める。

「アリシアが心配することは何もないよ。側妃は迎えないし、僕の気持ちが誰かに移ることもない」

 アリシアは何も答えず、レイヴンの背中に腕をまわした。
 そのままぎゅっと抱き締める、
 縋りつくようなアリシアの背中を辛そうな表情のレイヴンがそっと撫でた。

 
 この状況を打開する方法はある。
 アリシアが懐妊することだ。
 だけどどちらも子どものことには触れなかった。

 2人は無言のまま、長い時間抱き合っていた。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】

臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!? ※毎日更新予定です ※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください ※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【R18】熱い一夜が明けたら~酔い潰れた翌朝、隣に団長様の寝顔。~

三月べに
恋愛
酔い潰れた翌朝。やけに身体が重いかと思えば、ベッドには自分だけではなく、男がいた! しかも、第三王子であり、所属する第三騎士団の団長様! 一夜の過ちをガッツリやらかした私は、寝ている間にそそくさと退散。まぁ、あの見目麗しい団長と一夜なんて、いい思いをしたと思うことにした。が、そもそもどうしてそうなった??? と不思議に思っていれば、なんと団長様が一夜のお相手を捜索中だと! 団長様は媚薬を盛られてあの宿屋に逃げ込んでやり過ごそうとしたが、うっかり鍵をかけ忘れ、酔っ払った私がその部屋に入っては、上になだれ込み、致した……! あちゃー! 氷の冷徹の団長様は、一体どういうつもりで探しているのかと息をひそめて耳をすませた。

傾国の聖女

恋愛
気がつくと、金髪碧眼の美形に押し倒されていた。 異世界トリップ、エロがメインの逆ハーレムです。直接的な性描写あるので苦手な方はご遠慮下さい(改題しました2023.08.15)

処理中です...