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第2部 4章
95 時の流れの中で
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「ですが、それではジェーンを見るのは辛かったのではありませんか?マルグリット様はジェーンに良くして下さいました。けれど本当は姿を見るのもお嫌だったのでは……」
それはずっと気に掛かっていたことだった。
デミオンやアンジュの処罰の時も、その後も、マルグリットはジェーンに良くしてくれていた。
だけど本当はサンドラの娘であるジェーンを近くで見るのも嫌だったのではないだろうか。
それに国王もジェーンを気に掛けていた。
世間ではレイヴンが、愛人であるジェーンの為に女性の継承権を認めるよう法を変えるのだと言われていたけれど、国王がサンドラの娘の為に法を変えたとも言えるのだ。
他にも出立前に正殿での晩餐に招いたりしている。
だけどこれにはマルグリットが目を丸くした。
「まあ、そんなことを気にしていたの?」
いつもの様にころころと笑う。
本当に思いがけないことだったようだ。
「そうねぇ。どう説明すれば良いのか難しいのだけれど…。今ではサンドラ殿に対する恨みや怒りは何も残ってないの。むしろ同情する気持ちが強いわね。それに申し訳なく思っているのも本当なのよ」
それだけ時が流れたということなのかしらね、とマルグリットは笑った。
「あの方と結婚をして、初めの内はやっぱりそんな風には思えなかったわ。だけど聞こえてくるデミオン殿の噂はどれも酷いものばかりだったのよ。サンドラ殿がデミオン殿と結婚することになったのは、あの噂のせいだもの。それを思うと気の毒になってしまって……」
マルグリットが遠くを見るような顔をする。
生前のサンドラを思い出しているのだろうか。
「それに今振り返ってみると、サンドラ殿の学園生活は決して楽しいものではなかったでしょう。仲の良い婚約者とお別れをしなければならなかったし、普段の生活でも常に私に気を遣っていて、息を顰めるように過ごしていたわ。だけどあの頃の私は自分の気持ちで手一杯で、サンドラ殿を気遣うことも感謝することもなかったの」
それは仕方のないことではないだろうか。
自分の想う人が気持ちを向ける相手に好意的な気持ちを持つのは難しい。
例え相手に非が無くとも怒りが向くのが通常である。
そういった意味で、マルグリットが抱いた気持ちは正しい。
「そうして一歩離れたところで考えられるようになると、あの方を気の毒に思う気持ちも強くなってきたの。結婚した後も、あの方は気持ちを持て余して苦しんでいたわ。デミオン殿の悪い噂が聞こえる程にね」
初恋を諦めなければならない国王も苦しんでいたのだ。
その中で、せめてサンドラが幸せになっていれば違ったのかもしれない。
だけどサンドラの幸せを壊したのは国王だ。
その後悔と叶わない恋心を国王も持て余していた。
「結婚したからといって簡単に気持ちを変えることはできないわ。こんな話をするのはどうかと思うけれど……。結婚しても初めの頃はあまり閨がなかったの。あの方はサンドラ殿を想っていて、他の女を抱きたくなかったのね。それも仕方のないことかと、私もいつしか諦めてしまったのよ」
結婚したからといって簡単に気持ちを変えることはできない。
それはマルグリットも同じはずである。国王がサンドラを想っているからといってすぐに諦めることはできなかっただろう。
だけど1人で過ごす夜が続く内に、少しずつ気持ちが変わっていった。
「結局3年経っても子どもができずに側妃を迎えることになったわ。それまで閨がほとんどなかったのだもの、子どもなんてできるはずがなかったのよ。陛下は議会が選んだ候補をすぐに受け入れたわ。それがユリア妃よ。私も、陛下が私と子を作る気になれないのなら、別の方に生んでもらうしかないと思ってしまって。だから私は陛下が側妃を迎え入れても何も言わなかったわ」
そう言うと、マルグリットはアリシアの目を見つめた。
「だけどね、レイヴンは違うでしょう。確かにあの子は長い間あなたに酷い態度を取っていたわ。無駄にした時間もあるでしょう。だけど今、側妃を娶りたくないと、妃はあなただけで良いと、議会と闘っているのよ。その気持ちを信じてあげて。例えどんな結果になったとしても」
それはずっと気に掛かっていたことだった。
デミオンやアンジュの処罰の時も、その後も、マルグリットはジェーンに良くしてくれていた。
だけど本当はサンドラの娘であるジェーンを近くで見るのも嫌だったのではないだろうか。
それに国王もジェーンを気に掛けていた。
世間ではレイヴンが、愛人であるジェーンの為に女性の継承権を認めるよう法を変えるのだと言われていたけれど、国王がサンドラの娘の為に法を変えたとも言えるのだ。
他にも出立前に正殿での晩餐に招いたりしている。
だけどこれにはマルグリットが目を丸くした。
「まあ、そんなことを気にしていたの?」
いつもの様にころころと笑う。
本当に思いがけないことだったようだ。
「そうねぇ。どう説明すれば良いのか難しいのだけれど…。今ではサンドラ殿に対する恨みや怒りは何も残ってないの。むしろ同情する気持ちが強いわね。それに申し訳なく思っているのも本当なのよ」
それだけ時が流れたということなのかしらね、とマルグリットは笑った。
「あの方と結婚をして、初めの内はやっぱりそんな風には思えなかったわ。だけど聞こえてくるデミオン殿の噂はどれも酷いものばかりだったのよ。サンドラ殿がデミオン殿と結婚することになったのは、あの噂のせいだもの。それを思うと気の毒になってしまって……」
マルグリットが遠くを見るような顔をする。
生前のサンドラを思い出しているのだろうか。
「それに今振り返ってみると、サンドラ殿の学園生活は決して楽しいものではなかったでしょう。仲の良い婚約者とお別れをしなければならなかったし、普段の生活でも常に私に気を遣っていて、息を顰めるように過ごしていたわ。だけどあの頃の私は自分の気持ちで手一杯で、サンドラ殿を気遣うことも感謝することもなかったの」
それは仕方のないことではないだろうか。
自分の想う人が気持ちを向ける相手に好意的な気持ちを持つのは難しい。
例え相手に非が無くとも怒りが向くのが通常である。
そういった意味で、マルグリットが抱いた気持ちは正しい。
「そうして一歩離れたところで考えられるようになると、あの方を気の毒に思う気持ちも強くなってきたの。結婚した後も、あの方は気持ちを持て余して苦しんでいたわ。デミオン殿の悪い噂が聞こえる程にね」
初恋を諦めなければならない国王も苦しんでいたのだ。
その中で、せめてサンドラが幸せになっていれば違ったのかもしれない。
だけどサンドラの幸せを壊したのは国王だ。
その後悔と叶わない恋心を国王も持て余していた。
「結婚したからといって簡単に気持ちを変えることはできないわ。こんな話をするのはどうかと思うけれど……。結婚しても初めの頃はあまり閨がなかったの。あの方はサンドラ殿を想っていて、他の女を抱きたくなかったのね。それも仕方のないことかと、私もいつしか諦めてしまったのよ」
結婚したからといって簡単に気持ちを変えることはできない。
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そう言うと、マルグリットはアリシアの目を見つめた。
「だけどね、レイヴンは違うでしょう。確かにあの子は長い間あなたに酷い態度を取っていたわ。無駄にした時間もあるでしょう。だけど今、側妃を娶りたくないと、妃はあなただけで良いと、議会と闘っているのよ。その気持ちを信じてあげて。例えどんな結果になったとしても」
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