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第2部 4章
92 訊けない気持ち
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「マルグリット様。私…、マルグリット様にお伺いしたいことが……」
「あら、何かしら?」
以前も一度問い掛けようとして言えなかったことである。
あの時、ふいに浮かんだ疑問をそのまま口にしようとして咄嗟に口を噤んだのは、とんでもなく不敬なことだからだ。
とても口に出して良いことではない。
そう思ったのに、また口にしようとするのはなぜなのか。
それだけ気に掛かっているということなのだろう。
だけど訊き辛いことに違いはない。
中々言い出すことができずに口を開けたり閉じたりしているアリシアを、マルグリットは不思議そうに見ていた。
「?!」
マルグリットに握られたままの手にぎゅっと力が籠められたのを感じてアリシアは顔を上げた。
柔和な笑顔のマルグリットがアリシアを見つめている。
その笑顔は「大丈夫」と言っているように見えた。
「今の私たちは母娘よ、アリシア。執務の時間は終わったの。私は義母として義娘と話しているつもりでいるわ。だからあなたも義娘として話してちょうだい」
義娘として。
それは何を訊いても不敬ではない、ということだろうか。
マルグリットが頷くのに促されるようにして、アリシアは口を開いた。
「マ、マルグリット様は……、陛下を愛しておられないのですか……?」
「………え?」
予想外の問いだったらしく、マルグリットが目を見開いて動きを止めた。
「こんなことを申し上げて申し訳ありません。ですが私、どうしても気になってしまって…」
そう言って項垂れるアリシアを、マルグリットは呆然として見つめていた。
一方扉の向こうでは、国王とレイヴンが同じく動きを止めていた。
我に返ったレイヴンが、恐る恐る国王の顔を窺う。
国王はそれにも気づかない様子で、目を見開いたまま扉を見つめていた。
「私、レイヴン様が側妃を迎えるのは当然のことだと思っていました。その時が来ても取り乱したりせず、レイヴン様が煩わしい思いをしない様に快く受け入れて、側妃になられる方とも良い関係を築けるよう努めようと……。そ、それなのに、実際に話を聞いたら、私、辛くて……っ」
「アリシア」
またぽろぽろと涙を零しだしたアリシアをマルグリットが抱き締める。
本当の母のように優しく背を撫でるマルグリットに、アリシアは堪えきれず嗚咽を漏らした。
しばらくはアリシアの嗚咽だけが室内に響く。
ひとしきり泣いた後、またアリシアが話し出した。
「レイヴン様は、私を愛してくださっています。そのお気持ちは疑っておりません。側妃を迎えるのは、レイヴン様の意思ではない……。それがわかっているのに、こんなに辛くて……。もし、レイヴン様が、その方を愛していると言われたら、私きっと…耐えられません。……ですが、マルグリット様が結婚された時、陛下はサンドラ叔母様…いえ、サンドラ殿を想っておられた。他の方を想っておられる方に嫁ぐのは辛くありませんでしたか?」
マルグリットは国王がサンドラを想っていても気にならなったのだろうか。
それはマルグリットが、国王を愛していないから?
以前浮かんだ疑問が鮮明に蘇る。
レイヴンへの気持ちが変わっただけに、現実のように思えた。
「それに、陛下は5人も側妃を迎えておられます……。陛下が側妃を迎えらるのは、嫌ではありませんでしたか?側妃の方々と良い関係を築けたのは…、陛下を、愛しておられないからでしょうか」
「あら、何かしら?」
以前も一度問い掛けようとして言えなかったことである。
あの時、ふいに浮かんだ疑問をそのまま口にしようとして咄嗟に口を噤んだのは、とんでもなく不敬なことだからだ。
とても口に出して良いことではない。
そう思ったのに、また口にしようとするのはなぜなのか。
それだけ気に掛かっているということなのだろう。
だけど訊き辛いことに違いはない。
中々言い出すことができずに口を開けたり閉じたりしているアリシアを、マルグリットは不思議そうに見ていた。
「?!」
マルグリットに握られたままの手にぎゅっと力が籠められたのを感じてアリシアは顔を上げた。
柔和な笑顔のマルグリットがアリシアを見つめている。
その笑顔は「大丈夫」と言っているように見えた。
「今の私たちは母娘よ、アリシア。執務の時間は終わったの。私は義母として義娘と話しているつもりでいるわ。だからあなたも義娘として話してちょうだい」
義娘として。
それは何を訊いても不敬ではない、ということだろうか。
マルグリットが頷くのに促されるようにして、アリシアは口を開いた。
「マ、マルグリット様は……、陛下を愛しておられないのですか……?」
「………え?」
予想外の問いだったらしく、マルグリットが目を見開いて動きを止めた。
「こんなことを申し上げて申し訳ありません。ですが私、どうしても気になってしまって…」
そう言って項垂れるアリシアを、マルグリットは呆然として見つめていた。
一方扉の向こうでは、国王とレイヴンが同じく動きを止めていた。
我に返ったレイヴンが、恐る恐る国王の顔を窺う。
国王はそれにも気づかない様子で、目を見開いたまま扉を見つめていた。
「私、レイヴン様が側妃を迎えるのは当然のことだと思っていました。その時が来ても取り乱したりせず、レイヴン様が煩わしい思いをしない様に快く受け入れて、側妃になられる方とも良い関係を築けるよう努めようと……。そ、それなのに、実際に話を聞いたら、私、辛くて……っ」
「アリシア」
またぽろぽろと涙を零しだしたアリシアをマルグリットが抱き締める。
本当の母のように優しく背を撫でるマルグリットに、アリシアは堪えきれず嗚咽を漏らした。
しばらくはアリシアの嗚咽だけが室内に響く。
ひとしきり泣いた後、またアリシアが話し出した。
「レイヴン様は、私を愛してくださっています。そのお気持ちは疑っておりません。側妃を迎えるのは、レイヴン様の意思ではない……。それがわかっているのに、こんなに辛くて……。もし、レイヴン様が、その方を愛していると言われたら、私きっと…耐えられません。……ですが、マルグリット様が結婚された時、陛下はサンドラ叔母様…いえ、サンドラ殿を想っておられた。他の方を想っておられる方に嫁ぐのは辛くありませんでしたか?」
マルグリットは国王がサンドラを想っていても気にならなったのだろうか。
それはマルグリットが、国王を愛していないから?
以前浮かんだ疑問が鮮明に蘇る。
レイヴンへの気持ちが変わっただけに、現実のように思えた。
「それに、陛下は5人も側妃を迎えておられます……。陛下が側妃を迎えらるのは、嫌ではありませんでしたか?側妃の方々と良い関係を築けたのは…、陛下を、愛しておられないからでしょうか」
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