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第2部 4章

105 側妃候補の令嬢は①

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 しばらく無言でアリシアの目元にタオルをあてていたレイヴンだったが、いつまでも黙っているわけにはいかない。
 居住まいを正すと、アリシアへ頭を下げる。

「側妃のこと、黙っててごめん。急にあんなことを聞かされて驚いたと思う。だけど僕に側妃を迎えるつもりはないんだ」

 レイヴンが議会の要求を黙っていたのは、受け入れるつもりがないからだ。

 絶対に側妃を迎えたりしない。
 妃はアリシア1人だけだ。
 不快な話はアリシアの耳に入る前にすべて握り潰してみせる。

 そう思っていたから、これまでアリシアには何も話さず、噂が届かないように徹底した情報統制を行っていた。
 まさかマルグリットが話してしまうとは思っていなかった。

「おやめくださいませ、レイヴン様。頭を下げたりなさらないで」

 アリシアは頭を下げたレイヴンに驚いて声を上げる。
 王太子が無暗に頭を下げるべきではない、というだけではなく、レイヴンが頭を下げるようなことは何もないのだ。

 結婚してもうすぐ3年になる。議会が側妃を娶るよう求めてくるのはわかっていたことだ。
 むしろ今までそんな話が出てこないのを不審に思うべきだった。 
 だけどレイヴンは頭を振る。
 
「側妃なんて受け入れるつもりがないから、アリシアの耳に入る前にすべて片付けるつもりだった。レオもそのつもりで動いていたし、候補者も大分絞られている。ただ、その残っているのが手強くて……」

 この話が持ち上がった時、候補者を調べ上げたレオナルドが様々な方法で辞退させた。
 残っているのは身ぎれいであり、強い野心を持っている者だ。今もレオナルドは自ら辞退させようと手を尽くしている。

「レオだけではなく、ロバート殿も手を貸してくれているんだ。ロバート殿の商会は外国に支店を持っているし、他国との強いパイプを持っているからね。この商会にそっぽを向かれるのは厳しい」

 キャンベル侯爵領の立て直しで忙しいロバートが、年末年始休暇が始まるまで王都にいたのはこの為だった。
 ロバートにとってはアリシアも大切な従妹である。苦しむことがわかっていて側妃を迎えさせることはできない。
 しかも残っているのは、アリシアに強い敵対心を持つ令嬢である。

 ロバートは、候補となる令嬢がいる家の領地から支店をすべて引き上げさせた。
 これで商会を通じて出回っていた外国の商品が領内で手に入らなくなる。他にも商会は多数あるけれど、ロバートの商会しか扱いのない商品もたくさんあるのだ。

 更には商会を通じて他国へ売られていた商品も売れなくなった。
 如才ない職人ならすぐ次の商会と契約することもできるが、難しい工房もある。取引先を失い、困窮した職人が元の工房を捨てて少しずつ別の領地へ移り出している。
 領内の特産品だった物が別の領地の特産品になっていることに、彼らはいつ気づくだろうか。

「だからアリシアは何も心配しなくて良いんだ。僕が側妃を娶ることはないし、別の女性に心変わりすることもない。アリシアを悲しませるようなことは絶対しない」

 そういうとレイヴンは、アリシアの額に口づけた。 
 



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